アップル、クリックホイール特許の「蒸し返し」無効化に失敗
2月16日付けでアップルによる無効審判の審決取消訴訟の判決文が公開されていました。結果は請求棄却です。無効審判の対象である特許3852854号とは、かつてiPodに使用されていたハードウェア式のクリックホイールに関連する特許であり、2015年9月9日に確定した、アップルが3億円強の損害賠償金を個人発明家に支払うよう命じた侵害訴訟で使用されたものです。
正直、2020年12月にこの特許に対して(2回目の)無効審判が請求されていたことすら知りませんでした。侵害訴訟の判決が確定してからだいぶ時間が経っていますし、この特許も2018年1月6日に存続期間満了により権利消滅しているからです(なお、分割出願もすべて権利消滅または拒絶査定となっています)。
一事不再理の規定により、一度無効審判が確定した特許権について、同じ請求人が同じ理由・証拠に基づいて再度無効審判を請求することはできませんが、別の理由・証拠に基づけば、再度請求することは可能です。
また、無効審判は特許権が消滅した後でも請求できます。特許権が消滅した後でも、(まだ権利が存続していた)過去の侵害行為について損害賠償を請求することは可能なので、それを阻止できる点で意味があります。とは言え、既に判決が確定しているiPod以外の機器に対して今から侵害訴訟が提起される可能性がどれくらいあるのでしょうか?
なお、仮に無効審判が請求認容となり、この特許を無効化できたとしても、それを理由として、一度確定した、損害賠償を命じた判決を覆すことはきません。特許法104条の4において、特許権侵害訴訟の確定判決後に特許が無効になったことは再審事由にはできないことが明記されているからです。立法趣旨としては、侵害訴訟において当事者が特許の有効性について十分に争える機会があるので、判決確定後に無効審判を再度請求することは議論の「蒸し返し」であると考えられることにあります(特許庁の資料に「蒸し返し」という言葉が使われています)。
ということで、アップルが、今頃になって2回目の無効審判を請求し、かつ、審決取消訴訟まで提起する必然性はかなり薄いのではと思います(何か水面下で動きがあったのでしょうか?)。コスパを考えずごくわずかのリスクでも解消するという企業ポリシーなのでしょうか?意地、あるいは、単なる嫌がらせと思う人もいるかもしれません。