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『ウルトラマンタロウ』の必殺技・ウルトラダイナマイトが「命を縮めるキケンな技」というのは本当か!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

ウルトラマンタロウの必殺技・ウルトラダイナマイトをご存じだろうか。

自分の体を爆弾化して、怪獣とともに爆発し、バラバラになってしまうという豪快なワザだ。

あまりにキケンな技のため、使うとタロウの寿命を縮めてしまうという。

えっ、死なないの? 縮めるだけ?

と驚かれる読者もおられようが、ウルトラの戦士はそのくらいのことでは死にません。

とくにタロウは、えんま怪獣エンマーゴに剣で首を切断されたこともあるのだが、そのときもお地蔵様の力でよみがえったのだ(その回のタイトルは「タロウの首がすっ飛んだ!」。実にわかりやすい)。

しかし、科学的に考えれば、不可解な技である。

体を爆発させちゃって、なぜ大丈夫なのか? いったいどれほど威力のあるワザなのか? 

本稿では、ウルトラダイナマイトについて考えたい。

◆相手は目つぶし星人!

それが、どのような爆発だったのかを確認してみよう。

ウルトラダイナマイトが使われるのは『ウルトラマンタロウ』第35話。

主題歌の前にタイトルが出る。それによると「必殺!タロウ怒りの一撃!」。

おお、ウルトラダイナマイトの威力を期待させる優れたタイトルだ!

そのまま、ワクワクしながら勇壮な主題歌を聞いていると、歌の終わりに、登場する怪獣の名前が示された。それを見て愕然。

「目つぶし星人カタン登場」

目つぶし星人!? そんな脱力するようなヤツを倒すのに、タロウは命懸けの荒技を出したのか?

だいたい「目つぶし星人」と名乗るからには、生まれた星は「目つぶし星」。

宇宙旅行はしてみたいけど、そんな星には断固行きたくない! 

ついでに次の回を見たら「猫舌星人グロスト登場」。

宇宙はいったいどうなってるのでしょー!?

そんなことを気にしている場合ではなかった。

必殺技が炸裂する場面に注目しよう。

その名に恥じず、タロウの視力を奪う目つぶし星人。ZATの朝比奈隊長はとっさに叫ぶ。

「よし、ベル作戦だ!」

いったいどんな作戦かと思ったら、ZATの戦闘機・スカイホエールが巨大な鈴を発射し、目つぶし星人の首に巻きつける。以後タロウは鈴の音を頼りに戦うのだった……。

テンションが高いんだが低いんだか、判然としない戦いである。

こういう流れのなかに、空前の危険な技を繰り出す機会が、いつ訪れるのだろうか?

◆1回使うと寿命が20年縮む

筆者の心配をよそに、タロウはいきなり「ウルトラダイナマイト!」と叫んだ。

そして炎に包まれて突進し、大爆発!

画面手前に、タロウの腕の破片とおぼしき赤い物体が飛んできた……!

ところが、やがて煙の中からタロウの勇姿が現れる。カスリ傷一つない。

う~む、いったいどうなっておるのだろうか?

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

『愛蔵版ウルトラマンタロウ超全集』(小学館)によると、その秘密はタロウだけが持つウルトラ心臓にあるという。

ウルトラ心臓が無事な限り、タロウは不死身なのだ。爆発してバラバラになった細胞はウルトラ心臓のもとに集合し、タロウは甦る。

しかしあまりに危険な技なので、これを1回使うと寿命が20年縮まってしまうらしい!

20年縮むとはすごい話だが、冷静に考えると、タロウは1万2千歳である。

ウルトラの父など、16万歳。ウルトラ一族はモーレツに長生きなのだ。

仮に平均寿命が20万歳だとすれば、ウルトラダイナマイトが寿命を20年縮めたとしても、一生の1万分の1。人間にしてみれば3日である。

逆にいえば、生涯に1万回使えるわけで、うーん、これを「危険なワザ」ととらえるかどうかは微妙な気も……。

◆効果はどれほどか?

劇中で見ると、このワザが炸裂したとき、炎と煙は半径50mほどにしか広がっていない。予想外に小さな爆発なのだ。

爆風が及ぶ範囲が半径50mだとしたら、ウルトラダイナマイトの威力は爆薬4.7t分。タロウの全体重5万5千tの0.009%にすぎない。

つまり全身を爆薬にするのではなく、体の0.009%を爆薬に変えて爆発させ、その威力で自分の体をバラバラにしているのではないだろうか。

すると、怪獣にダメージを与えるのは、彼の飛び散った破片である。

爆薬4.7t分のエネルギーが、総重量5万5千tの破片にすべて与えられた場合、破片が飛び散る速度は時速96km。

うーん。タロウは時速1240kmで走れるという設定だから、体当たりをブチかましたほうが300倍も効果的なのでは……。

このように考えると、ウルトラダイナマイトはなかなかショボい技である。

だが、そのほうがよいと筆者は思う。

ウルトラマンタロウが、体重5万5千tすべてを爆薬と化して炸裂させたら、あまりに威力が大きいのだ。

原爆のエネルギーから計算すると、爆風は半径5.4kmまで広がると思われる。

東京の四谷あたりで爆発した場合、山手線の内側が灰燼に帰す!

街の真ん中で戦うことの多かったタロウとしては、全力でウルトラダイナマイトを使うわけにもいかないだろう。

しかも、4.7tとはいえ、その分は爆薬として確実に消費されるはずだ。

このワザを1回使うたびに、タロウは4.7tずつ痩せていくのかもしれず、そう思えば、確かにこれは「命を削るキケンな技」かもしれません。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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