<ガンバ大阪・定期便VOL.1> 宇佐美貴史のゴラッソ。
FW宇佐美貴史がJ1リーグ7節のヴィッセル神戸戦で、今シーズン2得点目となるミドルシュートを叩き込んだ。少々言葉を荒くするならば、ゴールをぶち抜いた、という印象のゴラッソだ。
「ずっと相手に打たれっぱなしの展開の中、1〜2つチャンスがあればと思っていたので、最後の最後になりましたが終盤に2点目を取って勝利を決定づけるという意味では良かったです。あの距離のシュートは、練習が終わったあとのシュート練習で毎日、4〜5人の選手とやっているので迷いはなかった。コースも見えていたのでその通りに飛んで行きました」
ゴールが決まった瞬間は喜びをあらわにしながら、ベンチにいるFW小野裕二のもとに駆け寄った。試合前の昼食をご馳走になった小野への『お礼』だ。会計の段になって、財布の中にお金が入っていないことに気づいた宇佐美は偶然、一緒になった小野に支払いを頼んだと言う。小野も「今日ゴールを決めてくれたらいいよ」と快く応じたらしく、その時の約束があの抱擁につながった。喜びのあまり宇佐美の後方から抱きついてきた井手口陽介に押されて、少々、抱擁が激しいものとなり、勢い余って小野の鎖骨に顔をぶつけた宇佐美は鼻血を出したが、その痛さでさえも嬉しく感じる値千金の決勝点だった。
そのゴールシーンで度肝を抜かれたのが宇佐美の足の『振り』だ。前線の選手では唯一、再開後のJ1リーグで先発出場を続ける中、疲れが顕著に現れる終盤、86分にミドルレンジから豪快に右足を振り抜いた。もともと足の振りの速さやシュートやキックの正確性には定評があるが、実は本人にはそれを意識して磨いた記憶はない。
「誰かのフォームを真似したり、足の振り方をみて参考にするほど、あてにならないものはない。体の造りはもちろん、筋力も、リーチも違うのに真似したところで同じことは絶対にできない。だからたくさん蹴って、自分がいちばん蹴りやすい形を作らなアカン。ボールの置き場所、足のスポットのどこに当てるとか、足首の角度とか体の角度まで、繰り返し蹴ることでつかんでいくしかない。と言っても、子供の頃は特にそんなことも思わずにただただ、繰り返しボールを蹴っていただけ。プロになって周りからは足の振りが速いとかシュートが巧いって言ってもらえるけど、サッカーを始めてこれまで一度も振り足を速くしようなんて考えたこともなければ、シュート練習を熱心にした記憶もない(笑)。気づいたら巧くなっていたって感じです。ただ何度も言うように、小さい頃からめちゃめちゃボールは触ったし、蹴っていたし、一番やったドリブル練習の最後には必ずシュートで終わっていた記憶はある。そこで自然に身についたのかも」
と言っても、自分のプレーにも、その『武器』についても「まだまだ」だと話す。彼が一番好きなサッカー選手と話す元スペイン代表、MFシャビ・アロンソとは「比べ物にならない」と。
「正直、キックはめちゃめちゃ自信はあるけど、成功率で考えると、おそらくシャビ・アロンソは80%くらいで、僕は40〜50%やと思う。もちろん、試合の状況、サッカースタイルにもよるし、シャビはポジション的に蹴れるところにいるから前への展開もするし、クサビも当てるし、背後にも出すし、彼からの1本のパスでカウンターも成立するのに対し、僕は彼ほど蹴れるポジションにはいないから単純な比較はできないけど。ただ、シャビはそれに加えて守備も巧いし、気も利くし、戦術眼も深いから。つまり、サッカー選手としてパーフェクト。もう引退してしまったけど、今でもサッカー選手の中では一番好き」
そんな宇佐美の最近のプレーについて特筆すべきは、攻撃における存在感に限らず、チームとして求められている前線からの守備力、ボール奪取力だろう。思えば、記憶に新しい5節の大分トリニータ戦でも、宇佐美の前線からのボール奪取からFWアデミウソンの決勝ゴールが生まれた。
「今シーズンは前線から守備をすること、後ろの選手が奪いやすいようにコースを限定する守備というのをFWにも求められている。アデ(アデミウソン)のゴールシーンも、そうしたチームとしての狙いがうまくハマった。ただ、試合前からあまり前から行きすぎると、相手が狙いとしていることがやりやすくなってしまうということは話していたので、相手がボールを持っても怖くなかったということもあり、相手にボールを持たせるところまでは持たせて、自分たちが守っているゾーンまで来た時にしっかり潰すという意識でやっていました。それがうまくハマっていた中でボールを奪って速く攻める、という今年のテーマにしているところが出て、アデにアシストすることができた」
と同時に、エースのそうした献身的かつ、ハードワークは仲間の士気をも促し、走らせ、ガンバ大阪を「闘える集団」に変貌させつつある。であればこそ、厳しい連戦でのJ1リーグ『4連勝』は、決してフロックではない。