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カズに通ずる香川真司の「こだわり」。欧州挑戦をやめない元日本代表10番の人生観

元川悦子スポーツジャーナリスト
笑顔の香川真司を見られるのはいつなのか?(写真:アフロ)

シントトロイデン移籍は実現するのか?

 2021年12月にギリシャ1部・PAOKテッサロニキとの契約を解消し、フリー状態になっている元日本代表10番・香川真司。その彼がベルギー1部・シントトロイデン入りすると連日報じられている。まだクラブから正式発表はないが、彼自身の海外へのこだわりは依然として強い様子。これまでもアメリカ・メジャーリーグやトルコ1部への移籍話が浮かんでは消えているが、Jリーグ復帰の意思は皆無のようだ。

 昨年4月に久しぶりにメディア向けのオンライン取材に応じた時も「どう自分の力を証明していけるかという自信は失っていません。僕たちの世界はピッチの上で(実力を)見せていかないといけない」と強調。「このままでは絶対に終われない」という強い危機感をにじませた。

30代に突入してから苦境の連続

 だからこそ、PAOKでの完全復活が期待されたが、ふたを開けてみると20-21シーズンはリーグ5試合出場無得点。2021年夏からスタートした今季もリーグ1試合のみの出場にとどまり、ルーマニア人のラズヴァン・ルチェスク監督から戦力外に近い扱いを受ける羽目に陥った。

 同指揮官の前任者であるパブロ・ガルシア監督も「カガワが長い間、(実戦で)プレーしていなかった選手であることを忘れてはいけない。彼はハードワークを続け、与えられるチャンスを待たなければならない」と慎重な姿勢を崩さなかったが、ルチェスク監督も「求める水準に達していない」と判断したのではないだろうか。

 2019年に半年間プレーしたトルコの名門・ベシクタシュのセノール・ギュネシ監督も「香川はずっと試合に出ていなかったので試合勘の不足や体力的な問題を抱えていた」と同様の発言をしていたことがある。欧州では30歳を超えた時点で「ベテラン」と扱われ、厳しい立場に追い込まれる。そのうえでケガやコンディション不良が続く助っ人外国人ともなれば、監督から冷遇されても仕方ないのだ。

とにかくピッチに立つことを最優先に考えるべき

 それを跳ね返すのは「ピッチ上の結果」しかない。2010年夏のボルシア・ドルトムント移籍から10年以上、厳しい世界で戦い抜いてきた彼にはその現実がよく分かっているはず。だからこそ、まずはコンスタントに実戦に出られる環境へ赴き、プレー感覚を少しでも取り戻すことに注力すべきだ。リーグレベルや国を語る前に、とにかく試合に出ること。それだけに集中して新天地を選ぶべきだ。

 そういう意味で、シントトロイデンというクラブは悪くない選択肢ではないか。ご存じの通り、日本企業のDMM.comがオーナーを務め、FC東京などで手腕を振るった立石敬之CEOが運営する同クラブには、日本代表の橋岡大樹を筆頭に、東京五輪代表の林大地、若手の有望株である原大智ら日本人選手が所属。香川にとっては意思疎通の図りやすい環境にある。

 つい最近、鈴木優磨が古巣・鹿島アントラーズに復帰したこともあり、ドイツ人のベルント・ホラーバッハ監督は攻撃陣の補強を求めているという。生粋のストライカーである鈴木とセカンドトップを本業とする香川ではタイプが異なるが、林や原と組んで香川がお膳立てに回るといった形はスムーズに構築できそうだ。

日本代表は2019年6月から遠ざかったままだ。
日本代表は2019年6月から遠ざかったままだ。写真:西村尚己/アフロスポーツ

シントトロイデン移籍は代表復帰にも有利に働く?

 加えて言うと、ベルギーという国には伊東純也(ゲンク)を筆頭に、三笘薫(サン=ジロワーズ)、三好康児(アントワープ)、坂元達裕(オーステンデ)ら今後の日本代表を担うべき面々が何人もいる。そういう彼らと香川がコミュニケーションを取りながらいい関係を築ければ、今年11月に迫ったカタールワールドカップ(W杯)逆転選出の望みも出てくるかもしれない。

 1月4日には地元・神戸で長友佑都(FC東京)と自主トレを行ったことがSNSで明らかにされたが、その時にも日本代表の現状や森保一監督が考えていることを聞く機会はあっただろう。

「今の状況では(代表復帰が)厳しいのは分かっています。数字、結果がついてきていないし、パフォーマンスも同様なんで、これじゃ話にならないのは自分でも理解しています」と昨年4月にも話していた。それでも本人の中から3度目となるW杯への思いが完全についえたわけではない。となれば、残り10カ月あまりでラストスパートを賭けるしかない。今年秋の段階で香川がボルシア・ドルトムント第1期のような眩い輝きを放っていたら、森保監督も放っておくわけにはいかなくなるかもしれないのだ。

カズ同様に「納得できるプレー」を追い求めて

 そういった希望をつなぐ意味でも、シントトロイデンSTVV行きに踏み切る可能性は高い。いずれにしても、納得いく形で欧州挑戦を終えられない限り、日本に戻るという気持ちにはなれないのだろう。ある意味、そのメンタリティは間もなく55歳になるカズ(三浦知良=横浜FC)と通じる。カズも「試合に出たい」「ゴールを奪いたい」と言い続けているが、それを果たすためには、リーグレベルは関係ないと言い切り、間もなくJFLの鈴鹿ポイントゲッターズ移籍が正式決定するという。

 香川がそのくらい試合に飢えているのなら、迅速にピッチに戻るべき。そして、かつて世界中を魅了した高度な技術と攻撃センス、ゴール感覚をいかんなく発揮することが肝要だ。海外でそれをやり切ったと思えるまで、あがき続ければいい。それが香川真司の人生観なのだ。我々メディアやサポーターはそんな彼の再起を待ちわびている。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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