主演映画が続く石川瑠華。共同生活の一夜を描く『stay』で「新しい自分になりたい気持ちに共感します」
本格デビューから3年ながら、映画『イソップの思うツボ』で注目され、今年は主演映画2本の公開が控える石川瑠華。持ち主のいない空き家で勝手に共同生活を送る男女らを描いた短編映画『stay』でもヒロイン格で、鮮烈な印象を残している。独特な演技を裏打ちしているものを、本人の話から探ってみた。
映画を観たことがないまま演技を始めました
――石川さんは過去のインタビューを読ませていただくと、女優らしい発言が多いですよね。「役の中に私の色が出てしまうのがイヤ」とか「普通の人を普通に演じられる人になりたい」とか。
石川 演技を始めたのが3年くらい前で、最初に習った段階で「見たいのはあなたでなくて役なんだ」という教えが、自分の中で刺さったんです。確かにそうでなきゃいけないと思ったし、自分が映画を観ても、役のことを好きになれる作品が好きだったので。
――好きな映画に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を挙げられていましたが、女優を志すルーツになったような作品はありますか?
石川 私は大学まで映画をまったく観ない生活をしていて、お芝居をやろうとワークショップに行ったときも「キミは何をしに来たんだ?」という状態だったんです(笑)。それから勉強しようと映画を観始めて、勉強抜きに好きだと思える作品にも出会えました。
――たとえば?
石川 最初は李相日監督の『怒り』や『悪人』でした。自分の一番深いところに刺さるのは、ああいう人の汚れた部分だったりします。外国の映画もまったく観たことがなかったんですけど、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラース・フォン・トリアー監督を好きになってから、観るようになりました。
――少女マンガ原作のラブコメとかではなかったんですね。
石川 そういうのも好きなんです。言うのは恥ずかしいんですけど、キラキラ青春モノのピュアな「恋が叶った!」というのに、まんまと感動させられます(笑)。『君に届け』とか『青空エール』とか。自分がそういう作品に出ていいのかは、よくわかりませんけど(笑)。
――中高生の頃は、ドラマも観てなかったんですか?
石川 観ていませんでした。まず演技というものを履き違えていた気がします。高校生の頃、一度演劇部にお邪魔して、お芝居をしたことがあったんですけど、たぶん見苦しいものだったと思います(笑)。「私を見て!」みたいなことが、演技だと思っていたので。
強い女性に惹かれてフランス映画にハマって
――本格デビューから3年で映画を中心に出演作が相次いでいるのは、自分の何が買われているからだと思いますか?
石川 それを自分で言って書かれるのは恥ずかしいですね(笑)。でも、作品によって私の要るところもあれば要らないところもあって、必要とされたら行く感じです。たぶん、自分に誰が見ても良いところがあって使ってくれているわけでなくて、役によって合う部分があったから、出演させていただいた形だと思います。
――演技力を磨くために、日ごろからやっていることはありますか?
石川 私は高校まで、ずっと勉強をしてきて、大学に入ったら、しなくなりました。高校の頃は人を測る物差しが頭が良いか・悪いかしかなかったのが、高校を出てから「そういうことじゃない」と思い始めたんです。一番大事なのは気持ちというか。人と関わるうえで、相手をどれだけ傷つけないようにするかとか考えて、行動することを心掛けるようになりました。それで勉強はしなくなったんですけど、最近は「やっぱり勉強しよう」と思い直しました(笑)。演技でも、気持ちだけで動くのはやめようと。
――演技について勉強というのは、映画を観たりすることですか?
石川 1人の監督の作品を観続けるようになりました。レオス・カラックスさんだったり、最近になって(ジャン・リュック=)ゴダールをバシバシ観るようになって、面白いなと思いました。
――フランス映画に惹かれるものがあって?
石川 確かに、どっぷりハマってますね。フランス映画に出てくる女性って、強くて自分にないものを持っていて。私はたぶん臆病だと思うんですけど、臆病さを許さないところが観ていて惹かれて、すごく励みになります。
自己嫌悪から新しい場所に行こうと
――これまでの出演作で、入りやすかった役とか難しかった役とか、ありましたか?
石川 自分で好感が持てて共感できれば、入り込みやすいです。でも、その役の醜い部分だけが描かれていて、あまり好きでないと思ってしまうと、まず好きになることから始めないといけないので、そこは壁だったりもします。
――たとえば『イソップの思うツボ』の、亀だけが友だちの女子大生役はどうでした?
石川 あの子は信念があって理解もできて、まあ好きでした。6月に公開される『猿楽町で会いましょう』で主人公を演じたときは、脚本を何度読んでも好きになれるような子ではなくて。
――つかみどころがない感じの読者モデルの役なんですよね?
石川 ただかわいくあればいい役ではなくて、醜い部分もさらけ出さないといけない。かと言って、悪役で終らせたくもなかったんです。「こういう面倒くさくて醜い女がいるよ」と示すものではない気がして、そんな役を好きになることから取り組むのは難しかったです。
――間もなく公開される『stay』のマキはどうでしたか?
石川 理解はすぐできました。年齢もたぶん20歳くらいで、撮影したときは私も21歳でしたし。劇中では描かれてないのですが、一度自己嫌悪に陥って違う環境に踏み出した行動を裏設定として考えて、新しい自分になりたい気持ちも共感できました。
――大学に入ってからの自分とも重なって?
石川 確かに通じますね。私も新しい場所に行きたかったので。
別の自分を演じている役だと思いました
2020年の「SKIPシティDシネマ国際映画祭」の短編部門で優秀作品賞を受賞した『stay』。ある村の持ち主がいない古い空き家で、マキ(石川)ら男女5人が共同生活をしていた。役所から派遣された矢島(山科圭太)が退去勧告を言い渡しに来たが、リーダー格の鈴山(菟田高城)のペースに巻き込まれ、その家でひと晩を明かす羽目になり……。
――マキの演技プランは事前に練ったのですか?
石川 私はたぶん練らないほうだと思います。他の演じ方が見えなくなるよりは、事前に考えても現場で空っぽにするほうがいいかなと。
――さっき出たように、短編映画の中で描かれてなかったマキの背景について、想像はしたんですね?
石川 あの家に来るまで何をしていて、何があって自分を変えたいと思ったのか、自分では考えてきましたけど、役者同士で共有はしなくて、監督ともそこまで話さなかった気がします。たぶんマキというのも本当の名前でなくて、あの家でだけ使っているイメージはありました。
――マキが明るくて躊躇なくモノを言うのは、作ってるまではいかなくても、意識して背筋を伸ばしているような印象がありました。
石川 そうですね。力の入れ具合とか、ナチュラルではない感じは私もしました。たぶん、ここで新しい一歩を踏み出そうとして、普段と違うマキという人間を演じている感じだったのかなと。一緒に暮らしているサエコさんとかは大人だから、俯瞰で見られて、ちょっと作っていることに気づかれているとマキは感じていて。だから、家で安心感はありつつ、ビクビクもしていたように思いました。
何を伝えたいのかはずっとわからなくて
――演じるうえで、試行錯誤はあったんですか?
石川 撮影していたときは、この映画のテーマが全然理解できなくて、「何を伝えたいんだろう?」とずっと考えてました。監督に聞いて答えてもらっても、頭がちゃんと追い付かなくて、もう1回聞く……みたいなことはしてました。
――最終的には自分の中で消化できたんですか?
石川 何となく(笑)。あと、マキのキャラクターはわかっていたので、そこにいることはできました。
――最後のほうで、マキが「何でもやってみるんだよ」と言ったのが、普通の言葉ですけど妙に印象に残りました。
石川 たぶんマキの信念というか、目標だったんでしょうね。「今は何でもやってみるんだよ」という。大人になったら違うんでしょうけど、あの年齢でそこにいるマキだから、言えたことだと思います。
――予告編にも入ってますが、空き家のリーダーに「鈴山さんが他のところに行けばいいじゃん」と言った心情については、どう捉えましたか?
石川 そこは一番、心が動いているシーンだと思いました。この家の中で鈴山さんとうまくやりたいけど、何かトゲのあることを言ってしまう。そこが大人と子どもの境ですよね。
自分が演じた役を観て元気づけられます
――マキが大学時代の自分と通じるとのことでしたが、石川さんにとって大学はそんなに合わなかったんですか?
石川 何だろう? 単位を取って卒業して就職するために、うまくやっている人が多かったんです。それが私はできなくて、バカにされたことがあって、「何だこれは?」と思いました。そういうことがあまり好きでなかったし、自分が何か確固たるものを持っていればバカにされないと思って、外に出たというのはあります。
――勉強はかなり一生懸命やっていたんですよね?
石川 高校まではやってました。教師になりたいと思っていて。でも、その気持ちがなくなってからは、やらなくなっちゃいました。
――芸能界は自分に合っていた感じですか?
石川 居心地がいいというか、人も含めて、すごく好きです。映画を好きになったことが一番大きいかもしれません。
――演じることの面白さややり甲斐はどんなときに感じますか?
石川 自分の出た作品の自分が演じたキャラクターに、自分自身が元気づけられます(笑)。その過去にしかできなかった自分の役を見て、生きる希望をもらって「これからも頑張ろう」と思えて。あと、役から自分のことがわかるのも面白いです。ナルシストなのかもしれません(笑)。
現場ではずっと役のままでいたくて
――『stay』の話に戻ると、撮影したあの家の空気感が、演技に影響した部分もありました?
石川 実際に改修中の古民家で撮ったので、やっぱり空気感はすごく影響したと思います。田舎で山に囲まれていて、すごく居心地が良くて。集まった役者さんたちがマイペースだったので、私も現場でマイペースでいられました。
――現場に入ったときから、マキになっていた感じですか?
石川 この映画では、私は菟田さんは菟田さんでなく鈴山として見てたり、遠藤(祐美)さんはサエコとして見てました。皆さんを役として見ることを許可してくれるような現場だったので、私もマキのままでいられて。現場によっては、カメラが回ったら切り替える人もいて、合わせないといけないときもあるんですけど。
――石川さん自身は役のままでいたいタイプ?
石川 そうですね。でも、それはただのわがままですから。
――カメラが回ったら、急に役に入る役者さんもいるそうですね。
石川 それが最近まで信じられなくて。私の視野や価値観が狭かっただけですけど、「そんなのウソじゃない?」と思ってました。「急に切り替わるなんて、本当に気持ちはあるの?」と。今はそれがプロだとわかって、自分もできるようにならないといけないんですけど、この現場では周りも役のままだったので助かりました。
――こういう共同生活を実際にしてみたいと思いました?
石川 いや、してみたくないです(笑)。できないと思います。きれい好きな人とかだと、たぶんぶつかります。
――石川さんはきれい好きではないんですか?
石川 自分の物をどこに置こうが、自由にさせてほしいです。その頑固なところが、きれい好きな人の頑固さとぶつかったら、たぶん楽しくないかな。
役によってイメージを変えたいです
――石川さんには「有名になりたい」とか、上昇志向みたいなものはありますか?
石川 やっぱりありますかね。ドラマに出たいとか。
――女優として目指しているポジションもあったり?
石川 そこはたぶん、なるがままになると思います。ただ、ドラマとか幅広く出られていれば、自分を伝えられる媒体が増えて、自分なりの伝え方をしていけるんだろうなと。あと最近、観る方を楽しませるような人になりたいと、思うようになってきました。
――エンタテイメントとしての意識が高まってきたんですね。最初に「自分でなく役を見せたい」という話がありましたが、現実的には良い・悪いは別にして、女優さん自身のイメージのほうが重視されがちなところがあると思います。石川さんは「役を見せる」という部分は貫くわけですね?
石川 イメージはあっていいと思いますし、私も「こういう人なんだろうな」というイメージで観たりします。でも、人ってそんなに単純ではないので。明るいイメージなら明るさだけで自分を狭めてしまうのはもったいなくて、ひとつのイメージだけで自分を見られることは、あまり好まないですね。役によって変われるようになりたいです。
――女優業以外で、人生で成し遂げたいことはありますか?
石川 ないんですよね、仕事以外の野望は。老後は田舎で、たくさんの本に囲まれた部屋で、落ち着いた生活をしたいというのはありますけど、今はそれも必要なくて。タワマンに住みたいとかもありません(笑)。
――仕事にまい進するのみ、ですか。
石川 今のところはそうです。つまらない話ですいません(笑)。
Profile
石川瑠華(いしかわ・るか)
1997 年3 月22 日生まれ、埼玉県出身。
2019年に公開の上田慎一郎監督らの映画『イソップの思うツボ』にオーディションで選ばれて主演。同年に主演した『ビート・パー・MIZU』で「MOOSIC LAB2019」短編部門の最優秀女優賞。他の主な出演作は、映画『左様なら』、『恐怖人形』、ドラマ『13』など。主演映画『猿楽町で会いましょう』が6月4日、『うみべの女の子』が8月20日に公開。
『stay』
監督/藤田直哉 脚本/金子鈴幸 配給/アルミード
4月23日よりアップリンク渋谷ほかにてロードショー