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豊島将之名人(30)VS渡辺明三冠(36)将棋界の最高峰を争う頂上対決、名人戦七番勝負開幕

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月10日。三重県鳥羽市・戸田家において豊島将之名人(30歳)に渡辺明三冠(36歳)が挑む第78期名人戦七番勝負第1局が始まりました。

 対局室に先に姿を見せたのは、挑戦者の渡辺三冠(棋王・王将・棋聖)。淡い緑色の羽織です。多くのタイトル戦で活躍してきた渡辺三冠も、名人戦は初めての登場となります。

 一昨日8日の棋聖戦第1局では棋聖の立場で藤井聡太七段と歴史的な名棋譜を残しています。

 昨日は東京から鳥羽への移動。ハードスケジュールの中で重要な対局が続きます。

 続いて8時52分頃、豊島名人が対局室に入りました。昨年の名人戦七番勝負では挑戦者の立場として登場。佐藤天彦名人(当時)を4連勝のストレートで降し、名人位に就きました。

 続いて昨年秋には広瀬章人竜王(当時)から竜王位も奪取。名人位、竜王位をあわせ持ち、押しも押されもせぬ、将棋界席次1位の座を占めています。

 今月には叡王戦七番勝負も開幕。こちらでは豊島名人は挑戦者の立場として臨みます。

 叡王戦の挑戦者決定戦も、豊島-渡辺戦でした。

 過去の対戦成績は豊島11勝。渡辺16勝。まさに実力伯仲で、この七番勝負もどちらが制するのか、ファンの予想も割れているのではないかと思われます。

 記録係を務めるのは高田明浩三段(森信雄七段門下)。

 高校3年時点での三段は、まずは順調なステップアップでしょう。一方、同じ歳で七段のタイトル挑戦者が存在するのは、規格外すぎて表現のしようがありません。

 両者駒を並べ終わった後、高田三段が豊島名人側の5枚の歩を取って振り駒をします。5枚の歩を両手の中でよく振り、白布の上に投げたところ、表側の「歩」が2枚、裏側の「と」が2枚、横に立ったものが1枚となりました。これは「歩」と「と」が同数のため振り直し。今度は「歩」が3枚、「と」が2枚が出て、「振り歩先」の規定で、先手は豊島名人と決まりました。

 午前9時。

「定刻になりました。第78期将棋名人戦七番勝負第1局は、豊島名人の先手で開始してください」

 立会人の福崎文吾九段がそう告げて、両者「お願いします」と一礼。対局が始まりました。

 豊島名人は初手に飛車先の歩を突きます。

 対して渡辺三冠も同様に2手目、飛車の前にある歩を一つ、前に進めました。

 進んで戦型は角換わりとなります。現代将棋界で多く指される最前線の形であり、両者ともに経験、研究は十分です。

 豊島名人が9筋の歩を突き越したのに対して、40手目渡辺三冠は香を一つ上がります。ここから豊島名人の手がぴたりと止まりました。

 10時半に出されたおやつは、豊島名人は定番の「フルーツ盛り合わせ」でした。豊島名人がいつもこれを頼む理由は何か。

豊島「フルーツなんか体に良さそうだから。はずれがないと言うか、別にタイトル戦だからはずれはないんだけど、より手堅く」

 豊島名人はかつてそう語っていました。

 渡辺三冠はチョコレートケーキ。渡辺三冠は大の甘党としても知られています。

 40手目の局面で豊島名人の長考は1時間を超え、時刻は11時半を過ぎました。

 名人戦七番勝負は持ち時間各9時間の2日制。通例では、決着がつくのは明日2日目の夕方から夜となります。棋譜は「名人戦棋譜速報」などをご覧ください。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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