『東宝シンデレラ』からデビューして4年、福本莉子が映画で単独初主演 「不安な暇もないほど必死でした」
「東宝シンデレラ」出身で、昨年からヒロイン級の役が続いている福本莉子。映画単独初主演作となる『しあわせのマスカット』が公開される。人を幸せにするお菓子を作ることを夢見る新入社員の役をハツラツと演じた。デビューから4年。女優の王道を順調に歩いているように見えるが、辛い時期もあったという。役と重なるところもある今作とネクストブレイク候補の筆頭となった現在の心境を聴いた。
自分のポスターは横目で見て通り過ぎます(笑)
――最近JRの駅で、CMに出演している莉子さんのポスターをよく見掛けます。
福本 私もよく見ます。恥ずかしいので足早に通り過ぎながら、ちょっと横目で見る感じです(笑)。この前は、電車に急いで乗ってパッと見たら、自分の車内CMが流れていて、ソワソワしました(笑)。
――公開される『しあわせのマスカット』は、ロサンゼルスでの『アジアン・ワールド・フィルム・フェスティバル』で上映されて、莉子さんもレッドカーペットに登壇しました。
福本 海外は小学生の頃に家族でハワイに行って以来で、そのときの記憶はあまりなくて、初めての感覚ですごく楽しかったです。映画祭は午後からだったので、朝はサンタモニカで、大きいワッフルにイチゴが乗った海外っぽいごはんを食べました。
――向こうのごはんはサイズが大きいですよね。
福本 いやもう、めちゃくちゃ大きくて! カフェラテのカップのサイズからビックリしました(笑)。それで夜はコリアンタウンで、バーベキューのような焼肉を食べました。
――撮影したのは2019年ということで。
福本 そうですね。『ふりふら(思い、思われ、ふり、ふられ)』を撮った1ヵ月後でした。写真を見ると「幼いな」って感じがします(笑)。
――確かに、2年で莉子さんが大人っぽくなりましたよね。単独では初主演で、どんな心持ちで撮影に臨みました?
福本 不安でしたけど、私が演じる春奈がいろいろアクションを起こして話が動くので、「しっかりしなきゃ」と思いました。インしてからは不安を感じる暇もないくらい、ずっと撮っていて必死でした。でも、共演した竹中(直人)さんや本仮屋(ユイカ)さんが面白くてやさしい方で、岡山の自然に囲まれた環境で撮影できて、2週間があっという間だった感じです。
――劇中では竹中さんが演じたぶとう園主は、取りつくシマがない感じでしたけど。
福本 役柄はそうなんですけど、現場ではどこからか竹中さんの口笛が聞こえてきて、気づいたらコントをやってらっしゃいました(笑)。
明るさと笑顔がキーになることは意識しました
『しあわせのマスカット』で福本が演じた相馬春奈は、岡山の老舗和菓子メーカーの新入社員。北海道から修学旅行に来たとき、お土産に買った和菓子が祖母に喜ばれたことに感動して入社した。いつも笑顔で元気だが、研修では失敗ばかり。偏屈なぶどう農家・秋吉伸介(竹中直人)の農園に配属される。
――春奈の感覚は自分と近い感じでした?
福本 年齢も近くて、わりと等身大でしたけど、普段の私よりテンションがすごく高くて、かつ明るくて。その春奈の明るさで作品のトーンが決まるので、意識して、いつもよりテンションを引き上げて演じました。
――春奈は困っている人を見ると、放っておけないようですね。
福本 私も困っている人がいたら、話し掛けます。コンビニでコピー機の使い方で迷っている奥さまに「どうされましたか?」とか。
――でも、春奈みたいなドジはしないと?
福本 自分ではしっかりしているつもりですけど、最近「私ってこんなだっけ?」と思うことが多々あります(笑)。家でガラスのコップを落として、2~3個割っちゃったり。あと、ストウブという鍋を使っていて、普通の鍋みたいなコーティングがされてないので、よく焦がしてしまいます。重曹を入れると取れるんですけど、料理したらまた焦がしてしまって(笑)。「せっかくきれいにしたのに……」ということがよくあります。
――春奈は冒頭からコケてましたね。
福本 私も小さい頃はよく転んで、膝に傷がないときがなかったくらいでした(笑)。踏ん張る力がなくて、何かにぶつかるとすぐ倒れちゃうんです。今回の冒頭のシーンも、お財布を忘れてホテルに戻ってきてズコーッとなってますけど、その前のコケなくていいところで、おっとっとっと……って本気で派手にコケました(笑)。
――就職した和菓子メーカーの社長が、春奈について「みんなを和ませる笑顔」と言ってましたが、そう思わせる笑顔は自然にできたんですか?
福本 笑顔の練習はしていませんけど、やっぱり春奈の笑顔はキーになるので、意識はしていました。
2週間の撮影に工場も農園も詰まっていて
――2年前の撮影で、今でもよく覚えていることはありますか?
福本 結構覚えています。この作品では本当にいろいろなことに挑戦したので。春奈はカーリングの元日本代表なので、2日間スケート場に行って、フォームなどの基本を教えていただきました。氷の上でまっすぐ進む練習はバランスを取るのが難しくて、膝で体を支えるのでアザができていました。
――センスはある感じでした?
福本 いいセン行っていたと思います(笑)。あと、春奈は研修で社内のいろいろな部署を回ったので、デパートや工場でも撮影しました。デパートは朝の開店前と閉店後の店内をお借りして印象に残っています。工場ではできたての和菓子を初めて見ましたし、ビニールハウスにちゃんと行ったのも初めてでした。本当にたくさんのことが2週間にギュッと詰め込まれていました。
――春奈が和菓子メーカーの就職を目指すきっかけになった陸乃宝珠も食べたんですか?
福本 源吉兆庵さんの本社で撮影したとき、差し入れでいただきました。私、フルーツも和菓子も大好きなので、マスカットがひと粒まるごと入った和菓子なんて、ものすごくぜいたくだなと。普通、お菓子を食べると罪悪感があるじゃないですか。でも、フルーツと思えばあまりなくて、いっぱい食べました(笑)。
――陸乃宝珠に使われているマスカット・オブ・アレキサンドリアも?
福本 ビニールハウスでの撮影中に、ぶどう農家さんが差し入れてくださいました。ひと房がすごく大きくて、さすが“果実の女王”と呼ばれるだけあるなと。作品の中で、マスカットを作るまでの細かい過程やこだわりを見てきたので、「ああやってこの美しい果物ができたんだ」と実感しました。
ニーチェの言葉で喜びについて考えました
――今回は社会人の役でしたが、莉子さんは芸能界に入る前にやりたいと思った仕事はありました?
福本 音楽が好きだったので、音楽関係の裏方やラジオ局に何となく興味がありました。
――勉強も頑張っていたんですよね?
福本 お仕事を始める前は勉強があまり好きでなくて、義務みたいにやっていました。でも、デビューしてからは、お仕事を言い訳にしたくなかったので。短い時間でどれだけ覚えられるか、ほとんど意地で勉強していました。
――春奈の「食べた人が幸せになれるお菓子を作る」という想いは、芸能界の仕事でのモチベーションと通じるところもありませんか?
福本 最近、時間があったとき、「このままでいいのかな」と考えて、『ニーチェの言葉』という本を寝る前に読むようになって。その中に“喜び”について書かれていたところがあったんです。「1日の中で誰か1人でも喜ばせることができたら世界がちょっと変わる」みたいなこととか。「1日にマイナスなことを10個考えるのをやめて、良いことを10個考えるのを心の習慣に」というのもあって、それを読んでから、普段の生活でも会う人に喜びを与えられたらいいなと思うようになりました。
――芸能の仕事だと、一気に何千、何万の人に喜んでもらうこともできます。
福本 そういう可能性は広がっていますよね。この前も、ファンの方からいただいたお手紙を読んでいて、グッときました。「いつも幸せをくれてありがとうございます」と書かれていて。私なんて別にたいしたことはしてないのに、そう受け取ってくれる方がいると、「もっと頑張らないと」という気持ちになります。
「ダメだったら次」と切り替えるように
――『しあわせのマスカット』は、春奈が失敗しながら成長する物語でもあります。『東宝シンデレラ』のグランプリから華々しくデビューした莉子さんにも、うまくいかないことはありましたか?
福本 うまくいかないことばかりでした。最初は「お芝居って何?」というところからわからなくて、ただ立っている場面もちゃんとできない。ずっと闇の中にいるような感じでした。オーディションを受けても「どうせダメだ」と思って、実際ダメでしたし。
――最初から順調に見えた莉子さんにも、そんな時期があったんですか?
福本 めちゃくちゃありました。大阪の高校に通っていて、学校が終わってから東京に行って、オーディションを受けて、帰ってきたら「ダメだった」という連絡が来たり。「東京までわざわざ落ちに行ったのか……」という時期は辛かったです。
――そういう時期をどう乗り越えたんですか?
福本 気持ちを切り替えて「ダメだったから次!」というマインドで行くしかなかったです。後悔しても、終わったことは仕方ない。落ちても「このタイミングでこれをやるべきではなかったんだ」と解釈するようになりました。
食べたいものを自分で作るのが幸せです
――演技に関しては、経験を積んで見えてきたものがあった感じですか?
福本 そうですね。いろいろな作品をやらせていただく中で、ひとつずつ自分に合う方法を落とし込めてきたかなとは思います。ひと区切りついたときに「私は何をやりたいんだろう?」「これからどうしていこう?」と、夜中に1人で考える時間も増えました。新しい作品に入る前に、台本を読んで役に関する情報を集めるのは好きなんです。自分とは違う人生を演じるのは、やっぱりすごくワクワクしますね。
――地上波初主演ドラマの『歴史迷宮からの脱出』では、清楚なイメージの莉子さんの振り切ったギャル役が面白かったです。
福本 昔だったら絶対頭で考えてしまって、パッとできなかったと思います。そこはちょっと成長できたかもしれません。振り切れるようになったのは、たぶん『映像研(には手を出すな!)』からです。
――主人公たちと対立する生徒会の切り込み隊長の役でした。
福本 マンガ原作で今までに演じたことのなかったようなキャラクターで、初めて振り切れたと思います。
――では最後に、大きいことでも小さいことでも、莉子さんが“しあわせ”を感じるのはどんなときですか?
福本 ごはんですかね。自分で食べたいものを自分で作って、思い通りの味になったときは、めちゃめちゃ幸せです。
――ただ食べるだけでなく、自分で作ることも込みで。
福本 はい。最近は菜の花スープにハマっています。今の時期しか食べられない菜の花としいたけと豚肉のスープで、オリーブオイルで炒めて、味付けは塩とコショウだけ。そのシンプルさが良くて、出汁の取れるしいたけをいっぱい入れます。スーパーに行って、「コレとコレでアレを作ろう」と頭の中で組み立てるのが楽しくて。レシピのない創作料理にも挑戦してみたいです。
撮影/松下茜
Profile
福本莉子(ふくもと・りこ)
2000年11月25日生まれ、大阪府出身。
2016年に第8回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ。2018年に映画『のみとり侍』で女優デビュー、同年にミュージカル『魔女の宅急便』に主演。主な出演作は映画『思い、思われ、ふり、ふられ』、『映像研には手を出すな!』、ドラマ『パパがも一度恋をした』、『歴史迷宮からの脱出~リアル脱出ゲーム×テレビ東京~』、『夢中さ、きみに。』など。『連続ドラマW 華麗なる一族』(WOWOW)に出演中。
『しあわせのマスカット』
5月14日よりシネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
監督/吉田秋生 脚本/清水有生 製作・配給/BS-TBS