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台風30号、被害を拡大させた高潮 日本では?

増田雅昭気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ所属
気象庁ホームページより

世界的に見た場合、気象災害で人的被害が最も大きくなるのが、大規模な高潮です。

フィリピンを襲った台風30号でも、被害を拡大させました。現地からの報告によると、5メートル以上の高潮が押し寄せた所もあるようです。

近年では、2005年にアメリカで、ハリケーン「カトリーナ」によって高潮が発生。ニューオリンズなど広範囲が浸水するなどして、死者は1500人以上に。また、2008年には、サイクロン「ナルギス」による高潮で、ミャンマーでは13万人以上もの死者・行方不明者が出ています。

これら熱帯低気圧による高潮は、気圧が低くなることにより、大気が海面を押さえつける力が弱まって海面が上がる「吸い上げ効果」、また、強い風が陸に向かって海水を押し込む「吹き寄せ効果」などによって起こります。強い風が原因になることから、風津波とも言われることがあります。

日本でも、戦後で最も大きな気象災害は、高潮によるものです。1959年の伊勢湾台風では、伊勢湾岸を中心に高潮が発生し、5千人以上の死者・行方不明者が出ています。

伊勢湾台風以降、国内では防潮堤などが整備され、昔ほど大きな人的被害は起こりにくくなっています。もし今、東京湾で、伊勢湾台風クラス(上陸時の気圧が929.6hPa)が、最悪のコースを通ったとしても、大規模な被害は出ないとされています。

ただし、これは、全ての設備が正常に機能した場合の話です。当然、想定通りにいかないことを想定しておく必要がありますし、伊勢湾台風クラス以上の台風が、将来的に来ないとは言い切れません。

近年でも、1999年の台風18号の高潮では熊本県不知火町で13人の方が、また、2004年の台風16号では瀬戸内海沿岸で高潮が発生して3名の方が亡くなっています。

この2004年台風16号の高潮は、忘れられません。

台風解説をしていた番組に、「急に水が家に入ってきた!何が何か分からない」など混乱した様子が記されたメールが、次々と届きました。夜間ということもあり、多くが、高潮が起こっていることを把握できていない内容でした。

今回のフィリピンでも、高潮をイメージできていない人が多かったことが、被害拡大の一因ではないでしょうか。

「高潮の恐れ」と聞いて、現象をリアルにイメージできる。そういった最低限の知識が、災害から身を守る一歩だと思います。

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ所属

TBSテレビ・ラジオ気象キャスター。大学在学中に気象予報士を取得し、民放キー局の報道番組に学生予報士として出演。気象キャスターに携わりながら、企業への予報やアドバイザーも長年担当し、甲子園での高校野球の大会本部気象担当を務めたこともある。災害から身を守る気象情報の使い方など講演も行うほか、Twitterで気象情報を毎日発信。著書に『TEN-DOKU クイズで読み解く天気図(ベレ出版)』がある。1977年滋賀県甲賀市生まれ。

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