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久本雅美、WAHAHA本舗での活動40年で見つけたお笑いの持論「一周回ってベタが一番おもしろい」

田辺ユウキ芸能ライター
久本雅美/写真:筆者撮影

「WAHAHA本舗の作品は無条件にバカバカしい。意味やテーマを考えなくても楽しめるんです」

結成から40年を迎えた劇団、WAHAHA本舗。その初期メンバーである久本雅美は、自分たちの特徴をこのように話す。劇団東京ボードヴィルショーのメンバーだった久本は1984年、同劇団の演出家・喰始、柴田理恵、佐藤正宏らとWAHAHA本舗を結成。久本は「どない考えても変わりもんの集まりでしたね」と振り返る。

「さらにそのあと、梅ちゃん(梅垣義明)が加わっていよいよすごいことになりました。梅ちゃんを入れた理由はただ一つ、顔がおもしろかったから。あんな顔、見たことがなかったですから。当時のWAHAHAはキャラ重視という部分はあったかもしれないですよね」

おもしろいことだけを追求「ほかの劇団と真正面から勝負するとか考えなかった」

どの劇団も真似ができないことをやる。そのため、過激で狂気じみていて、下ネタも繰り広げられた。久本は「ただただおもしろいことだけをみんなで志していました」と話す。

「ほかの劇団と真正面から勝負するとかまったく考えていませんでした。そうやっておもしろいことしかしていなかったから、劇団の方からは『WAHAHAって演芸でしょ?』と言われる。うちらも『そうなんです、宴会芸がでっかくなっちゃって』と笑ってごまかす。逆に演芸の方から『WAHAHAは劇団だよね?』と言われたら、『はい、劇団です』と答える。そうやって現在までうまいことやってきましたね」

そんなWAHAHA本舗がなぜ40年も続いているのか。久本は「WAHAHAがバカバカしいことをやるのを待ち構えている、お客さんのおかげ」と話す。なんでもWAHAHA本舗のファンは「イジられ好き」なのだそう。

「梅ちゃんの鼻から豆飛ばしも、『こっちへ飛ばして』という人までいて(笑)。体験型テーマパークみたいなもんで、その方向性は昔からですね。『24時間耐久バスツアー公演 ワハハの脱線スチャラカ珍道中』(1989年)なんて、バスで志賀高原(長野)の旅館へ行って、着いたら舞台をやって、そのあとも各部屋に仕掛けを作って。それだけでも大変だったのに、お客さんが全然寝てくれないから、うちらも休めない。オチでは、ワケが分からん宇宙船を用意してそれに乗ってうちらが帰ることになっていたけど、その演出がうまくいかんかったから、上の方まで自分らで走って。もう大変でしたわ。お客さんを見送ったあと、疲れ果てて大宴会場で突っ伏しましたね。若手メンバーも帰りのバスで着ぐるみのまま寝てましたから。ああいうのは、うちらも若かったからできたこと。今は9時、10時で眠たくなりますから」

叩かれた芸風「私の笑いって受け入れられへんのかな」

母親の言葉に励まされたという久本雅美/写真:筆者撮影
母親の言葉に励まされたという久本雅美/写真:筆者撮影

久本自身はWAHAHA本舗での活動当初、自分の個性の薄さに悩んでいたと話す。それでも、喋りのうまさには光るものがあった。先輩との飲み会でも「金はいらんから、おもろい話だけ持って来い」と誘われていたそうだ。

他人と比べることをやめて、自分はどんなことが得意なのかを改めて考えるなかで、1985年の公演『底抜け』で披露したオカルト二人羽織がウケた。女子高生と悪魔のせめぎ合いを二人羽織で表現したその芸について「(悪魔役の)吹越満くんと『ああでもない、こうでもない』と言いながら作り上げていったら、喰ちゃんが『予想以上におもしろい』と。それを舞台でやったら大爆笑で」と振り返る。

そこで吹っ切れ、覚醒できたという久本。ピンでテレビ番組などからも声がかかるようになり、一気に売れっ子に。ただ、股間を叩くなどWAHAHA本舗のノリをそのままテレビでやっていたことから「なんやこの女は、とか言われましたね」と苦笑いを浮かべる。当時は叩かれすぎてさすがに「しんどい」と思い、「私の笑いって受け入れられへんのかな、周りに迷惑かけてるんちゃうかな」と悩んだ。そんなある日、ワイドショー番組が久本の母親に「娘さんがやっていることが下品で恥ずかしく思ったことはありますか」と取材したという。そのときの母親の言葉が、今でも久本の背中を押してくれている。

「母は『10人中、10人が好きと思うのは無理です。1人、2人でいいからうちの娘を見て元気になってくれたらそれで嬉しい』と。あれは名言でした。その言葉が私を励ましてくれました」

『R-1』『THE W』では審査員を担当、久本雅美がたどり着いた笑いの持論

2001年から2003年にかけては、「好きなタレント調査」で女性部門1位に輝いた。久本は「その結果を見た関根勤さんがすぐ電話をかけてきてくれたんです。『いやあ、嬉しくて女房と抱き合ったよ。時代が変わったって』とおっしゃってくれて。たしかに関根さんが言うように、時代って変わっていくもんなんやなって思いましたね」と語る。

WAHAHA本舗の一員として、そしてピンでも長く活動してきた久本。お笑いを審査する立場もつとめ、『女芸人No.1決定戦 THE W』、『R-1ぐらんぷり』(現『R-1グランプリ』)、『NHK新人お笑い大賞』などでジャッジもおこなった。そんな久本には、お笑いに関して一つの持論がある。

「先ほどお話ししたように、時代は変わるもの。でもこれはWAHAHAをやり続けて実感できたことなんですけど、笑いって、一周回ってやっぱりベタが一番おもしろいんですよね。もちろんWAHAHAでも難解なものを取り入れたりもするんですけど、それでもまず大事にしているのはお客さんに分かりやすく伝わるかどうか。誰でも安心して笑えるものが、ほんまにおもろいんちゃうかなって私は考えています」

WAHAHA本舗は9月から12月まで、40周年を記念して全国ツアー『WAHAHA本舗40歳記念全体公演「シン・シンワハハ40」』を開催する。久本は、同公演の見どころをこのように話す。

「40周年公演と聞くと、みなさんは総集編的な内容を考えるはず。でも違います。40周年は一つの通過点ですから、新作で勝負します。WAHAHAの中心メンバーはみんな高齢者ですけど、『そんな人らがなにをやってるねん!』というものをお見せします。ご覧になったみなさんに『この人らでもこんなにやってるんやから、自分も頑張ろう』と力を与えるような舞台にしたいですね。まだ“WAHAHAワールド”を知らん人がいたら、この機会に1回見ておいた方がええです。死ぬまでに1回、WAHAHAを。まあ、好きか嫌いかはあなたの判断ですけど(笑)」

久本雅美:1958年生まれ、大阪府出身。1984年、劇団東京ボードヴィルショーを経てWAHAHA本舗を設立。WAHAHA本舗の活動と共にタレントとしても多数のバラエティ番組、テレビドラマ、舞台作品などに出演。2024年7月現在、バラエティ番組『秘密のケンミンSHOW極』でMC、情報番組『ヒルナンデス!』のレギュラーなどを担当している。2024年9月より、WAHAHA本舗の全国ツアー『WAHAHA本舗40歳記念全体公演「シン・シンワハハ40」』を開催。公演詳細は「WAHAHA本舗」公式サイトを参照。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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