年金だけで生活費は足りるのか。年金に対する考え方をさぐる(2023年公開版)
単身世帯では5割強が「年金だけでは日常生活もつらい」
受給時期にまで年を重ねた際、果たして年金だけで日常生活を過ごせるのか否か、足りないと考えている場合、その理由はどこにあるのか。その思いの実情を金融広報中央委員会の「知るぽると」が毎年実施している調査「家計の金融行動に関する世論調査」(※)の公開結果から確認する。
まずは年金支給額について、その額(公的年金に加えて企業年金も含め、個人年金は除く。以下同)だけで老後の生活を営めるか否かを尋ねた結果が次のグラフ。単身世帯と二人以上世帯でそれぞれ区分して集計してある。
二人以上世帯で2001年に大きな変化が生じているが、これは同年から「日常生活費程度もまかなうのが難しい」の選択肢部分を変更したため。元々はより緩やかな生活をイメージさせる「年金だけではゆとりが無い」だったため(「ゆとりは無いが、日常生活費程度はまかなえる」とまぎらわしいのが変更の理由だろう)、表現の変更により回答率に変化が生じる次第となった。
経年動向を見ると、意外にも昔から直近まで、年金と老後生活の金銭的な関係において、考え方に大きな差は生じていないことが分かる。あえていえば二人以上世帯では「さほど不自由なく暮らせる」が微減、単身世帯では微増しているぐらいが、中長期的な変化といえるだろうか。またここ数年で両世帯種類とも「さほど不自由なく暮らせる」が増えているのも注目に値する(ただし二人以上世帯では調査方法が変更したのが原因の可能性もあるため、あと数年はようすを見る必要がある)。少なくとも今調査に限れば、公的年金受給額に関する心境は、昨日今日に騒がれ出した問題ではない。
なぜ年金だけではゆとりが無いと考えているのか
公的年金だけで老後の生活をまかなえるか否かについて、「ゆとりは無いが、日常生活費程度はまかなえる」「日常生活費程度もまかなうのが難しい」、要は「ゆとりが無い」とする回答者に、なぜ「ゆとりが無い」と考えているのか、その理由を選択肢の中から2つまで選んでもらった。その結果の直近年分および推移をグラフ化したのが次の図となる。
まず直近年分。回答数の平均値を見ると、二人以上世帯では1.61個なのに対し、単身世帯では1.57個にとどまっている。それだけ二人以上世帯の方が、ゆとりが無い世帯における不安要素が多岐にわたっていることが分かる。他方、単身世帯では最大の要因は「年金支給金額引き下げ」だが、二人以上世帯の場合は「物価上昇などで費用が増加」となっている。ロシアによるウクライナへの侵略戦争で資源価格などが高騰し物価が急上昇しているが、その物価高の心理的影響は単身世帯より二人以上世帯に大きくのしかかっていることになる。
第3位は両世帯種類で変わらず「年金支給年齢引き上げ」、第4位も両世帯種類で変わらず「高齢者への医療費用の個人負担増加」ではあるものの、二人以上世帯の方が値が高く、単身世帯との差がそれなりに出ている。これは二人以上世帯の場合、世帯主と配偶者双方の医療費用がかかるため、単純計算で単身世帯の2倍の負担増が懸念されるからに他ならない(どちらか片方だけだとしても、世帯ベースでの負担増加の可能性は単身世帯の2倍となる)。
経年変化では、単身・二人以上世帯ともに「支給金額の減額」を懸念する声がもっとも大きいことに違いは無い。また、以前は「高齢者への医療費用の個人負担が増える」ことを心配する人が多かったが、少しずつ減少する傾向にある。ただし直近年ではロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた物価高の影響で、「物価上昇などで費用が増加」を懸念する声が非常に大きなものとなっており、二人以上世帯では「支給金額の減額」すら追い抜いてしまった実情が確認できる。
このグラフからは、「いくらもらえるか」「いつからもらえるか」この2点における懸念が、年金生活における不安を底上げしている現状がつかみ取れる。現実問題として支給金額の減額や、支給開始年齢の引き上げが起きていることから、それらへの心配が増すのも道理ではある。また直近年における物価高の心理的影響の大きさもうかがいしれる。
■関連記事:
【年金生活をしているお年寄り世帯のお財布事情をさぐる(2022年公開版)】
※家計の金融行動に関する世論調査
直近分となる2022年分は世帯主が20歳以上80歳未満の世帯に対しインターネットモニター調査法で、2022年6月24日から7月6日にかけて行われたもので、対象世帯数は単身世帯が2500世帯、二人以上世帯が5000世帯。過去の調査も同様の方式で行われているが、二人以上世帯では2019年分以前の調査は訪問と郵送の複合・選択式、2020年では郵送調査式だった。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
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