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W杯開幕で思う野球ファンの海外志向

豊浦彰太郎Baseball Writer

サッカーの第20回ワールドカップ(W杯)ブラジル大会が始まった。街中でも数々のW杯関連商品やキャンペーンが溢れかえり、テレビのワイドショーもこれに触れないものはない。コンビニでは店員さんがサムライブルーのジャージ姿でレジ打ちをしていると驚いていたら、私の職場でもクールビズの拡大解釈か日本チームのジャージ姿の若手社員を見かけるようになった。

オリンピックでもそうだが、私も時間が許す限りテレビでは観戦するが日本が勝っても負けてもとくにはしゃぐことも落ち込むこともない。野球に限らず一流選手のプレーを見ることは大好きだが、アナウンサーやコメンテーターの著しい日本サイドへの感情的な肩入れや「ニッポン、チャチャチャ!」には抵抗を感じるタイプなのだ。

サッカーの場合、「W杯を頂点とする国際大会には老若男女が熱狂するが、その後Jリーグファンへの固定が少ない」とはかなり前から言われていることだ。これには色々な理由があり、サッカーの門外漢たる私が縷々と私論を述べる愚は避けるべきだと思うが、その一つは日本人特有の「海外の権威性への弱さ」だろう。

これを野球に置き換えてみると、ダルビッシュ有や田中将大にわれわれ日本人は熱狂するのだけれど、それは「本場で権威性を認められたから」である部分が大きいのと同じかもしれない。いや、彼らは日本時代からファンの耳目を集めてはいたが、そのある部分に関しては「近い将来メジャーに渡る可能性が高いから」であることも否定できないだろう。

これほどまでに日本人はメジャーの権威性が大好きなのだけれど、メジャーそのものが好きか?と聞かれると、そうであるファンは相当な少数派だ。映像であれ、活字であれMLBのビジネスコンテンツとしての魅力は「日本人選手」とイコールで結ばれている。

もちろん、日本人のわれわれがW杯での日本チームやMLBでの日本人選手の活躍に熱狂するのは、故郷や母校を愛するのと同様に自然なことだ。現にここ数日、私の自宅の付近でも、普段なら軽く会釈するだけの隣人に「いよいよですねえ」と嬉しそうに話しかけられリアクションにやや苦しんだりしている。それはそれで素晴らしく、微笑ましいことではあるのだけれど、それなら日本の若者はW杯期間中に繁華街の交差点で気勢を挙げるだけでなく、もっとJリーグを応援すべきだと思うし、ダルやマー君の動向に一喜一憂するエネルギーをもう少しクレイグ・キンブレルやトロイ・トウロウィツキにも注いでも良いのではないかと思うのだ。

私は日本で生まれ日本で育ち、留学も海外赴任の経験もないが、欧州に留学中の娘によると学校生活であれ私生活であれ、日本人同士のみの交友関係に終始する留学生は少なくないようだ。それだったら留学なんかするなよ、と言いたいが恐らく彼らにとって「留学した」という事実が日本に残っている知人達に対する差別化のカードとして必要なのだろう。

国際経験を標榜しつつもそのメッセージの宛先は常に日本である、枠を超えられない海外志向という点では、W杯の日本チームやダル、マー君のみに熱狂するスポーツファン心理と根っこでは同じかもしれない。

私はできることなら、世界の一流プレーヤーの技量を堪能することを忘れずにその上で日本人選手を応援したいと思う。野球であれ、サッカーであれ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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