保育園落ちた。復帰できない私は育休切り?これってマタハラ?
●待機児童はマタハラに繋がる可能性あり
認可も無認可保育園も全滅。4月の職場復帰を目指していても、保育園が見つからず復帰出来ない女性が多いこの時期。現在、育児休業制度は最大1歳半まで取得できるが、その時点で保育園が決まらなかった場合に、その後の就労はどうなるのか。「保育園に入れないのなら託児所やベビーシッターを使ってでも復帰の環境を整えろ。昔は育休なんてなかったのだから」と繰り返し上司に言われた。このような発言には耐えるしかないのか。Twitterの「#保育園落ちた2017」には、以下のような切実な投稿も上がっている。
●弁護士に聞いてみた!保育園に入れなかったら退職になってしまうの?
東京都圏雇用労働相談センター(TECC)の相談員である倉持麟太郎弁護士によると、保育園問題がクローズアップされてから、このような相談は労使ともに増えているという。
以下、倉持弁護士の見解----
労働者側からすれば、1年半の育休が終了した時点で保育園に入れなかった場合、金銭的な理由で他の預け先がない場合やサポートしてくれる家族の存在の有無で、引き続き会社に出勤できないことは大いにありうるし、現実にそのような人は数多く存在する。
一方で会社側としては、1年半育休社員のポストを空けて待っていたものの、当該部署がもう回らないという状況が発生することが多々ある。育休明けに戻れるかどうか分からない社員を待つことはできない。(1年半以降も引き続き待ち続ける法的義務がない。)会社がやむなく当該部署に新しい人を補充すれば、育休明けに戻ってきても、事実上戻ってきた人のポストはすでにない。会社としては、育休明けの人の処遇に苦慮する。
ここで、“保育園に入れずに育休明けに出勤できない”という事実を客観的にみれば、育休明けの1年半の翌日からは欠勤扱いとなる。欠勤が続けば、(欠勤を理由とした懲戒等についての規定が就業規則等に記載されていれば)解雇やパートへの雇用変更などが認められやすくなってしまうというのが実態であろう。(もちろん適法と即断できるわけではない。)
あとは、解雇などの対応が適正であったかどうかの問題となる。会社の経営的な理由等、必要性と合理性があり、配置転換やその他の解雇回避努力、すなわち、解雇以外の対応で何とかならないかという方策を尽くしたとすれば、会社の経営判断として適法と判断される可能性が高い。違法であるとしても、裁判所の慣行では、解雇無効ではなく金銭的な解決で終わりになってしまう可能性も高い。
労働者側へのアドバイスとしては、とるべき手段は尽くしたが、「保育園に入れない」という自分の意思ではどうにもならない事由によって欠勤という現状・事実に至っているということを客観的な証拠で残すことが大切だ。証拠とは、たとえば金銭的な収入と民間保育園の値段との関係、実父母等サポートしてくれる家族がいないことなどを、会社側にもメールなど書面で残るかたちで伝えることだ。
また、会社側が解雇回避努力義務を果たしているかも、厳密に見ていかなければならない。自宅作業では無理なのかなど、より労働者の権利を制限しないような就業形態がないのか、提案・要求すべきである。
●会社も労働者もどちらも悪くないという難しい問題
このような状況は、会社も労働者も「悪くない」側面がある。ではなにが悪いのか、そう、保育園に入れなかったこと、ひいては保育政策の停滞が悪いのである。このような事例においては、会社や労働者の意思ではどうにもならない局面がある。
このような事例や類似事例を集約し、できるだけ早く改善措置を講ずる必要がある。そのためには、各自治体の基準を統一した正確な待機児童数の割り出しや、保育士の給与及び残業時間規制等の働き方についての改善は、目下の急務である。
なお、会社都合か自己都合かは、失業手当等の取り扱いに影響するだけであり、法的に会社の対処が違法か否かとは直結しない。
あくまで「退職勧奨」は任意性を担保するものであれば、それ自体で違法であるということはない。したがって、退職を迫られたしても、すぐに諦めて泣き寝入りするのではなく、労働局均等部や東京圏雇用労働相談センター(TECC)等にご相談にいかれるべきである。
あなたは一人ではない。決して孤立することなく、積極的に専門家に補助を求めてほしい。
----以上、倉持弁護士による見解。
相談窓口:東京都圏雇用動労相談センター/TECC03-3582-8354月曜~土曜9:00~21:30
●(半育休)+(子連れ出勤or在宅勤務)という合わせワザ
月80時間(1日平均約4時間)までの勤務なら、育児休業給付金を受けられる。そして会社からも働いた分のお給与をもらえる(ただし、会社からの給与に応じて給付金額は調整される)、ということをご存知だろうか。
労働者側はこの半育休という形態で働き、会社側は子連れ出勤や在宅勤務など待機児童の子どもがそばにいながらも働ける環境を可能にすれば、一時的にこの問題を回避できるように思う。(もちろん、待機児童問題の解消が一番だが)
即座に「子連れ出勤など無理だ」という会社側からの反論が来そうだが、実際に子連れ出勤している企業はある。クリーニング事業の(株)喜久屋さんや体験カタログギフトを企画・販売しているソウ・エクスペリエンス(株)さん、授乳服の制作・販売をしている(有)モーハウスさんなどに取材させてもらった。各社とも仰々しい保育スペースを作っているわけではなく、オフィス空間に普通に子どもたちがいた。たとえばPCのコードは子どもの目の届かないようにする、デスクの角はガムテープでカバーするなど、家庭で育児する際に行なうちょっとした工夫をオフィスに施すだけで意外とできる。無理とは言わず、まずは検討してみてほしい。こういった試みから働き方の多様化に繋がると思う。
子連れ出勤企業の参考文献:小酒部さやか著書「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」
●育休取得&復帰で会社がもらえる助成金
「中小企業両立支援助成金(育休復帰支援プランコース)」は、中小企業事業主が育休復帰支援プランを作成した上でプランに基づく取組みを実施し、社員が育児休業を取得した場合に30万円、職場復帰した場合に30万円、1企業につき2人(期間雇用者1人、雇用期間の定めのない労働者1人)まで助成金が支給される。
たとえばこういった支援の利用を検討するのも1つの手段だし、企業側が知らなければ、女性社員から助成金の存在を伝えてみてもいいように思う。