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ロシアW杯の裏に「残酷物語」 北朝鮮労働者が受ける虐待

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

2018年サッカーW杯ロシア大会の会場となるスタジアムの建設現場で、北朝鮮から派遣された出稼ぎ労働者が、奴隷のような労働を強いられていることが明らかになった。

アキレス腱を切断

ノルウェーのサッカー専門誌「ヨシマル」は、「現在、進められているサンクトペテルブルクのクレフスキー・スタジアムの建設現場で、北朝鮮の労働者が搾取されており、死者まで出ている」と報じた。

海外に派遣された北朝鮮労働者の人権が著しく侵害されていることは、すでに国際社会の知るところとなっている。本欄でも、ロシアの建設現場で、労働者の身体に危害が加えられるなどの極めて深刻な事態が起きていることを報じているが、ヨシマルの報道によって、改めて裏付けされた形だ。

例えば、昨年にはロシアのハバロフスクである北朝鮮労働者が現場から逃走する事件が発生。この労働者は発見され、監視役として派遣されていた国家安全保衛部員(秘密警察)に連行された。その後、見せしめのためひどい暴行を受けた。監視役は労働者が、再び逃げられないようにアキレス腱を切ったり、掘削機で足を叩き潰したりするなど、非道の限りを尽くしている。

(参考記事:アキレス腱切断、掘削機で足を潰す…北朝鮮労働者に加えられる残虐行為

ヨシマルによると、クレフスキー・スタジアムの建設には、少なくとも110人の北朝鮮労働者が動員されたという。昨年8月には、60人の北朝鮮労働者が建設現場に投入され、50人の労働者が競技場のペンキ塗りの作業に動員された。労働時間は、早朝7時から深夜0時までという長時間で、貨物コンテナを改造した宿舎で生活しなければならない。

劣悪な労働環境のため、昨年11月には、北朝鮮労働者のうち一人が建設現場で死亡した。まるで奴隷労働のような暗い雰囲気が漂っているという。

あるロシア人の現場監督は、北朝鮮当局から、労働者を雇用しないかと打診された。そして、昨年夏ごろから年末まで100人の北朝鮮労働者を終日働かせる見返りとして600万ルーブル(約1160万円)を要求されたという。

このうち、400万ルーブル(約773万円)は北朝鮮当局がピンはねをし、残った200万ルーブル(387万円)を派遣会社と労働者が折半する。仮に8月から12月までの5ヶ月間に、100人の労働者が働いたとしても、1人が手にする給料は2万円にも満たない。

北朝鮮の労働者が、劣悪な労働環境に置かれ、虐待を受けているのはロシアだけでの話ではない。

美貌のウェイトレスは売春も

昨年4月、中国・浙江省にある北朝鮮レストランから、男性支配人と女性従業員12人ら計13人が集団脱北し、韓国入りした事件は大きなニュースとなった。背景には、北朝鮮レストランの多くのウェイトレスが、ハードな通常業務に加えて、本国から要求される厳しい売上ノルマのため、「売春」強要などの虐待を受けるケースもあるとされる。

(参考記事:中国の北朝鮮レストランで「強制売春」説が浮上

海外以上に、北朝鮮国内における労働環境が過酷であることは言うまでもない。例えば4月15日の故金日成主席の生誕記念日にあわせて、ダムや大型建造物を建設する。北朝鮮で最大の祝日と位置づけられているこの記念日に合わせて輝かしい成果を出し、盛大に迎えるというわけだが、無理な工期や劣悪な労働環境で事故が多発している。

1989年4月には、高速道路の建設がムリなペースで進められた。その過程で、建設途中の橋が崩落する事故が発生し、500人が120 メートル下の川原に落下。後に韓国へ逃れた目撃者たちの証言によれば、川原には原形をとどめない死体が散乱し、救助の看護師たちが気を失うほどの地獄絵図と化したという。

(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

世界最大のスポーツの祭典であるサッカーW杯の裏で、このような人権侵害が行われていることに、国際サッカー連盟(FIFA)も敏感に反応した。ヨシマルだけでなく、英BBCなどのメディアが、ロシアにおける北朝鮮労働者の人権侵害を報道したことにより、FIFAは「人権侵害行為を糾弾し、もしロシアのワールドカップの建設現場で確認されたら、そのような状況は容認しない」と警告した。

一方、ロシアのワールドカップ組織委員会は、「建設現場に北朝鮮の労働者がいるのは確かだが、非常に少ない割合だ。建設の最終段階の非常に短い期間に働いていた」と弁明した。

北朝鮮の人権侵害は国内だけでなく、国外にも及んでいる。国際社会は、いかなる国家、企業、個人であろうと、この人権侵害に直接的、間接的に関与することに対して、より厳しい目を向けるべきだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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