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ハリルホジッチ解任の引き金とは? 日韓戦に決定的な”ズレ”があった

清水英斗サッカーライター
E-1選手権、日韓戦で競り合う昌子源(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

ハリルホジッチ解任の引き金を引いたのは、マリに1-1で引き分け、ウクライナに1-2で敗れた、今年3月の欧州遠征だった。しかし、それは突然の判断ではなく、3月の時点で、すでにハリルホジッチ解任の引き金に手がかけられていた。

契機となったのは、前年12月に行われた東アジアE-1選手権だ。

「韓国に大敗した。そのところで話し合いはされていた。この方向だとW杯は難しいんじゃないかと。改善しなければいけないんじゃないかということで3月(欧州遠征)を迎えたわけです」

「そこで改善されていなかったので、今回、こういうことになった。急ではなくて、前から話し合われていたんだけど、結果、改善されないから、このままではW杯で勝つことはできないから、ということで監督交代になった」

出典:デイリースポーツ

同じような説明は、日本サッカー協会の田嶋幸三会長も行っている。E-1選手権のハリルジャパンは、北朝鮮に1-0、中国に2-1と連勝を飾った後、韓国に1-4で大敗した。この日韓戦の結果と内容が、ハリルホジッチ解任の引き金に手をかけさせ、その状態で3月を迎えた。ハリルホジッチ解任は突然ではなく、その伏線として、サッカー協会では議論が行われていたそうだ。

しかし、ならば問いたい。その議論は、はたして正しい議論だったのか?

E-1選手権が行われた日程は、国際Aマッチデーではないため、海外組を招集できていない。さらに、ACLに勝ち残っていた浦和の選手も、槙野智章を筆頭に、全員が招集外だった。当時のA代表の主力で、E-1選手権に出場したのは、若手の井手口陽介だけだ。

戦力的なことは元より、さらに難しいのは、ほとんどの選手が初顔合わせだったこと。今まで代表に招集すらされていない選手が多く、お互いのプレーをよくわかっていない。チームはほぼぶっつけ本番だ。この状態で連係プレーを行うことの難しさは、E-1選手権の期間中、ほとんどの選手が口にしていた。2連勝したものの、最後は1-4で韓国に敗れたために、「国内組はだらしない」と感じた人もいるはず。しかし、初顔合わせで連係が存在しない、インスタント選抜が勝てるほど、韓国は甘い相手ではない。

一方、「その条件は韓国も同じだろう?」……と思いきや。

それが違うのだ。もともと今の韓国は、欧州組の比率が少ない。攻撃陣にソン・フンミンを始めとする欧州組が数人いるだけで、守備側はA代表と変わらないメンバーだ。つまり、韓国の場合は、A代表もE-1代表もほとんど変わらない。連係の積み上げがしっかりとあるチームだった。

つまり、欧州組の多い日本と、少ない韓国。明らかなハンデ戦なのだ。Aマッチデーに行われた試合ならともかく、E-1選手権がサッカー協会で、チームのパフォーマンスや解任云々を議論する場になったというのは……正直、理解しがたい。客観的な分析をせず、「日韓戦は特別」という魔界の言葉に、踊らされてしまったのではないか?

実際のところ、日韓戦を迎えるハリルホジッチの姿は、単なるテストマッチに向かうものだった。最終予選の最中は、誰よりも激しいアクションで喜怒哀楽を露わにしていたハリルホジッチが、E-1選手権ではピッチサイドに出ようともしない。ずっとシートに座ったままだ。その姿から察するに、E-1選手権における勝利は、普段に比べるとプライオリティーが低かった。最も大きな目的は、ワールドカップの23人に食い込む、“個人”を発掘すること。

しかし、日本サッカー協会の見方はそうではない。プレ解任マッチとして見ていた。「日韓戦は特別」だったのだ。この特殊なレギュレーションのE-1選手権に、進退のプレッシャーをかけること自体が、個人的には愚かだと思うが、それでもいいなら、それでいい。しかし、その方向性が、ハリルホジッチに伝わっていたのだろうか。

韓国戦後の記者会見で、ハリルホジッチは韓国の強さを称えるばかりで、普段の負けず嫌いな性格が、ほとんど見られなかった。むしろ、グッドルーザー。テストマッチ感が丸出しだ。あの大敗によって、自分の進退を心配するような様子は、微塵もなかった。

この試合の位置付けは、ハリルホジッチとサッカー協会の間でズレていた。それはすり合わせ、状況確認を怠った、協会側の失態でもある。客観的な目線から、「この試合がハンデ戦」「個人を発掘するための試合」といった試合の位置付けを、メディアに発信するべきだったし、逆に「日韓戦は特別」「プレ解任マッチ」と考えるなら、そのようにハリルホジッチ本人に伝え、試合の方向性を示さなければならない。しかし、その様子はなかった。

選手との間でも、ズレていた

位置付けがズレていたのは、協会とハリルホジッチだけではない。ハリルホジッチと選手にも、ズレがあった。1-4で大敗した韓国戦の後、E-1選手権でキャプテンマークを巻いた昌子源は、シートに座ったままで、普段の負けず嫌い性をまったく見せないハリルホジッチについて、「そういう雰囲気は(ピッチで)やっている選手にも伝わる」と不満を述べていた。

E-1選手権の代表チームが、実質的にはB代表やC代表であっても、選手にとっては華の舞台だ。家族や友人は楽しみに見守っていたはず。華の舞台に、すべてを尽くす気持ちがあったと想像できる。

しかし、ハリルホジッチの立場からは、半年後を見据えたテストマッチだ。チームとしての出来はあまり関係なく、個人を発掘したい気持ちが強い。お互いの立場による、試合目的のズレは、間違いなくあった。国内組限定だが、選手と監督の信頼関係に、多少なりともヒビは入っただろう。それに対処できなかったのは、ハリルホジッチの落ち度でもある。もしかしたら、長谷部誠、槙野智章、吉田麻也、川島永嗣などのうち、誰か1人でもE-1代表にいたら、状況は変わったかもしれない。監督の立場や考えを理解し、間に入って伝える選手も、E-1代表にはいなかった。

選手、監督、サッカー協会は、それぞれが異なる時間の中で生きている。選手は目の前に対する短期の目線、監督はワールドカップに向けた中期の目線、サッカー協会は2050年のワールドカップ優勝に道筋を付けるための長期の目線。このような目線の違いを、埋める努力が、各所に足りなかった。

ハリルホジッチ解任につながった遠因。E-1選手権で起きた”目線のズレ”は、反省しなければならない。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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