ある強豪校に見る「受験かサッカーか」の二者択一時代の終焉
冬の風物詩の一つとなっている『選手権』こと、全国高校サッカー選手権大会の都道府県予選がすでにスタートしており、この週末も全国各地で熱戦が繰り広げられている。13日には東京都大会2回戦が行われ、注目校、シード校が登場した。激戦の東京都大会でも最大の注目は、近年サッカーの競技力、実績のみならず、主力選手も高い学力を兼ね備え「文武両道」を高いレベルで実践する國學院久我山高校だ。
私立の強豪校として「スポーツ推薦」制度なるものは存在するが、サッカー部としての枠は一学年一桁で、進学校らしく高い評定平均が求められる。つまり、「サッカーが上手い」だけでは入学できない学校でありながら、今年の選手権東京都Bブロックでも優勝候補の筆頭として周囲から一目置かれる存在だ。
■「サッカーだけ」を頼りに大学進学する選手はゼロ
國學院久我山にとって初戦となる13日の都立駒場高校戦は、点差こそ2-1ながら内容的には快勝。李済華(リ・ジェファ)監督も「初戦からパーフェクトなゲームはやって欲しくなかったので、大会への入りとしては悪くないと」と若干の余裕を見せた。この2回戦で2得点をあげた左ウイングの松村遼(3年)は國學院久我山サッカー部の「ロールモデル」と呼んでもいい存在で、選手として年末に開幕する選手権本大会への出場を目指す一方で、現役での国立大学合格を目指す学生でもある。
試合後、「今週は少し(勉強を)セーブしてコンディション調整に努めました」と述べた松村だが、理系の学部を志望する彼は文系コースの学生よりも授業数が多いため毎日練習への参加が約1時間遅れてしまう。さらに、平日の練習後には塾に通い、自習室で遅くまで勉強した上で帰宅する生活を送っているため、年明けの試験本番に向けてラストスパートに入ってくるこの時期は特にコンディション調整が難しくなる。彼以外にも一般受験での進学を検討しているレギュラー選手が数名おり、松村は「僕だけではなく、他のチームメイトも頑張っているので、互いに高め合いながらやっています」とごく当たり前のこととして受け止めている様子だった。
今夏にはインターハイ(高校総体)で全国ベスト16にも入った今年のチームだが、13日の都立駒場戦で先発した高校3年生7名の中で「サッカーだけ」を頼りに大学進学する選手はゼロ。だからこそ、國學院久我山サッカー部には「サッカーが上手い=偉い」という高校のみならず日本のスポーツ界にまだ蔓延しているような時代錯誤の感覚が皆無である。
■「大学はサッカー推薦で入ってサッカーをしに行く場所ではない」
外部コーチでありながら、朝鮮学校などでの勤務経験もある教育者の李監督はサッカーの上手い選手がスポーツ推薦や特待生制度を利用して「サッカーだけ」で大学に進学する風潮や仕組みについて「大学は勉強をしに行く場所。サッカー推薦で入ってサッカーをしに行く場所ではないし、大学に入って麻雀、パチンコ、コンパばっかりやるくらいなら、サッカー推薦なんて制度は廃止した方がいい。これは教育に関わる大人が言い続けなければいけないこと」と警鐘を鳴らす。
確かに、國學院久我山サッカー部が実践する文武両道のレベルは高いが、大切なことはレベルの高低ではなく、自らのレベルや実力に応じた文武両道を実践できているかどうか。高校サッカー界では、選手権の都道府県予選を勝ち進めば10月、11月まで試合があることで「受験勉強」を理由に夏のインターハイを最後に「引退」する部員が伝統的に多いのだが、國學院久我山サッカー部のスタンスを見る限り「受験かサッカーか」の二者択一を迫られる環境や考え方自体がナンセンスではないかと思えてくる。