平井大臣「脅しといたほうがいいよ」発言が物議 事件化はありうる?
平井卓也デジタル改革担当大臣の発言が物議を醸している。内閣官房IT総合戦略室のオンライン会議でNECの会長名を挙げ、職員に対して「脅しといたほうがいいよ」などと指示していたからだ。
どのような経緯?
平井大臣は、ほかにも「デジタル庁はNECには死んでも発注しないんで」「場合によっちゃ出入り禁止にしなきゃな」「このオリンピックであまりぐちぐち言ったら完全に干すからね」とも述べていた。
東京五輪向けアプリの開発をめぐり、規模縮小に伴う減額交渉が行われる中での発言だった。現にその後、約73億円だった委託費が約38億円に減額されている。
平井大臣は、閣議後の記者会見でこうした発言を認め、表現が不適当だったと謝罪した。一方で、国民の立場に立って強い覚悟で交渉するようにと激励したとか、そのまま相手に伝えるような職員ではないと釈明している。
下請法の適用なし
この点、独占禁止法は、事業者や事業者団体による不公正な取引方法の一つとして、「優越的地位の濫用」を規制している。国や地方自治体が事業活動を行っている場合には、「事業者」として規制の対象となる。
ただ、下請代金の減額や支払遅延など、下請事業者に対する親事業者の不当な取扱いを禁止している下請法は適用されない。
NECは資本金額が4000億円超の大企業であり、下請法で保護の対象となる「下請事業者」にはあたらないからだ。しかも、国には資本金や出資というものがなく、その規模が要件となっている下請法の「親事業者」でもない。
刑法犯も困難
NEC会長に対する脅しや国の取引からの排除を職員に指示し、そそのかしたということで、脅迫罪や強要罪の共謀や教唆に問うこともできない。指示しただけではダメで、現に実行犯が実行に着手していなければ共犯者を処罰できないというのが刑法の立場だからだ。
では、職員がNECとの交渉過程で脅しに及んでいたらどうか。これも、今回の発言の経緯や状況などを踏まえると、「言葉のあやであり、実際に脅迫させるつもりなどなかった」と弁解されたら覆すことが難しい。
NECも「政府の方針を踏まえて当社を含む共同事業体として協議し、契約変更に応じた」とコメントしており、被害を訴えることはないだろう。
平井大臣の刑事責任を問うのは困難であり、事件化の可能性は乏しい。とはいえ、政治的、道義的責任は免れないだろう。(了)