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ウクライナ副首相「ウクライナで製造された監視用から攻撃用までドローン2000機以上を最前線に」

佐藤仁学術研究員・著述家
(ウクライナ政府提供)

2023年11月にウクライナ副首相のミハイロ・フェドロフは自身の公式SNSで「2000機以上のウクライナで製造されたドローンを最前線に提供します。今回提供される"鳥たち"は特別に、マルチコプタータイプ、神風ドローン、監視用ドローン、リサイクルした攻撃ドローンなどが含まれています」と伝えていた。ウクライナ軍はドローンをよく鳥(Bird)に例えており「ウクライナ軍のドローン」を"Our Birds(我々の鳥たち)"と称することが多い。

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。ウクライナ軍では監視・偵察目的で調達した民生品ドローンに爆弾や手りゅう弾を搭載してロシア軍の上空から落下させたり、ドローンごと突っ込んでいき爆発させたりしている。

ドローンの調達と確保は国家防衛の生命線

ウクライナ軍では上空からFPV神風ドローンで戦車や大砲、塹壕などに突っ込んでいき爆発させている。そのような攻撃シーンの多くはFPVで撮影して公開している。ウクライナ軍にとって重要な兵器である。

ウクライナ軍だけでなく、ロシア軍もイラン製軍事ドローン「シャハド」でウクライナ軍に突っ込んでいったり、ウクライナ軍と同じように民生品ドローンに爆弾を搭載してウクライナ軍に爆弾を投下して攻撃を行ったりしている。両軍によって上空のドローンの迎撃と破壊も頻繁に行われている。ウクライナ軍はロシア軍のドローンを毎月数百機ほど破壊している。ウクライナ軍のドローンもロシア軍によってかなり破壊されている。

今回、ウクライナ軍は2000機の様々な種類のドローンを最前線に送る。11月初旬にはFPV神風ドローン1500機を送っていたばかりである。副首相は頻繁に「ドローン何機を戦場に送っている」とSNSでアピールしているが、ドローンは監視・偵察用も攻撃用も何機あっても戦場では足りない。攻撃に成功する前にロシア軍に破壊されてしまうことも多いし、神風ドローンは敵軍に突っ込んでいくと爆発してしまうので、基本的に再利用ができない。ウクライナ軍はロシア軍のドローンを破壊したりすると写真や動画をSNSで公開している。またウクライナ軍ではほぼ毎日、ロシア軍の破壊状況の数字を報告している。2022年2月にロシア軍が侵攻してからウクライナ軍はロシア軍のドローンを5700機以上破壊していると報告している。これはあくまでもカウントできた数字であり、実際にはもっと多く破壊している。ロシア軍も同じようにウクライナ軍のドローンを徹底的に破壊しているので、ドローンは何機でも必要である。戦場でのドローンは数の勝負である。

今回、ウクライナ政府はウクライナで製造された2000機以上のドローンを最前線に送る。最近ではウクライナではもっぱらウクライナ国内でのドローンの製造に注力している。ドローンの製造自体は部品さえあれば組み立てるだけなので、戦車やミサイルなど大型兵器に比べると開発と製造は難しくはない。組み立てたドローンに爆弾や手榴弾を搭載して出荷するだけであるので製造(組立)の時間も大型の兵器に比べると短時間で完成する。

クラウゼヴィッツは『戦争論』の中で「数の優位は戦術においても戦略においても勝利の最も一般的な原理である」(クラウゼヴィッツ著・清水多吉訳「戦争論(上)」中公文庫、2001年、P276)と語っていた。ドローンの生産スピードと自国に備蓄量がどれだけあるか、現場にどれだけ早く納品できるかが今後のウクライナ紛争での1つのカギになってくる。ウクライナだけでなく紛争が発生した時にはあらゆるタイプのドローンの調達と確保は国家防衛と安全保障の生命線になりうる。

▼2000機のドローンを最前線に送ることを伝える副首相

▼FPV神風ドローンでロシア軍の軍事設備を破壊するウクライナ軍

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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