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ハリウッドセレブがはまる、劇的に効く痩せ薬とは

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
Ozempicを使用したことがあると認めるエイミー・シューマー(写真:REX/アフロ)

 ずっと太めだったセレブが、いつのまにか痩せている。その秘密は過激なダイエットでもワークアウトでもなく、高額な処方薬だ。

 それはもはやアメリカで秘密でもなんでもない。今年のオスカー授賞式で司会を務めたコメディアンのジミー・キンメルも、開幕のモノローグでこのことをネタにした。誰も知らないことをネタにしても笑ってもらえないのだから、それだけ知られているということだ。事実、最近では、一部のセレブたちも、その事実を隠さずに公言するようになり、より抵抗がなくなった感もある。コメディアンヌのエイミー・シューマーは、使ったことがあると認めた上で、「みんな嘘をついているだけよ。『食べる量を減らしたの』なんて、嘘、嘘!みんなOzempicか、似たような薬を使っているのよ。本当のことを言いなさいよ」と、インタビュー番組で発言した。

 シューマーの言うOzempicは、本来、糖尿病の治療薬として開発された薬。だが、これを使用すると食欲が抑制され、体重が落ちるという副作用があることから、その目的で、糖尿病でもないのにこの薬を処方してもらう人が多数出てくるようになったのだ。

 効果は劇的で、苦労してちょっと痩せてもまた戻ってしまうということを繰り返していた人たちも、すごいスピードでどんどん体重が減る。ダイエット会社の老舗ウエイト・ウォッチャーズの役員を10年務めてきたオプラ・ウィンフリーも、これらの薬を使っていることを公言し、役員を退任した。「体重管理をし、健康でいられる薬が承認されたというのは、とても安心で嬉しいこと。これは隠すことでも、ばかにされるべきことでもない」と、ウィンフリーは語っている。

「隠すことでも、ばかにされるべきことでもない」というオプラ・ウィンフリー
「隠すことでも、ばかにされるべきことでもない」というオプラ・ウィンフリー写真:REX/アフロ

 ほかには、歌手のケリー・クラークソン、リアリティ番組「The Real Housewives of Orange County」の出演者エミリー・シンプソン、コメディエンヌのチェルシー・ハンドラー、コメディアンのトレイシー・モーガンなどが、これらの薬を使っているか、使ったことがあると明かしている。

 これらの薬の人気ぶりは、ほかの業界にも経済効果を与えている。あまりに急激に痩せるので皮膚がついていけず、顔がげっそりしてシワが増える「Ozempic顔」に悩まされる患者が、今度は美容整形外科医に駆けつけるのだ。Ozempicのおかげで20キロ近く減量したシャロン・オズボーンの顔は、その典型とされる。短い期間に45キロも痩せたジェシカ・シンプソンも「Ozempic顔」になったとささやかれているが、彼女がこれらの薬について語ったことはない。

 また、痩せたせいで小さいサイズの服を買い求める客が増え、ファッション業界も儲かっているようだ。サイズが合わなくなるということもあるが、痩せるとどんな服を着ても以前より綺麗に見えるので、もっといろんな服が欲しくなるのだろう。

 だが、もちろん良いことばかりではない。ひとつには、これらの薬は1ヶ月あたり1,000ドル以上(およそ16万円弱)もして、ほとんどの保険はカバーしない。延々とその金額を毎月払い続けるのは大変。やめるとたった数日で昔の体重に戻ってしまったという人たちの体験談も、いくつか報道されている。

Ozempicは効果があったものの、また体重が増えてしまったとトレイシー・モーガン
Ozempicは効果があったものの、また体重が増えてしまったとトレイシー・モーガン写真:REX/アフロ

 また、一部のセレブが語っているように、人によっては吐き気などの副作用に悩まされるらしい。それに、必ずしも効果が永遠に続くとも限らないようで、モーガンは、まだ薬を使っているのに、その効果以上の量を食べるので、18キロも体重を戻してしまったという。

 Ozempicを使ったがやめたというシューマーは、「すごく気分が悪くなって、息子と遊べなくなった。こんなふうには生きられないと思った」と語っている。また、短期間使用したことがあるハンドラーも、「(糖尿病でもないのに)糖尿病の薬を使うことはしない。使ったけれど、もうやらない。それは私らしくない。私自身のために、正しくない」と述べた。

 それでも、これらの薬の人気ぶりは、今のところ衰える気配がない。減量のための手段は過去にもたくさん登場したが、数年後、これらの薬をめぐる状況はどうなっているのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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