囲碁棋士と会社員の「リアル二刀流」芝野龍之介二段 棋士の新しい生き方とは
芝野龍之介二段が就職したとSNSでつぶやいていた。それも週に5日しっかり働く会社員だという。棋士で会社員は異例の存在。なぜ二刀流を選んだのか、聞いてみた。
今年4月、一力遼天元は早稲田大学を卒業して、家業でもある河北新報社に就職した。棋士と会社員の兼業を発表して世間を驚かせたが、業界では既定路線だったので当然として受け止められていた。
一力天元が子どものころ、プロを目指そうとしたとき、父親(河北新報社 一力雅彦社長)が師匠となる宋光復九段に「棋士と会社員の兼業はできますか」ときき、大丈夫だということを確認したという。
一力天元は運命享受(?)で会社員になったが、芝野龍之介二段は自分の意志で就職したのだ。それも株式会社「ミリオンダウト」というゲームアプリの会社で、囲碁とは関係がない。
芝野二段はエンジニアとして働いているという。手合い優先ではあるが、週に5日働く。
率直になぜ?と聞いてみると、「漠然と将来が不安になって、就職しようと思いました」という。
芝野二段は子どものころ囲碁にはまり、すぐにプロになりたいと思った。小学5年生から「洪道場」に通う。ちなみに、弟の芝野虎丸王座は、「兄のついでに」一緒に通わされ棋士になり、史上最年少19歳で名人にもなっている。
芝野二段、なりたかった棋士になってそれでよかった、では終わらなかった。
芝野二段がプロ入りしたのは19歳のときだ。
毎年プロ試験を受け続けていたが、1回、大学受験のために受験を休んだ。
東京理科大学に合格し、そしてプロ試験も合格。
もうそのときから、棋士になることと同時に「適当に大学に行って、ぼんやりと就職する」という将来像として持っていたという。就職は安定志向の表れ。棋士が就職するのは珍しいという自覚もまったくなかった。
大学在学中の2020年6月、「漠然と将来が不安になっていた」ところ、ミリオンダウトの社長から会社に入らないかと声がかかった。
「ミリオンダウト」は社長が10代のときに考えたゲーム。強くなる人の特徴として、
①数字に強くてロジカル
②運のせいにしない
③人のせいにしない
このゲームの上位になると採用候補になるのだが、芝野二段は囲碁棋士という特殊な資格から注目されたのだ。
芝野二段は3カ月かかり上位にランクされ、10月から業務委託の形で週3日働くことになった。
社内には「変な人がいっぱいいます。社長が一番変な人」と芝野二段はいう。
15人ほどの社員のなかには、東大をやめてプロジェクトマネージャーをやっている人、東大を卒業して金融庁に就職してから転職した人、MENSA会員(2人も!)や東大医学部学生も働いている。
もともと芝野二段、ゲームは囲碁以外も得意なのだ。
桑名七盤勝負(囲碁、将棋<アマ三段>、オセロ、チェス、どうぶつしょうぎ、バックギャモン、連珠)の世界ランキング1位だし、囲碁クエスト(スマホアプリ)でも30万人中1位だ。
「色々なゲームをやるのが楽しい。連珠の定石などの暗記したり、将棋ソフト見たり。常に時間が足りません」
今年4月からは正社員として入社。
ミリオンダウト社は4カ月ほどでひとつ、アプリでできるカードゲームを作り上げた。ふつうは2、3年かかるそうで、驚異のスピードだという。芝野二段も企画として加わった。
芝野二段も企画に携わった、8月にリリースされる「東方ドールドラフト」も紹介しておこう。
https://store.steampowered.com/app/1341460/_/?l=japanese
芝野「自分ができることが増えるのが楽しいのです。プログラミングができるといいなあと思って。全くの初心者でしたが」
できることが多ければ多いほど相乗効果で人生が豊かになると思っている。「幸せと結びつくかどうかは別問題ですが……」
いろいろなゲームをそれぞれ1000時間はやっている。
一番好きなのはもちろん囲碁。一番難しいのも囲碁だという。
棋士の芝野二段自身が囲碁をやるより、囲碁以外をやったほうが普及につながると思っている。棋士がやることで、何をやっても普及につながるのではないかと。
囲碁普及が芝野二段の一番やりたいことなのだ。
土日は囲碁イベントや大会、練習会など忙しくしている。
こんな形で囲碁普及に尽力している棋士が、芝野龍之介なのである。