戦法でみる将棋界この一年~角換わりの隆盛、矢倉の復活、振り飛車の未来~
2019年の公式戦も、29日をもって全て終了した。年明けは1月4日(土)から対局が始まる。
2018年夏には8大タイトルを8人で分け合う瞬間もあったが、2019年末時点では、渡辺明(35)が三冠、豊島将之(29)と永瀬拓矢(27)が二冠となり、複数タイトルを持つこの3人が中心になっている。
2020年はこの3人が引き続きタイトルを分け合うのか、それとも木村一基王位(46)や広瀬章人八段(32)がタイトルを獲得するのか。新人のタイトル挑戦など、群雄割拠で予想がつきにくい。
角換わりの隆盛
2019年に行われたタイトル戦(女流棋戦除く)は合計37局(2千日手)。そのうち4割近くが角換わり戦法(以下角換わりと略)だった。
角換わりは先手が9勝をあげ、勝率約7割と勝ちまくった。豊島竜王・名人は名人戦七番勝負と竜王戦七番勝負でともに角換わりで3勝をあげ、史上4人目の竜王・名人同時獲得の原動力となった。
渡辺三冠も、棋王戦五番勝負では角換わりで2勝をあげて防衛を果たした。
面白いことに渡辺三冠と豊島竜王・名人が対戦した棋聖戦五番勝負では、角換わりは1局しか登場しなかった。
矢倉の復活と横歩取りの凋落
その棋聖戦五番勝負では渡辺三冠が矢倉戦法(以下矢倉と略)で2勝をあげて奪取につなげた。
矢倉は35局中7局と、居飛車の四大戦法の中では2番目に多く指されている。
王座戦五番勝負では永瀬二冠が矢倉で2勝をあげたことで2つ目の戴冠を引き寄せた。
タイトル戦以外でも矢倉の採用が増えており、2019年は矢倉完全復活の年になったといえる。
横歩取り戦法(以下横歩取りと略)は永瀬二冠が叡王戦七番勝負で2勝をあげた。
しかしその後、名人戦第1局指し直し局、王位戦第1局で後手が敗れると、横歩取りを採用する棋士がいなくなってしまった。
横歩取りが指せないとなると、後手が居飛車を指す場合は先手に追随するよりない。
つまり先手は角換わり、矢倉、相掛かり戦法(以下相掛かりと略)の3つを自由に選択できるのだ。
今年のタイトル戦では先後で大きな勝率の差はなかったが、主導権を握れるところに先手の価値がある。
注目の相掛かり
2020年の注目は相掛かりだ。
2019年は、王位戦七番勝負で木村王位が先手だった3局全て相掛かりを選択したのが目立つくらいだった。
しかしタイトル戦以外では局数が増えており、若手棋士に愛好家が多い。
プロ1年目でいきなりタイトル挑戦を決めた本田奎五段(22)は、相掛かりを主軸として棋王戦の挑戦者決定トーナメントを勝ち上がった。相掛かりにおける勝率は8割以上だ。
棋王戦五番勝負で迎え撃つ渡辺三冠が、本田五段の相掛かりにどう対応するのか注目される。
先手番では角換わりをエースとする豊島竜王・名人だが、藤井聡太七段(17)との対戦では先手になった2局とも相掛かりを採用している。
藤井七段は今年も先手では角換わりが主軸で、8割を超える勝率で勝ち星を稼いだ。
角換わりを得意としている分、後手では相手に相掛かりをぶつけられることが多かった。
このように相手の得意を外す意味で相掛かりを用いるケースも増えそうだ。
振り飛車の未来
振り飛車は王将戦七番勝負で久保利明九段(44)が全局採用したが、渡辺三冠の前に4連敗と封じ込められた。
それ以降、タイトル戦で振り飛車が指されることはなかった。
一方、女流棋戦ではタイトル戦で相居飛車が1局もなく、振り飛車もしくは相振り飛車だった。
これはタイトルを分け合う里見香奈女流四冠(27)と西山朋佳女流三冠(24)がともに振り飛車党ということが影響している。
菅井竜也七段(27)がA級昇級を目前にするなど、振り飛車党の棋士も好成績を残している。
雁木の要素を振り飛車に取り入れた佐藤和俊七段(41)のように、いままでの振り飛車にはない感覚を取り入れることが、振り飛車復活のカギになりそうだ。
振り飛車党の若手棋士も増えており、2020年は振り飛車の巻き返しがあってもおかしくない。
来年流行する戦法は
どの戦法が流行するかによって、各棋士の成績にも影響が出てくる。
もし相掛かりが隆盛になれば、棋王戦で挑戦を決めた本田五段や、惜しくも挑戦権を取れなかった佐々木大地五段(24)など、相掛かりを得意としている若手棋士が一気に飛躍するかもしれない。
一方、年間通じてタイトル挑戦がなかった羽生善治九段(49)は、一手損角換わりや振り飛車を採り入れており、流行とはまた一線を画した戦法選択でオールラウンダーぶりを発揮している。
得意戦法に磨きをかけるのか、色々な戦法を採り入れるのか。棋士によっても考え方は様々だ。
戦法の流行といった観点から将棋を観るのも、また面白さの一つだろう。