ポケモンGOの兄弟であるイングレスが「大失敗」と言われてしまう理由
各種メディアによるポケモンGOの来る来るリーク合戦に振り回され、毎日のように淡い期待を込めてスマホアプリのストアでポケモンGOを検索し続けている皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
私自身は、先日のポケモンGOの記事では日本が後回しのイライラが隠せずに思わず取り乱してしまいましたが、最近のメディアの飛ばし記事合戦に何だか少し冷めてしまった今日この頃です。
ただ、そんな中先週こんな記事が物議を醸していたのが気になったので、今日はこちらをご紹介したいと思います。
挑戦的な記事タイトルと前半の記事の中身自体は別として、この記事が注目されたのはポケモンGOの兄貴分にあたるイングレスを「失敗」と表現している点。
その後、読者から「イングレスは失敗ではないのではないか」というコメントがついたところ、さらに長文の追記で「結論から言うと米国のゲーム業界(また一般ゲーマー)においては、既にIngressは大失敗(単なる失敗作ではなく大失敗)とみなされている。」と言い切って、イングレスユーザーの間でちょっとした話題になりました。
まぁ、この記事の記者が言いたいことは分からないでもありません。
世間一般にポケモンGOが出る前のナイアンティックやイングレスに対して、普通のビジネスマンが評価をすれば、簡単に「イングレスは失敗」という結論が出るでしょう。
その理由は簡単。
「イングレスは儲かっていない」、からです。
イングレスは儲かってないから「失敗」?
もちろん、イングレスも企業向けスポンサーメニューがありますし、課金アイテムも開始しましたから全く収入がないわけではありません。
ただ、イングレスの開発にGoogleとナイアンティックがかけた年月は6年以上。
それも当然一人や二人の開発者で作ったわけではないでしょうから、その投資額は膨大なはずです。
一時期のイングレスは、完全無料のゲームだったこともあり、サーバー代も稼げていないのではないか、とユーザーに心配されたこともありましたし。
参考:【サーバー代ぐらいは稼いでくれ】Ingressプレイヤー、さすがにサーバー負荷を気遣う
昨年末のナイアンティック日本代表の村井さんのインタビューでは、
「Ingressを継続して提供しようとしても、続ければ続けるほど赤字だと、事業として健康的だとは言えません。Ingressを健全に、そして永久的に提供できるような仕掛けを、我々は考え続けなければいけません。」
とイングレスが赤字体質(もしくは赤字に近い体質)であることが暗に言及されています。
参考:Ingressの影の主役が表舞台に--村井社長のナイアンティック日本法人戦略
実際、昨年10月にイングレスが課金アイテムの販売を始めた後も、ついぞイングレスがアプリのセールスランキングの上位に上がってきたという話は聞きません。
パズドラやモンストなどのスマホゲームが何年もの間トップに居座り続けているのとは対称的です。
要はイングレスは、他のスマホゲームに比べるとお世辞にも儲かっているといえるゲームではないわけです。
そういう意味では、冒頭の記者の方の価値観からすると、
・イングレスは儲かっていない
↓
・イングレスは失敗
という思考回路になるのは良く分かります。
金銭的価値のみで「成功」を判断する誤り
でも、これ典型的なウォールストリート型思考回路なんですよね。
金銭的価値でのみ成功を測ってしまうあすパターンです。
この思考回路では絶対に新しいイノベーションなんておこせません。
現在のイングレスは、まだビジネスモデルが確立していない新しいイノベーションです。
位置情報を使ったエンターテイメントという新しい世界を切り開こうとしている開拓者です。
当然新しいイノベーションですから、収入がすぐについてくるとは限らないわけです。 で、歴史を振り返ってみてもらえれば、これは何も目新しいことではありません。
そもそも、ナイアンティックの親会社であったGoogleも、検索エンジンが収益をあげるまで、現在のGoogle Adwordsの仕組みに出会うまで、全く収益をあげられていない事業でした。
検索エンジンなんて作っても意味がないと言われてた時代があるわけです。
Yahooのようなディレクトリ型のポータルがあるから良いじゃないかと。
今考えたら信じられない話ですよね。
そもそも、Googleが買収したYouTubeも、インフラコストばかりが膨大にかかる金食い虫でした。
冒頭の記者みたいなタイプの人は、当時GoogleがYouTubeを買収したときの値段を見て、高すぎるという批判をするんですよね。
2006年のGoogleによるYouTubeの買収額2000億円ですよ。
正直、当時は私もその金額におったまげましたけど、2014年にはYouTubeの企業価値は4兆円を超えるという試算もありましたし、2020年までにYouTubeの売上が2兆円になるんじゃないかという予測も出てたりするわけです。
メチャメチャ安い買い物だった、というオチなわけです。
もちろん、これらは結果論でしかないんですが。
少なくとも、新しいイノベーションをその時の売上だけ見て評価して「失敗」とレッテルをつけるのって、明らかに間違っているわけです。
大企業が自社内で新規事業を初めた際に、リソースとかもろもろ考えたらどう考えてもベンチャーより有利なはずなのに、なぜか新しいイノベーションをおこせなくなる罠がここにあります。
売上や利益という分かりやすい数値だけを見てビジネスを判断するようになると、収益モデルが確立していない新しいイノベーションを生み出すことなんて不可能なわけです。
イングレスは明らかに「成功」している
イングレスは、冒頭の記事にコメントをつけた人が書いているように、実際に万単位の人々を「移動させる」ことに成功したイノベーションです。
昨日のアドタイのコラムにも書きましたが、ローソンや伊藤園とのコラボでもビジネス的に成果が出ることを証明しはじめてもいるのです。
参考:ポケモンGOが「店舗」のマーケティングの常識を変えるかもしれない
結果的に今でこそポケモンGOが、イングレスの存在を吹き飛ばすほどの大成功を収めつつあるので、結果的にイングレスは失敗だったけどポケモンGOが成功して良かったね、みたいな論調が一部で出てきてますが。
イングレスは実は位置情報ゲームにおけるOSでありプラットフォームでありデーター収集装置なんですよね。
あれを単体のゲームとして評価することに意味がないわけです。
イングレスユーザーが日々足を棒にしてイングレスをプレイし、ポータルを申請し、位置情報ゲームにおける問題を見つけ、フィードバックしたことで、ナイアンティックは今から他の誰かが追いつこうと思っても永遠に追いつけないだろうと思えるほどの位置情報の具体的な生のデータを大量に収集することができているわけです。
あれだけのデータをアルバイトとかにお金を払って集めようと思っても、数千万円とかじゃきかないわけですよ。
ある意味イングレスは、ユーザーに毎日無料でボランティアでデータ収集に協力してもらったと思えば、その稼働コストだけでも相当な金額の貢献が生まれているはずです。
確かにゲームとしては地味でしたし、分かりづらいですし、私のようなゲーマーからするとレベル8あたりからのレベルアップがゲームと言うよりは修行的な単純行為の繰り返しに突入するので、私自身もレベル10までいって脱落してしまったのは事実ですが。
その分、奥が深く、はまると長く続けられる構造で、修行僧タイプの人達が延々やりこんで続けているからこそ、現在のポケモンGOのベースとなる膨大なデータやノウハウがナイアンティックに溜まり続けているわけです。
暑い夏の週末にお台場に1万人集めているわけですからね。
参考:1万人参加のIngress公式イベントは東京6区を舞台に過去最大スケールに
このイングレスファンの人達の熱量を見れば、これを「失敗」と呼ぶことがいかに愚かなことか分かるはずです。
これからポケモンGOの成功を見て、色んな会社がドラクエGOとか妖怪ウォッチGOとかAKB48GOとか企画すると思うんですけど。
現在のところナイアンティックと一緒に作る以外は、中途半端な位置ゲーしか作れないという現実に悩まされることになるでしょう。
そういう意味では、イングレスはそれ単体でも間違いなくプラットフォームの種として「成功」していましたし、その成功はポケモンGOの大成功により薄れるのではなく、ポケモンGOの大成功によりイングレスの「成功」がより強固に確認された、と考えるのが正しいのだと思います。
まぁ、そんなことよりも、個人的にはこの新しいイノベーションから生まれたポケモンGOを、日本の大多数の人が世界の他の国の人よりも経験するのが遅れてしまっているということ自体が、ある意味これから始まるであろうさらなる位置情報ゲーム系のイノベーション合戦に日本人や日本企業が出遅れる一つの要因になってしまうんじゃないかということに、改めて悲しくなってしまったりするわけですが。
そういうことを書いてると、またポケモンGOが日本市場を後回しにしたことに対するイライラが戻ってきてしまいそうなので、今日のところはこの辺で。
もうこうなったら、今週末とは言いませんから、遅くとも7月中には、せめて夏休み中には、息子たちとポケモンGOを笑顔でプレイできることを心から祈っております。