ジェンダー格差の解消が最高の少子化対策(後編)
前編より続く
3.チーム育児、チーム稼ぎを目指して 男性の家庭進出が鍵
そろそろ撲滅したい言葉に「女性には特有のライフイベントがあるから」というセリフだ。女性特有のライフイベントとはなんだろう? 出産は確かに女性特有のものだが、日本の働く男性に子どもはいないのだろうか? 子育てや介護などは男女どちらでもできるものだ。2022年からの育休法改正で「男性のための産休」(産後8週間のうち4週間で)という新設制度ができたことは、今までの少子化対策の中で一番有益なことではないかと思う。
そもそも女性たちに「産んでも大丈夫」の安心感がないのは、「孤独な子育て」「ワンオペ育児」のプレッシャーが見えてしまっているからだ。
男性にももちろん子育ての権利があるし、女性だけが子育てに向いているわけではない。京都大学大学院教育学研究科の明和政子教授によると、親として機能する脳「親性脳」の発達についてMRIを使って調べると「脳の変化は、女性、男性を問わず起こる。子育て経験によって起こる親性脳の発達には、生物学的な性差はないことがわかった」という。(「お手伝い感覚では親になれない」育休を取らない男性は脳科学的に損をしている 大門小百合 プレジデントオンライン)
左右するのは子育て経験で、子育てという大事業のスタートを「産休をとって両親ともにスタートする」ことは、親性脳の発達の機会となるはずだ。すでにフランスは7割の男性が取得する「父親のための休暇」(別名父親ブートキャンプ)が産後2週間あり、追跡調査では休暇をとった男性はその後も子どもとの関わりが有意に増えていた。
父親の家庭進出は「産後の脆弱な女性の寄り添い、産後うつによる自殺を防ぐ効果」があり、その後の父親の子育ての「自分ごと」化につなげる狙いがある。専業主婦家庭でも父親の子育て参加は重要だが、育児を分かち合うことで女性が仕事に費やす時間が増えて、ジェンダーギャップの解消にもつながる。日本の女性は男性の5倍の時間、家事をしており、その比率は発展途上国並みである。女性も「稼得意識」を持つこと、男性も「家庭進出」すること。この両輪でチーム育児、チーム稼ぎが当たり前になってほしい。
4.圧倒的に足りない政治分野の女性
3つの側面から少子化について書いてきたが、このような知見は今までの有識者会議の場ですでに何回も、研究者のエビデンスとともに提示されてきた。私も様々な会議で提案してきた。なぜ実現しないのか? それは圧倒的に政治の場に多様性が足りないからではないか? 政治は「高齢の男性中心」が意思決定層を占めている。ジェンダーギャップ指数の政治分野の順位は156カ国中147位(前回は144位)。何を意味するかと言えば「女性や子ども」関連の政策は優先順位が低くなり、予算もつかないということだ。コロナで2020年に給付金10万円を配った時、「世帯主」に全家族分を配布する形だった。そうなると「DVで夫から逃げている女性」はどうやって受け取るのかという問題が出てきた。問題提起したのは女性議員だった。公の場に多様性があることは、「見落とし」を防ぐのだ。
公の場にクオータ制を入れることが、民主主義の機能を最大化させるという論考が先日の日経新聞「経済教室」にあった(男女均衡参加、再生への鍵 民主主義の未来 奥山陽子・ウプサラ大学助教授 8月20日掲載)。インド、フランス、スウェーデンの試みを実証的に検証する。その結果、政治への男女均等参加は明らかにプラスの効果がある。多様な論点をもたらす。さらに「優秀な男性の政治参加」にも有効とわかった。クオータ制を「実力のない女性が入る」と反対する人がいるが、むしろクオータ制を入れないことで、「実力のない男性」が多数政治に参画するという不利益を放置していたことになる。
選択的夫婦別姓や女性をめぐる税と社会保障、様々な課題が長年議論の場にすら上がらない。どう考えても政治参加への男女不均衡によるものではないか? 子どもを産むのは女性であり、女性の政策を男性視点だけでなく男女で推進していくこと。比率は少なくともクリティカルマスである3割は超えてほしい。歪(いびつ)な政策決定の場を是正できなかったことが、少子化に大きな影響を与えていると思う。(了)
※月刊公明2021年10月号 特集「特集 希望と活力あふれる未来を開く」に寄稿した原稿を許可を得て転載しました。