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続 「がん」とはなにか

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
英語でがんは'Cancer'と言う。蟹と同義の単語だ(写真:アフロ)

前回筆者がリリースした「『がん』とは何か」に続き、Q&A形式でがんの質問に答えます。前回はかなり基本的な内容だったので、今回は少し突っ込んだお話をしましょう。前回と同様、専門用語を使わずにわかりやすく説明します。

Q、「がん」になりやすい人っているの?

はい、がんになりやすい人はいます。

がんのなりやすさを考えるためには、「生まれつきの要素=遺伝」と「生まれたあとの生活=環境」の二つで考えましょう。

まず、遺伝です。家族にがんにかかった人が多い人は、がんになる危険性が少々他の人より高いと考えられます。少々高い、と言われても困るかもしれませんが、まだはっきりとわかっていないのが現状です。例えば大腸がんでは、遺伝する大腸がんの家系の人がいますがすべての大腸がんの中で2〜5%だけと言われています。このような遺伝するがんについても、研究途中なのです。

そして次に環境です。がんになるかどうかを決めるのはこの環境の方が遺伝よりはるかに大きい影響があると言われています。例えばタバコ、お酒、食生活、運動するかしないか、放射線などです。

ところが問題なのはこの環境遺伝するということです。例えば大酒飲みの親を持つ子供は大酒飲みになる可能性が高く、また大酒飲みは喫煙者が多いというように、生活環境はその育った環境などで決まりますから、広い意味では遺伝すると言ってもいいでしょう。それも含めた意味で、がんは遺伝すると言えるかもしれません。遺伝環境という二つの要素は、実はこのように複雑に絡み合っているのです。

Q、がんは人から人にうつるの?

いいえ、がんはうつりません。

その理由は2つあります。

一つ目は、他人のがんはその人の体から離れた瞬間にダメになってしまいます(細胞が死んでしまいます)から、それをいくら飲み込もうが注射しようがうつるのは難しいという点です。

もう一つは、人間の体には外部から入ってきたものを全て敵とみなしてやっつける迎撃システムが備わっています(このシステムを免疫(めんえき)といいます)。ですから、もし万が一仮に生きたがん細胞が体の中に入ってきても、あっという間にやっつけられてしまうでしょう。しかしこれは実験があったわけではないので、あくまで理論上ということになります。

ただ、この迎撃システムが弱っているか停止している時にとても元気な(=悪性度の高い)がん細胞が入ってきたらどうでしょうか。これは、もしかしたらうつる可能性があるかもしれません。実際にマウスの実験などではがん細胞を埋め込んで増えるかどうかをみるような実験がよくされますが、人間ではまずありえないシーンでしょう。

ちなみに筆者も毎日患者さんのお腹から取り出したがんを触っていますが、がんにはなっていませんよ。

ただ、一つだけ注意が必要なことがあります。それは、「がんそのものはうつらないが、がんの原因になるような細菌やウイルスはうつる」ということです。例えば胃がんの原因の一つであるピロリ菌という菌は、衛生状態の悪い水道などからうつることがあります。

Q、私ががんになる確率はどれくらい?

これはデータを引用しましょう。ちょっと古い2011年のデータですが、

生涯でがんに罹患する確率は、男性62%(2人に1人)、女性46%(2人に1人)。

出典:国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』

です。ざっくり言えば、2人に1人はがんにかかるということです。つまりこれをお読みのあなたか、書いている私のどちらかはがんにかかると言えます。ただ注意したいのは、これイコール「2人に1人がんで亡くなる」訳ではないということです。

では、何人に1人ががんで亡くなるのか。

再び同じページからの引用です。

生涯でがんで死亡する確率は、男性26%(4人に1人)、女性16%(6人に1人)。

出典:国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』

これは現状がそうなっているだけで、今後は変わってくると予想されます。高齢化が進むにつれがん患者さんは増えていますから、おそらくがんで死亡する可能性はさらに増加していくと考えてよいでしょう。

余談ですが、英語でがんのことをCancerと言います。この単語は、この記事の写真にもある「蟹」と同じ単語です。蟹座もCancerと言うので、星座占いで知っている人もいるかもしれません。

なぜ蟹ががんの意味になったのか。これは、もともと皮膚に露出してしまったような進行した乳がんの見た目がゴツゴツとして、まるで蟹の甲羅のように見えたからという説があります。日本語ではがん=癌=岩です。ゴツゴツした岩のイメージですから、少し欧米の見方とは違ったのですね。

(参考)

国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』

日本家族性腫瘍学会ホームページ リンチ症候群とは

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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