「35年前の強盗の記事、訂正します」 秋田魁新報の論説委員に経緯を聞く
【GoHooトピックス3月16日】「正確でなかったため訂正させていただきます」ー秋田魁(あきたさきがけ)新報が3月4日、35年前に秋田市内で起きた強盗事件の記事を事実上訂正した。1面コラム「北斗星」の筆者が新人時代に取材して以来、被害者宅にあった現金が全て奪われたと思い込んでいたが、最近になってそうではなかったことが判明したという。日本新聞協会の綱領は「新聞は歴史の記録者」とうたっているが、実際に古い記事の誤りを訂正することはめったにない。筆者の論説委員長、相馬高道さん(58)は、日本報道検証機構の取材に応じ「コラムの趣旨は、たとえ遅くなったとしても知らないふりをしてはいけない、という戒めとすることにあります」と話し、事の経緯を明かした(コラム全文は秋田魁新報ウェブサイト参照)。
相馬さんが訂正したのは、1981(昭和56)年2月24日付で強盗事件について報じた記事。入社1年目(当時23歳)で警察を担当していたときに取材した事件だが、強盗らしからぬ展開をたどった。
2月20日深夜、秋田市内の高齢夫婦(当時、夫は84歳、妻は80歳)が住む民家に覆面をした男が押し入り、夫婦に果物ナイフのような刃物を突きつけて金を要求、現金3万円を奪って逃走した。犯人は夫婦に「後で返しに来る」と言い残していたが、そのとおり事件2日後、現金2万円が夫婦宅に速達で届けられた。残り1万円も3月9日付消印の郵便で返ってきた。同封された便せんには「親愛なるおじいさん、おばあさん、悪いことをして申し訳ありません。あの時から仕事も手につきません。もう悪いことはしません」と書かれていたという(3月17日付秋田魁新報)。声の感じから50歳くらいの男だったというが、結局、捕まらなかった。
相馬さんは、2月21日付朝刊の第一報から最後の1万円が返ってくるまで、何度も続報を書いていた。そのうち、「強盗?が2万円を返す 秋田市の老夫婦宅 事件2日後速達で」と見出しをつけた24日付の続報記事では、犯人とのやりとりを次のように伝えていた。
これについて、相馬さんはコラム「北斗星」で、「時の小紙は被害者宅にあった現金の全てが奪われたかのように報じている。実はまだ数万円あり、犯人に気付かれないように妻が隠し通していたことを、ごく最近になって知った」と明かし、「被害者夫婦は亡くなって久しいが、あっぱれである」「ということで、当時の記事は正確でなかったため訂正させていただきます」と書いた。
相馬さんによると、被害者の妻に直接取材していたが、夫婦宅にあった現金の全てを奪われたと思い込んでいたという。だが、今年2月末に後輩の女性記者(37)から「私の曽祖母の家に昔、強盗が入った」と聞き、彼女の曽祖母がこの事件の被害者の妻と判明。曽祖母がとっさに現金7万円か8万円を隠したことを事件後に娘(女性記者の祖母)に打ち明けていたこともわかった。
ただ、当事者は既に亡くなっており、真偽を確かめようがない。元の記事は「奪われた3万円が被害者宅の現金の全て」と明記していたわけではなかった。そのため、独立した訂正記事にはならなかったが、相馬さんは「3万円のほかにまだ現金があったと知ったからには、何らかの形で紙面に記録しておきたい」と思い、自ら担当するコラムで「訂正」したという。
相馬さんは「北斗星」で、米紙ニューヨーク・タイムズが2000年元日の紙面で、100年以上も誤った号数で発行し続けたことを訂正した例も紹介し、こう書いていたー
「It is never too late to mend(過ちを改むるにはばかることなかれ)である。それがどんなに昔のことであっても」。