清掃がずさんで徹底した対策ができるのか? ホテルの感染症対策、枕も捨てる凄い現場
清掃がずさんなホテル
コロナショック以前のホテル業界といえば、世界的な旅行ブームにオリンピック需要とニーズは堅固という予測のもと開業ラッシュは続いた。一方で、業界内では供給過剰への懸念も囁かれていたが、訪日外国人旅行者の増加は続くという希望的観測に包まれていた。ただし、実際には過当競争は現実化していたわけで、いかに他社と差別化を図るのかはホテルにとって大きなテーマになっていた。
様々なホテルを取材し利用者の声などリサーチも進めていく中で、ホテルの清掃問題が深刻化していることを痛感、徹底した清掃レベルの堅持とレベルアップは差別化の大きなポイントになることについて、筆者は一般・専門メディアから数多くの情報発信をしてきた。サービス業全体で人手不足が指摘される中、特にホテルではハウスキーパー(清掃スタッフ)不足が叫ばれてきたが、ホテル開業ラッシュという状況下では人の奪い合いという状況でもあった。
ホテルの清掃スタッフについては、ホテルが直接雇用しているのは稀で専門の会社から派遣されているケースが多い。とはいえ、その派遣会社にも人が集まらないというのが実情。「100パーセント稼働の予約は入るのに清掃スタッフが足りず泣く泣く80パーセントに抑えておりしかもかなり時短でこなしている」という某ホテル支配人の話は印象的であった。
実際、ホテル側が求める清掃レベルとの齟齬があるのだろうか、清掃の状態がずさんなホテルに出会うことが多い。もちろんハイレベルなサービスを提供するハウスキーパーの派遣会社も多いというが、ホテルの客室清掃の実態については様々な背景が影響していることは容易に推測できる。
今回、新型コロナウイルスの感染症対策として、多くのホテルが様々な施策をとっている。注目に値する取り組みも多くみられるが、仮に清掃がおざなりになっているようなホテルにおいて、きめ細やかな感染症対策が可能なのか否かは気になるところだ。ゲストからすれば、徹底した感染症対策を施していたとしても、見た目の清掃状態がいい加減だと不信感を抱いてしまうかもしれない。
清掃会社を持つホテル?
コロナショックのかなり前になるが、とあるホテル運営会社との出合いがあった。グループホテルに初めて覆面取材泊したのが2017年と記憶しているが、清掃がかなり行き届いていたのが印象的だった。別のグループホテルでも同様だったので、その後、運営会社であるコアグローバルマネジメント株式会社へ取材してみるとその理由がわかった。
同社は全国各地にフルサービスタイプから宿泊特化型ホテルまで様々なタイプの宿泊施設を運営する。とはいえ総運営数は13施設と小規模な運営会社だ。弱冠42歳の代表取締役中野正純氏が率いる同社で特徴的だったのが、自社(グループ会社)で清掃会社を持っているという点であり、その話には非常に興味を惹かれた。
中野氏によると「ホテルの過当競争下においておざなりになりがちな清掃は特に差別化のポイントになる」ということ、「ホテルのコンセプトを具現化していく過程においては、自社でのきめ細やかな清掃は必須」という考えもあり清掃会社も立ち上げたという。若い柔軟な発想と小規模運営会社だからこその注目すべき着眼点、実行力といえよう。
コロナ禍の感染症対策に底力を発揮
緊急事態宣言、営業自粛などが解除される中にあって、ホテルを含めた宿泊施設がもっとも注力し情報発信しているのが感染症対策についてだ。消毒は当たり前であるし、密集を避けることや換気など、清掃基準の明示も含め様々な宿泊施設で対策がとられている。一方で宿泊施設といっても様々。小規模のビジネスホテルから民宿、旅館、大規模の観光ホテルやラグジュアリーな施設など、それぞれで慣れない対策の現場は苦労が多いという話を聞く。
こうした点から、コロナショック以前に清掃スタンスに対する取材を経ていたこともあり、コロナ禍におけるコアグローバルマネジメント社の感染症対応については気になるところであり再び取材に出向いた。筆者の問いに対し「様々なタイプのホテルを運営する会社そのものが清掃のプロとしての、長らく現場の第一線にいたこともありコロナ禍への対応についてもいち早く対策を実行することができた」と中野氏は自負する。
まず、客室についていえば、ゲストが直接手を触れることが多い個所に関して次亜塩素酸ナトリウム除菌剤※を使用し拭き上げるといい、具体的な箇所も明示する(ドアノブ、バスルーム、蛇口、蛇口ハンドル、デスク、テーブル、各種リモコン、電話)。ゲストが利用できる除菌消臭スプレーを全客室に設置するのは当然として、客室内の湯飲み、コップは全て使い捨て紙コップに変更、清掃時の換気を徹底、清掃スタッフはマスク、手袋の装着を必須とした。
共用部の清掃についても、エレベーターのボタンやドアノブなど、ゲストの手が触れる機会が多い部分に関し定期的に次亜塩素酸ナトリウム除菌剤を用いた消毒、拭き上げを行う。その他にも自動ドアの開放など定期的な換気の徹底など枚挙に暇が無い。
※一部新型コロナウイルスに対する有効性について疑問が呈された次亜塩素酸水は除菌成分が主成分であるのに対し、漂白成分を主成分とする次亜塩素酸ナトリウムは殺菌消毒に有効とされる。
都度枕を新品に!?
このような具体的な対策を詳細に明示することは安心感に繋がるが、同社の様々なプランの打ち出しも興味深い。中でも徹底除菌をテーマにした「シェルターホテル」プランが注目されている。昨年12月開業した「クインテッサホテル東京銀座」でのトライだ。同ホテルの3階フロアを「シェルターフロア」として運用、可能な限りウイルスの排除を施しているという。
監修は、京都大学ウイルス・再生医学研究所の宮沢孝幸准教授。徹底除菌と特殊清掃により、現場に合わせた最適な方法で作業を行うというもの。ホテルの客室清掃で一般的には枕はピローケースのみ交換されるが、チェックアウトの度に枕を廃棄して都度新品を用意するというから驚く。サーモカメラ、瞬間体温計を使った検温などゲストとスタッフの健康確認も厳格に行うことは大前提だ。
実は、同社のグループ清掃会社は、行政指導のもと新型コロナウイルス軽症者受け入れホテルの清掃実績がある。これもまた従前からのホテル清掃の実績によるものといえるが、感染症対策と清掃はセットで効果が発揮されることに鑑みると、清掃会社もグループに持つホテルへの安心感は高い。今後さらなる対策・清掃を強化していくという。
布団やマットレスの除菌で注目される取り組み
客室の清掃や除菌でいえば、水回りや家具の拭き上げなどはきめ細やかな対応で可能になるが、寝具についてはなかなかハードルが高い。シーツ交換は当然としても布団やマットレスの除菌となるといまひとつ想像ができない。そのような中で注目される取り組みが“ホテルの寝具クリーニング”だ。
株式会社旅館ホテルクリーン(大分県別府市)は、主に寝具のハウスダスト除去を業務とする会社だ。これまで寝具のケアといえば、外干しと布団叩きという程度が一般的だったが、同社ではクリーンライブ方式(加熱→振動吸引→除菌消臭→(宿泊施設による)確認・納得)を考案。また、レッドシャワーという方式で、布団やマットレスへ150度〜200度の赤外線を照射しダニや菌を熱処理、水も薬剤も使わず人体に悪影響もないということで、宿泊施設の寝具クリーニングで実績を積んできた。
ここにきて、新型コロナウイルスが熱に弱いという点も注目され更に引き合いが増加しているという。同社代表の立石一夫氏は「この方式を考えたのは、ホテルや旅館で最も長時間使用している寝具へのケアが難しいという現状を知ったからです」と話す。布団やベッドのみならず布製のソファ等へも対応できるといい、ホテル内の様々な箇所で使えそうな方式といえるだろう。取材の日も別府温泉の高級ホテルで施工してきたとのことで「これからは衛生が真のサービスになりますね」というホテル関係者からの謝辞があったという。
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こうした宿泊施設の対策や施策が実際ここまで必要なのか、あるいは“やりすぎ”なのか、効果の有無も含め未知のウイルスというだけにまさに未知数だ。いずれにしても確かなのは、こうした取り組みの公表はゲストへ安心感を与えるということ、コロナ禍はホテルの清掃・除菌のスキルを格段にアップさせているということだ。過去これほどまでにホテルが清潔というシーンはきっとなかったはずである。