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『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』最終回 鈴木亮平の覚悟を見届けよ

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
写真提供:TBS

鈴木亮平主演の日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系にて毎週日曜夜9時~)がついに今日、最終回を迎える。

東京都知事・赤塚梓(石田ゆり子)の強い願いのもと発足した、事故や災害など緊急時の現場でのオペを可能にした救命救急チーム「TOKYO MER」。海外紛争地域などでの医療従事経験を持つ医師・喜多見幸太(鈴木亮平)をチーフに、音羽尚(賀来賢人)、弦巻比奈(中条あやみ)、蔵前夏梅(菜々緒)、冬木治朗(小手伸也)、徳丸元一(佐野勇斗)、ホアン・ラン・ミン(フォンチー)と各分野の精鋭たちが結集。「待ってるだけじゃ、助けられない命がある」を信条に、彼らはどんなに困難な状況でも決してあきらめず、多くの人々の命を救ってきた。

しかし、MERに就任する前、テロへの関与を疑われ海外で投獄されていたという“空白の1年”が暴かれ、喜多見はまたたく間に窮地に立たされてしまう。追いうちをかけるように、かつて喜多見が命を救ったテロリスト、エリオット・椿(城田優)の卑劣な犯行によって最愛の妹・涼香(佐藤栞里)が命を奪われ、喜多見はMERを去ることを決意する。

このままMERは解散し、夢は潰えてしまうのか。MER最大の危機に喜多見は、そしてMERメンバーたちはどう立ち向かうのか。今夜の最終回をリアルタイムで見届けようと思っている人も多いだろう。

■喜多見幸太と鈴木亮平が重なる奇跡の瞬間

本作はここまでさまざまな生命のドラマを積み重ねてきた。

喜多見は決してスーパーマンのようなヒーローではない。相手の生命力を信じ、頼れる仲間たちの力を少しづつ結集し、その結果、命を救ってきただけにすぎない。メンバーに適切な指示を下し、生死の境をさまよう患者の名前を優しくも力強く呼びかけ、心臓マッサージを施しながら「頑張れ」「頑張れ」と必死に励ます喜多見の姿はこのドラマの名シーンの1つである。

突然の事故や災害、未知の病気の前に私たちはあまりにも無力だ。しかし、喜多見はそれでも「頑張れ」と叫び続ける。その瞬間、彼の瞳に命を守ることへの揺るぎない覚悟と決意が宿る。それは喜多見を演じる鈴木亮平の人間力がにじみ出る瞬間でもあり、彼が実生活で家族を持つ父親であることと決して無縁ではないだろう。

そんな喜多見の生き様は、MERメンバーの心も動かす。特に第5話では、出世のためにMERを潰そうと裏で動いていた音羽が、閉じ込められたエレベーターの中で天沼幹事長(桂文珍)より妊婦の命を優先する。その姿は誰がなんと言おうと喜多見そのものだった。彼もまたMERがこれからの日本に必要であると痛切に感じていたのだ。

あくまでも現場で最善を尽くそうとする喜多見と、胸にアツい想いを秘め権力の側からMERを守ろうとする音羽。方法は違えどMERに医療の未来を託そうとその身を捧げる二人の姿に、『踊る大捜査線』の青島と室井がオーバーラップした人もいるはずだ。

■俳優・鈴木亮平の底知れぬ才能と肉体美

鈴木亮平は多彩だ。とてもそんなイージーな言葉で片づけられないくらいの才能に溢れている。

大の世界遺産マニアであることはすでに有名だが、昨年は行ったことのない世界遺産について情感たっぷりに書き上げ紹介するという独創的なエッセイを上梓。イラストまで披露し、文才だけでなく絵にも非凡な才能を発揮した。現在公開中の映画『孤狼の血LEVEL2』のプロモーションでは、主演である松坂桃李の似顔絵まで描いてプレゼントしている。

そして俳優としては前クールの『レンアイ漫画家』からの『TOKYO MER〜』連投。そのタフネスぶりには感服するしかない。哲学者のようなインテリジェンスを漂わせる雰囲気と、無駄を極限まで削いだ肉体のバランスはまさに究極とも言える。

誤解を恐れずに言えば、彼はクセのある個性的な顔立ちではない。しかし、だからこそどんな役にも染まることが出来るのではないだろうか。

映画『俺物語!!』や『天皇の料理番』『西郷どん』など、たびたび話題になるボディコントロールも含め、変幻自在の役づくりはプロフェッショナルと呼ぶにふさわしい。まるでミケランジェロのダビデ像のように、パーフェクトでありながら見る人によっていかようにも姿を変える俳優なのである。

■命を最後まであきらめない人たちの叫びと願い

幸運にも今まで2度インタビューをする機会に恵まれたが、素顔の彼はとても穏やかな人物だ。その話し方から、取材時間の長短、ページの大小に関係なく、どんな媒体でも分け隔てなく、常に微笑みを絶やさずに誠意ある言葉を残していることが容易に想像できる。類いまれなるその人間力でぜひ海外にも進出し活躍して欲しいというのは決して無茶なオーダーではないだろう。

多くの医療従事者たちはもちろん、コロナ禍という未曾有の危機に直面しながら、日々、私たちは必死に生きている。鈴木演じる喜多見をはじめ、命を最後まであきらめない人たちの姿を描いた『TOKYO MER~走る緊急救命室~』は多くの人の心に深く刻まれるドラマとなった。

主演を務めた鈴木にとっても、この危機的状況の中、俳優である前に一人の人間として思うことがたくさんあるに違いない。それは私たちも同じである。「頑張れ」。喜多見の叫びは人間・鈴木亮平の叫びであり、私たちの願いでもあるのだ。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

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