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4月の金価格急落で、中央銀行は金を購入したのか?

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

国際通貨基金(IMF)が27日付けで公表したデータによると、4月にはロシアが8.4トン、カザフスタンが2.6トン、トルコが18.2トン、アゼルバイジャンが1.0トン、ベラルーシが0.03トン、それぞれ金準備の保有高を拡大していたことが確認された。

米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は「(価格低下が)安値で購入する機会を提供した」と前向きな評価で報じているが、金市場関係者の実際の反応は失望に近い状況にある。実際、今回のデータ発表を受けての金相場は特に目立った反応を示しておらず、金需給の緩和見通しに修正を迫るような数値でなかったのは明らかである。

4月のCOMEX金先物相場は、月末時点でさえ前月比-123.60ドルの1オンス(約31.1グラム)=1,472.10ドルと急落した。これだけの値幅が記録されたのであれば、「価格低下→需要拡大」のフローが発生したことはほぼ間違いの無い状況になっている。アジア地区のみならず欧米でも現物投資・加工需要の急増が報告されており、現物プレミアムの高騰や金貨の在庫払拭といった異常な動きが多数報告されていた。

しかし、今年の金上場投資信託(ETF)市場で既に473.53トンもの大量売却が報告されていることで、昨年通期の需要279.0トンとの差し引きでは752.53トンもの需給緩和圧力が発生している。このためマーケットでは、より強力な現物需要拡大の動きが期待されている。金ETF売りに関しては、現物の引き出しが行われた影響、金保管口座への資金シフトといった可能性も指摘されているが、同項目で強力な需給緩和圧力が働いていることはもはや否定できない状況にある。

そこで昨年に533.2トンもの需要が確認されている公的部門の動向が注目されていた。近年、各国中央銀行は外貨準備分散の観点から「通貨としての金」に対する関心を高めているが、4月の急落がトリガー(引き金)となって、新たな需要を創出した可能性が期待されていたためだ。しかし、今回発表されたIMFのデータを見る限り、4月の急落で各国中央銀行は大きな動きを見せなかった可能性が高くなっている。

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■4月の中銀による金購入期待は裏切られた

そもそも、中央銀行の金準備保有は投資利益の拡大を意図したものではないため、単純に金価格が低下したから需要が増えるといった性格のものではない。例えば韓国中央銀行は、金保有は外貨準備を多様化する長期的戦略の一環であるため、金価格の下落は「大きな関心事ではない」と指摘している。また、南アフリカ準備銀行も、金価格の下落を受けて「外貨準備政策を変更する予定はない」としている。

金価格低下の効果としては、寧ろ外貨準備全体に占める金の評価額比率が低下することで、リバランス(保有比率修正)の動きが強まるか否かといった視点の方が重要かもしれない。すなわち、金価格下落で外貨準備全体に占める金額ベースでの金比率低下に対応するために、金準備を購入するといった動きの方が現実的だろう。

ただ、スリランカ中央銀行などは、金相場下落は外貨準備を積み増す好機であり、同国は「前向きに」検討すると表明していただけに、マーケットでは「もしかしたら・・・」との期待感があった。その期待が見事に裏切られたのが、今回のIMF統計だったという訳である。

■中国人民銀行は買っているのか?

実際には、全ての中央銀行の動きがIMFに報告されている訳ではないため、非公表で金準備を買い増している国が存在する可能性までは否定できない。

例えば、中国の金輸入データは非公開となっているが、公開されている香港経由の金輸入量や国内産金量と中国国内の想定実需を比較すると、大量の金が中国人民銀行(中央銀行)の金準備に組み込まれている可能性がかねてから指摘され続けている。

中国人民銀行は09年、金準備保有高を従来の600トンから1,054トンまで一気に454トンも引き上げた「実績」がある。中国の外貨準備はその09年当時の2兆0,090億ドルに対して、現在は3兆4,430億ドルまで1.7倍の規模に膨れ上がっていることを考慮すれば、今年に入ってからの金価格急落が金準備拡大の好機と捉えられていても何ら違和感がない。

ただ、人民銀行が公式に金準備をどれだけ積み増していたのかをいつ発表するのかは分からず、当面は「高い確率で購入している」との思惑を織り込む動きに留まることになる。マーケットは中央銀行に「期待」と「不安」の双方が交錯した視線を向けているが、現状では後者の「不安」の方が優勢とならざるを得ない。

昨年並みに年間500トン超の需要を創出できれば、金の歴史としては良好な需要環境と言うこともできる。しかし、今年は民間投資需要の大幅減少リスクが浮上している以上、昨年までよりも他需要項目に対して求められる数値は大きく切り上がることになる。今年も、中央銀行の外貨準備政策からは目が話せそうにない。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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