イスラエル占領下のシリア領ゴラン高原マジュダル・シャムス村に着弾したのはイスラエルのミサイル?!
イスラエルが占領するシリア領ゴラン高原のマジュダル・シャムス村のサッカー場に7月27日、ロケット弾、あるいはミサイルが着弾し、子供ら12人が死亡した。
マジュダル・シャムス村
マジュダル・シャムス村は、イスラエルの占領地と兵力引き離し地帯(シリア政府支配下)によって分断された村として知られ、村人たちは双方を隔てる境界線(ラインA)を挟んで、毎日拡声器などを使って連絡を取り合うことで知られている。
住民の多くは、イスラーム教ドゥルーズ派の宗徒で、今もシリア人としてのアイデンティティを維持し、イスラエルに好意を抱いていない者も少なくないとされる。
ゴラン高原は1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領、1981年に一方的に併合した。2019年には、ドナルド・トランプ政権下の米国がゴラン高原におけるイスラエルの主権を認めたが、世界のほとんどの国はイスラエルの併合を認めてはいない。
イスラエル軍発表
イスラエル軍は7月27日の現地時間午後7時1分、テレグラムを通じて、レバノンから占領下ゴラン高原のマジュダル・シャムス地域に飛翔体1つが飛来し、着弾、負傷者が発生したと発表した。続いて、午後8時18分には、状況評価と諜報によると、飛翔体はロケット弾でレバノンのヒズブッラーが発射したものだと断じた。さらに、午後10時17分には、発射地点がイスラエルの占領下にあるレバノン領のシャブアー農場北だと主張した。
その後7月28日未明に、イスラエル軍のヘルジ・ハレヴィ参謀総長が声明を出し、サッカー場に着弾したロケット弾が53キロの弾頭を装填したイラン製のファラク1ロケット弾だと明かした。そして同日午後7時55分には、テレグラムの公式アカウントで、サッカー場で回収されたロケット弾の破片とファラク1ロケット弾を比較する画像を公開した。
ヒズブッラーの発表
これに対して、ヒズブッラー(レバノン・イスラーム抵抗)は7月27日午後10時3分に声明を出し、「イスラーム抵抗は事件とまったく関係ない。この件についてのすべての虚偽の主張を断固として否定する」と発表した。
イスラエル軍とヒズブッラーの双方の主張に食い違いが見られる。シリアとレバノンの主要メディアは、ヒズブッラーの関与に否定的な報道をする一方、シリアの反体制派系サイトは、スワイダー24がその典型であるように、ヒズブッラーによる攻撃だと断じた。
マヤーディーン・チャンネルの検証
こうしたなか、ヒズブッラーに近いレバノンの衛星テレビ局のマヤーディーン・チャンネルは7月27日、イスラエル軍のアイアン・ドーム防空システムのミサイルが誤作動、あるいはロケット弾などの飛翔体の迎撃に失敗してサッカー場に着弾した可能性が高いとする検証レポートを放映した。
以下ではその概要を紹介したい。
イスラエル軍は、サッカー場に着弾したのがイラン製のファラク1ロケット弾だと主張し、ヒズブッラーはこれを否定しているが、双方の主張のその真偽を判断する前に、以下の点を明らかにする必要がある。
1. ファラク1ロケットは、口径240mm、全長1320mm、推定射程10km、最大飛行高度3.5km、50kgの高性能爆薬弾頭装備、固体燃料ロケットによる推進であること。
2. 高性能爆発弾頭が地表に衝突した瞬間にクレーターが形成されるはずであること。
3. ファラク1ロケットは発射後2秒で固体燃料を使い果たすこと。
4. アイアン・ドーム防空システムは2024年7月25日にヒズブッラーの無人航空機の迎撃に失敗し、ガリラヤ地方で火災を発生させており、同様の事案はこれまでにも多数発生していること。
5. マジュダル・シャムス村の住民の大多数は、1967年の占領時に同地に留まったドゥルーズ派のシリア人で、ヒズブッラーが指導するレバノン・イスラーム抵抗は同地を攻撃したことがないこと。
6. アラブ・アル・アラムシェ村などイスラエル北部の居住地への攻撃において、ヒズブッラーは誘導式のミサイルや無人航空機しか使用していないこと。
7. ヒズブッラーは2006年のイスラエルとの交戦(レバノン紛争)時などにおいて、誤射については真摯にその非を認め、謝罪していること。例えば、2006年7月16日にナザレに対する誤射で住民に犠牲者が出た時には、ハサン・ナスルッラー書記長が謝罪をしていた。
以上を踏まえたうえで、被害現場の状況を検証すると、以下の通り指摘できる。
1. 発生したクレーターは2メートルほどで、「53キロの弾頭を装填したイラン製のファラク1ロケット弾」が着弾した場合は、より大きなクレーターが発生するはず。サッカー場のクレーターは10kg程度の爆発物によるものと推定される。
2. このクレーターは、イスラエル北部のキリヤット・シュモナ入植地に着弾したファラク1ロケットによって生じたクレーターと比べても小さく、浅い。
3. ヒズブッラーがファラク1ミサイルよりも小型のロケット弾を使用した可能性は否定できないが、ファラク1ミサイルが使用されたとしているのはイスラエル側であるため、この可能性については排除し得る。
4. サッカー場で発生した爆発を捉えた映像では、大きな火の玉が発生したが、高性能爆薬弾頭は、爆発に際してこうした火の玉を生み出すことなく、代わりに強力な爆風と激しい破片を発生させる。
5. アイアン・ドーム防空システムのミサイルの飛行距離は約70kmであり、マジュダル・シャムス村近くから発射されていたのであれば、大きな火の玉を生み出すに十分な燃料が残っていた可能性が高い。
マヤーディーン・チャンネルは、以上のような検証結果を総合して、サッカー場に着弾したのが、ヒズブッラーのファラク1ミサイルであるよりも、イスラエル軍のアイアン・ドーム防空システムのミサイルである可能性が高いとの見方を示している。
戦争においては、味方に不利な情報、敵に有利な情報は隠ぺいされる傾向にあり、拡散される情報は自らを正当化し、他者を貶めようとするものがほとんどである。それゆえ、マヤーディーン・チャンネルのレポートの真偽を安易に断定することはできない。とはいえ、こうした情報が存在し、拡散されているという事実を知ることは、戦況を冷静に捉え、紛争の当事者に身を落とすことを避けるために必要不可欠な作業である。