女子高生が年上男たちをなぎ倒す!三冠牝馬アーモンドアイが驚異的レコードでジャパンカップを制覇
平成のジャパンカップ、最初と最後はいずれも牝馬が歴史的記録を叩き出す
平成最後の2018年ジャパンカップは三冠牝馬アーモンドアイが2分20秒6という驚異的なタイムで勝利をおさめた。
平成最初の1989年ジャパンカップでは、オグリキャップと接戦を演じた牝馬ホーリックスが2分22秒2という当時の世界最速タイム(※1)で制しているが、平成の最初と最後のジャパンカップをいずれも牝馬が世界的な記録で制するとは実に興味深い。
これまでの日本レコードは2005年にアルカセットが記録した2分22秒1で、1秒5も更新している。競馬の世界では1秒でおおむね6馬身差がつくといわれている。これを基に考えると、1秒5はおよそ9馬身差に相当する。中央競馬では10馬身以上差をつけることを[大差]という。これ以上の着差は区別する必要ないとしているほど、大きな差なのだ。それを考えると、どれほど驚く差であったかをご理解いただけるだろう。
筆者もこの時計を見たとき、1秒速すぎるのではないか、と目を疑った。そして、このタイムについていった2着以下の馬たちは、例年ならば十分勝利を得られるだけの力で駆け抜けている。アーモンドアイと戦うことになった巡りあわせを皮肉に思うしかない。
(※1)ちなみに競馬において公式な世界記録は存在しないとされている。だが、2400mの記録的タイムとして1999年にアルゼンチン・サンイシドロ競馬場でアシドロが記録した2分21秒98という記録は存在している。非公式ながらアーモンドアイはこれすらも塗り替えてしまったのだ。
【2018年ジャパンカップ(GI) 優勝アーモンドアイ / jraofficial】
"女子高生"アイちゃんに戦いを挑んだ年上男たち
戦前、各ジョッキーたちはかなりアーモンドアイを意識した発言をしていた。昨年のジャパンカップの覇者であるシュヴァルグランに騎乗するクリスチャン・デムーロ騎手はライバルとして真っ先に彼女1頭の名を挙げた。大阪杯で今年の古馬GIを制しているスワーヴリチャードに騎乗するミルコ・デムーロ騎手も「凄い。化け物ですね」と完全に一目置いていた。
一方で、管理する調教師や厩舎スタッフたちの中には「初の牡馬や古馬相手。アーモンドアイは53キロと斤量差もあってあちらは有利」としながらも「負けられない」と語気を強めた方も少なくなかった。牝馬三冠を制したとはいえ、アーモンドアイはまだ3歳牝馬。地方馬ハッピーグリンだけが同じ3歳馬で、それ以外の出走メンバーはすべて年上の牡馬なのだ。
「人間でいえば女子高生くらいの年頃のアイちゃんと比べたら、古馬は揉まれたり乱ペースになったりと厳しい闘いを重ねてきた。まだまだ負けられないよ(笑)」と話す陣営もいたし、後方策をとるアーモンドアイだけに「1枠1番は包まれてしまうのではないか」と不安説を唱える声は何度となく聞いた。
ところが、フタをあけてみたらこの圧勝劇だ。先行策から2着に粘ったキセキに騎乗した川田騎手がレース後に絞り出した言葉が沁みた。
「普通なら当たり前に押し切れるレースでした。キセキは頑張っています。これだけ素晴らしい馬が相手だから…」
【2018年桜花賞(GI) 優勝アーモンドアイ / jraofficial】
【2018年オークス(GI) 優勝アーモンドアイ / jraoficial】
【2018年秋華賞(GI) 優勝アーモンドアイ / jraofficial】
来年はまずドバイへ。そして、凱旋門賞を視野に
ジャパンカップのレース後、馬主であるシルクレーシングの米本代表は「来年春はドバイがターゲットです」と海外挑戦を明言した。
管理する国枝栄調教師は「オーナーと相談」を前提としながらも、凱旋門賞を連覇している世界的牝馬であるエネイブルの名を出し、凱旋門賞への挑戦を匂わせた。
「エネイブルと一緒にレースをしてみたいね」
すでにブックメーカーで発売されている2019年凱旋門賞の単勝オッズを調べたところ、アーモンドアイのオッズは11倍であった。対して、エネイブルは断然人気で5倍をつけている。(11月26日調べ) 参考オッズに過ぎない数字ではあるが、この推移にも注目していきたい。
さて、当のアイちゃんであるが、ジャパンカップ激走のあと厩舎を訪ねたところ、少し疲れた程度でケロッとしていた。
2018年、日本の男たちを翻弄させたアーモンドアイ。その末恐ろしさはまだまだ量り切れない。