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アトピー性皮膚炎治療薬で起こるニキビ:JAK阻害薬の副作用と対処法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Grokにて筆者作成

【JAK阻害薬とニキビ発症リスク:最新の研究結果】

皮膚疾患の治療において、JAK阻害薬が注目を集めています。JAK阻害薬とは、ヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素の働きを抑える薬のことです。アトピー性皮膚炎や乾癬などの炎症性皮膚疾患に効果があることが分かっています。

しかし、最近の研究で、JAK阻害薬の使用によってニキビが発生するリスクが高まる可能性が明らかになりました。この記事では、JAK阻害薬とニキビの関係について、最新の研究結果をもとに解説します。

研究者たちは、皮膚疾患の治療でJAK阻害薬を使用した患者さんのデータを分析しました。その結果、JAK阻害薬を使用した患者さんの6.7%にニキビが発生したのに対し、プラセボ(偽薬)を使用した患者さんでは2.6%にとどまりました。

特に、JAK1阻害薬、TYK2阻害薬、JAK1とJAK2の両方を阻害する薬でニキビの発生リスクが高くなることが分かりました。一方で、複数のJAKを同時に阻害するパンJAK阻害薬では、ニキビの発生リスクが最も低いことも明らかになりました。

【皮膚疾患別のニキビ発生リスク:治療を受ける際の注意点】

JAK阻害薬によるニキビの発生リスクは、治療する皮膚疾患によっても異なることが分かりました。

乾癬の治療を受けている患者さんでは、ニキビ発生のリスクが5.52倍に増加しました。次いで、白斑(はくはん)では4.15倍、円形脱毛症では3.86倍、アトピー性皮膚炎では2.82倍のリスク増加が見られました。

一方、全身性エリテマトーデス(SLE)の治療では、JAK阻害薬の使用によるニキビ発生リスクの有意な増加は見られませんでした。

これらの結果から、JAK阻害薬による治療を受ける際には、自分の皮膚疾患に応じてニキビ発生のリスクを把握し、医師と相談しながら対策を立てることが大切だと言えます。

【JAK阻害薬使用時のニキビ対策:治療期間と投与量の調整】

JAK阻害薬によるニキビの発生リスクは、薬の使用期間や投与量によっても変わってくることが分かりました。

研究結果によると、薬の使用期間が長くなるほど、またより高用量を使用するほど、ニキビの発生リスクが高まる傾向にありました。例えば、52週間の治療では、プラセボと比べてニキビ発生のリスクが5.35倍に増加しました。

この結果から、JAK阻害薬を使用する際には、治療期間や投与量を適切に調整することで、ニキビの発生リスクを軽減できる可能性があります。

JAK阻害薬は多くの皮膚疾患に効果的な治療法ですが、ニキビの副作用には注意が必要です。治療を受ける際は、医師とよく相談し、定期的な経過観察を行うことをお勧めします。また、スキンケアを丁寧に行い、必要に応じてニキビ対策の薬を併用するなど、個々の状況に応じた対策を講じることが大切です。

JAK阻害薬は、アトピー性皮膚炎や乾癬、円形脱毛症など、さまざまな皮膚疾患の治療に効果を発揮する新しい薬です。しかし、どんな薬にも副作用はあります。JAK阻害薬の場合、ニキビの発生が懸念される副作用の一つであることが分かりました。

ニキビは見た目の問題だけでなく、患者さんの心理的な負担にもなりかねません。特に、もともと皮膚の悩みを抱えている方にとっては、新たにニキビが発生することで、さらにストレスを感じる可能性があります。

そのため、JAK阻害薬による治療を受ける際には、ニキビの発生リスクについて事前に医師と相談し、適切な対策を立てることが重要です。例えば、定期的な皮膚チェックを行ったり、ニキビ対策の外用薬を併用したりするなど、個々の状況に応じた対応が必要になるでしょう。

また、JAK阻害薬の種類によってニキビ発生のリスクが異なることも分かりました。治療を受ける際には、自分の皮膚疾患や体質に合わせて、最適な薬を選択することが大切です。医師と相談しながら、効果と副作用のバランスを考慮した治療計画を立てましょう。

さらに、JAK阻害薬の使用期間や投与量によってもニキビ発生のリスクが変わってくることが明らかになりました。長期間の使用や高用量の投与では、ニキビのリスクが高まる傾向にあります。そのため、必要最小限の期間と投与量で効果を得られるよう、医師と相談しながら調整していくことが重要です。

最後に、JAK阻害薬による治療を受ける際には、日々のスキンケアにも気を配ることをお勧めします。肌を清潔に保ち、適切な保湿を行うことで、ニキビの発生リスクを軽減できる可能性があります。また、ニキビが発生した場合も、早めに対処することで症状の悪化を防ぐことができるでしょう。

JAK阻害薬は、多くの皮膚疾患患者さんに希望をもたらす画期的な治療法です。ニキビの副作用に注意しながら、適切に使用することで、より良い治療効果を得ることができるはずです。皮膚の健康と美しさを守るため、医師とよく相談し、自分に合った最適な治療法を見つけていきましょう。

参考文献:

Chen, B. L., Huang, S., Dong, X. W., Wu, D. D., Bai, Y. P., & Chen, Y. Y. (2024). Janus kinase inhibitors and adverse events of acne in dermatologic indications: a systematic review and network meta-analysis. Journal of Dermatological Treatment, 35(1), 2397477.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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