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「死ぬほど暑い」12万年ぶり暑さの昨年を上回り平均気温が史上最高 食品ロス削減は100位中3位の対策

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
東京で猛暑日 街頭温度計は40度を表示(写真:アフロ)

2023年8月20日、『「死ぬほど暑い」12万年ぶりの猛暑 なぜメディアは表層的な現象しか報じないのか』という記事を書いた(1)。2023年7月4日は「地球上で12万年ぶりの暑さ」だと専門家は指摘し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、2023年7月、「地球は沸騰化(boiling)の時代」に入ったと述べた。

筆者は「食品ロス削減」をテーマに、日々活動している。2023年9月にニューヨークで開催された世界の食品ロス削減の会議では「食品ロス削減と気候変動は別々に議論すべき問題ではなく、一緒に議論し、解決すべき問題」だということが欧州と米国、その他の国から集まった全員での同意事項となった。

それは決して大げさな話ではない。世界資源研究所のデータによれば、仮に世界の食品ロスが一つの国だと仮定すると、世界中の食品ロスによる温室効果ガスの排出量は、最も排出している中国、米国に次いで、世界で第三位の排出源であるからだ。気候変動と食品ロス削減を「一緒に議論し、解決すべき問題」というエビデンスの一つでもある。

世界中の食品ロスによる温室効果ガス排出量は中国、米国に次いで世界第三位(世界資源研究所のデータより)
世界中の食品ロスによる温室効果ガス排出量は中国、米国に次いで世界第三位(世界資源研究所のデータより)

環境問題や温室効果ガスの排出量においては、飛行機や自動車によるものが議論される。だが、世界中の飛行機による排出(1.4%)に比べ、世界中の食品ロスによる排出(8.2%)の方が6倍近く大きく、自動車の排出(10%)に匹敵するほどだ。「食品ロス」と「気候変動」は、これだけ密接に関連があるものの、ほとんどの人に理解されていない。

飛行機による温室効果ガスの排出(1.4%)より食品ロス(8.2%)の方が大きく、自動車(10%)に匹敵する(世界資源研究所のデータより)
飛行機による温室効果ガスの排出(1.4%)より食品ロス(8.2%)の方が大きく、自動車(10%)に匹敵する(世界資源研究所のデータより)

2023年の酷暑により、コメの等級が落ちたという報道もある(2)。コメが品薄になっている件は、マスメディアの報道だけでなく、SNSでも話題になっている。その品薄のコメですら、さまざまな理由で廃棄されていることも報じられ、筆者が取材を受けたコメントも2024年8月27日付の朝日新聞一面に掲載された(3)。

2024年7月22日は世界の平均気温が観測史上最高

「酷暑」の2023年を、早くも上回る記録が出された。

2024年7月22日は、世界の平均気温が観測史上で最も高い日となったのだ(4)。

そのことを報じた記事(4)の中で、三重大学 生物資源学部 生物資源学研究科の立花義裕教授は

異常な暑さが普通の時代になるか、後戻りできるのか、今まさに瀬戸際にいる

と語っている。

ここ数年だけ見ても、100年に1度、1000年に1度レベルの自然災害が連続して起きている。

自然災害のデータを元に株式会社office 3.11作成
自然災害のデータを元に株式会社office 3.11作成

「異常気象がニューノーマルになる」

立花教授は、別の取材記事で

この暑さは、”たまたま今年だけ"のものではありません。地球温暖化の影響で、異常気象そのものが"ニューノーマル"になるんです

とも話している(5)。

「異常気象」とは、常態ではない異常事態を指すが、すでに、異常気象が常態化してきているのだ。

先日のゲリラ豪雨で、都心の地下鉄の駅が水浸しになったこと、マンホールの蓋が外れて水がすさまじい勢いで出ている様子は映像で見た人も多いだろう。

「気候変動」と「酷暑」「猛暑」を関連づけた報道は3%

日本最大のビジネスデータサービス、G-Search(ジーサーチ)(6)で、2024年8月1日から20日までに「酷暑」を報じたメディアを検索すると683件がヒットする。

だが、そのキーワードに「気候変動」を掛け合わせると30件と少なくなる。さらにこの30件の報道内容を精査すると、そのうち23件しか関連づけて報じていない。つまり「酷暑」を報じたうちの3%に過ぎない。

また、「猛暑」のキーワードを使って同様の期間で検索すると、2,686件がヒットする。さらにこれに「気候変動」を掛け合わせると、両方を報じているのは91件と、全体のうちの3%だ。

2023年の同じ時期、同様に検索したときは、「酷暑」と「気候変動」を関連づけて報じたのが0.7%、「猛暑」と「気候変動」を関連づけて報じたのが4%だった。2023年と、状況はさほど変わったとは言い難い。

専門家「個人の判断に任せるのは限界」

テレビやラジオ、インターネットなどの天気予報では、相変わらずアナウンサーや気象予報士が「熱中症に気をつけましょう」「エアコンを使いましょう」と呼びかけている。だが、いくら言ってもエアコンをつけない人もいる。電気代が高くなることを恐れ、エアコンをつけたくてもつけられない人もいる。

ジャーナリストの伊藤辰雄氏が経済誌に投稿した記事(7)の中で、国立環境研究所 気候変動適応センターの岡和孝・気候変動影響観測研究室室長は

(健康被害に関わるため)個人の判断だけに任せておくことは限界がある

と語っている。

「天気はどうしようもない」ことではない

あるYahoo!ニュースエキスパートの方が、「天気のことはどうしようもない」とコメントしていた。だが、一人ひとりの行動で変えられる要素もある。それを説明しているのが書籍『ドローダウン』(8)だ。

世界の200人近くの科学者と専門家が、地球温暖化を「逆転(ドローダウン)」させる具体的な100の方法をランクづけした。二酸化炭素の削減量、費用対効果、実現可能性などのデータから算出した。すると100位中、3位にランクインしたのが「食品ロス削減」だったのだ。

世界中の温室効果ガス削減のための方法、1位から100位までのうち、3位が「食品ロス削減」。ひいては、気候変動を解決することにつながる。

地球上の多くの人が今日からできる「食品ロス削減」で、地球温暖化を逆転させるための一つの助けになる。

書籍『ドローダウン』をもとに株式会社 office 3.11作成
書籍『ドローダウン』をもとに株式会社 office 3.11作成

マスメディアは、酷暑のこの時期に「熱中症に気をつけましょう」だけで終わらせず、一人ひとりにできることがあるということを、地道に根気強く伝えてほしい。たとえばUNEP(国連環境計画)は「気候危機と闘う10の方法」として次のことを挙げている(9)。

「気候危機と闘う10の方法」
1. 言葉を広める
2. 政治的圧力をかけ続ける
3. 交通手段を変える
4. 電力使用を抑える
5. 食生活を見直す
6. 地元で持続可能なものを買う
7. 食べ物を無駄にしない
8. 賢く着よう
9. 木を植える
10. 地球に優しい投資に注力する

地上の気温のみならず、海水温も史上最高を記録している。酷暑や猛暑は、農産物や魚のとれ高にも大きく影響し、われわれの命にも関わることなのだ。

参考情報

1)「死ぬほど暑い」12万年ぶりの猛暑 なぜメディアは表層的な現象しか報じないのか(Yahoo!ニュースエキスパート井出留美、2023/8/20)

2)猛暑の影響はコメにも 新潟「1等米」比率 去年を大きく下回る(NHK、2023/9/29)

3)「廃棄」される米、1日8トン 品薄でも変わらぬ食品ロスの実態(朝日新聞、2024/8/27)

4)温暖化加速、酷暑が命を奪う 熱中症死、1週間で23人 心臓・呼吸器、持病悪化(朝日新聞、2024/8/2)

5)日本を襲う灼熱地獄「スーパージャイアント黒潮蛇行」で「死者激増」「サケ不漁」「米は大不作」大学教授が緊急警告(smartFLASH、2024/6/5)

6)G-Search(ジーサーチ)

7)発表あるか?「熱中症特別警戒アラートの危険性 もはや"災害級" 猛暑にどう対処すべきか(伊藤辰雄、東洋経済オンライン、2024/7/24)

8)『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』(ポール・ホーケン著、江守正多監訳、東出顕子訳、山と溪谷社)

9)10 ways you can help fight the climate crisis(UNEP、2022/5/4)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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