「政府が禁じた集まりに行った」「尾行されていないか確認」…北朝鮮国民の過半数が「秘密会合」を経験
北朝鮮は、憲法67条で「公民(国民)は言論、出版、示威(デモ)、結社の自由を持つ」と謳っている。しかし、現実は全くの逆だ。言論、出版のすべては国のコントロール下にあり、デモなどありえない。結社の自由はおろか、飲み会などの私的な集まりですら状況によっては禁止されることがあり、運が悪ければ見せしめとして処刑されてしまう。
しかし、国がどれだけ禁止しようと人々は集まり続ける。
韓国のハンハナロ研究所が先月開催したシンポジウム「北朝鮮の市民社会の実態分析と育成戦略」で、崇実平和統一研究院のイ・シヒョ研究委員は、脱北者150人を対象にした市民社会に関する発表を行った。
回答者の58%は「政府が禁止した集まりに参加した経験がある」と答えた。集まりの種類としては「韓国ドラマ、映画の鑑賞」(38.7%)、「韓国音楽の鑑賞」(28%)、「韓国社会や政治についての話」(12%)などが挙げられた。
もちろん、こうした会合への参加が当局に知れたら、処刑を含む厳罰の対象になる。それでも、人々はこれを止めようとしない。
(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為)
北朝鮮の若者は、Bluetoothを使って携帯から携帯へとドラマ、映画、K-POPのPVを転送し、ネズミ算式で増えていく。プライベートで密かに楽しむと同時に、家に集まって皆で見たり聞いたり踊ったりすることも楽しんでいるようだ。
イ研究委員は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)のインタビューで、「北朝鮮政府が最も懸念しているのは、情報が入り続けることと、人々が集まること」と語った。
当初はごく親しい間柄の人々が集まってドラマや映画を見るだけの集まりが、あちこちでできるようになり、やがて市民社会に繋がっていく可能性があると見ているようだ。
2005年に脱北した両江道(リャンガンド)出身のソ・チョリョンさんは、RFAのインタビューに、北朝鮮にいたころは、韓国映画を見る集まりに頻繁に参加していたと述べた。
「兄の友人宅で(韓国)映画を見ました。外に明かりが漏れないように窓に覆いをしてカーテンを閉めます。帰りは尾行されていないか確認します」
そして、このような小さな集まりは、完全に信用できる人だけを集めて行われているため、決してなくなることはないだろうとソさんは述べた。
1998年に脱北した清津(チョンジン)出身のキム・スギョンさんも次のように述べた。
「友だち同士で誕生日パーティで集まってインド映画を見たという話を聞きました。それは国の認めていないものです。今でははるかに広がったことでしょう。幾何級数的に増えたでしょうから」
米国の人権団体「北朝鮮人権委員会」(HRNK)のグレッグ・スカラチュー事務総長は、「住民が複数集まって禁止行為に参加することで、誰かが告発するリスクが減る」と語った。つまり、その場にいた誰かが安全部(警察署)に通報すると、通報した本人も法的責任を問われてしまうというので、秘密が守られるということだ。
一方、イ研究委員は、北朝鮮の政権に対抗する集まりや行為に参加した人が、12.7%に達する点にも注目した。そのほとんどが市場に対する取り締まりへの抗議だ。
韓国の聯合ニュースとのインタビューで、「(政府批判、抗議の)経験比率は高くないが、北朝鮮の閉鎖性と全体主義的性格の政治的圧力に対抗する集まりの存在は、市民社会が芽吹き出した」という意味だと話した。
これについてスカラチュー事務総長は、「自由な討論、当局の政策に反対する段階ではなく、市民社会の形成と見るには無理がある」と述べた。
米ヘリテージ財団のブルース・クリンナー上級研究員も、北朝鮮国民の政権への不満を感じての行動ならば市民社会の性格を持つが、今のところはわからないとしつつ、反体制運動とみなされる活動への参加は非常に危険なため、慎重な行動が求められるとも述べた。