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日曜劇場『半沢直樹』がコロナ禍の就活を変えるワケ

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
平成史上最高のドラマとなった半沢直樹の続編『半沢直樹2』公式HPより

7年ぶりに続編としてスタートした日曜劇場『半沢直樹』は期待通りの発進どころか、平均視聴率22.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という驚異的な数字をマークした。前作の第1話(2013年)19.4%と比較しても注目度の高さがうかがえる。

前作の『半沢直樹』は社会現象となり、最終回の平均視聴率が関東地区で42.2%となり平成の民放ドラマではトップを記録している。ちなみに瞬間最高視聴率は46.7%、関西地区限定では50.4%と驚異的な数字を叩き出している。その勢いそのままに、伝説の台詞となった「倍返し」が2013年流行語大賞を獲得している。

そんな『半沢直樹』の社会現象は当時の就職活動にまで影響を与えた。

『半沢直樹』を観て銀行への志望度が高まった

半沢直樹ブームの影響でその後の就職活動市場は、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行といったメガバンクへの就職を希望する学生が増えたことはメディアでも話題となった。

当時の就活生の声はシンプルなものだった。

「就職活動をスタートした時に漠然と興味を持っていた銀行を具体的に調べたくなるきっかけになった」

「半沢直樹は銀行に対して悪いイメージで描かれていたからこそ、調べてみると銀行の業務に逆に興味がわいた」

「ドラマを観て志望度が高まった。自分の軸を貫いて仕事をしてみたいと思った」

当時の就職活動は今のようなインターンシップや外部イベントの数も少なく、就活生が社会・ビジネスに積極的に触れる機会が少なかったこともあり『半沢直樹』の世界をまともに受け入れてしまい就活生へ大きく影響を与えた。

一方、当時を知る現役バンカーに話を聞くと、

「確かに半沢直樹がブームになって以降、学生からOB訪問で聞かれる質問の中身が変わった記憶がある。応募数も増えたように記憶しているが、当時はそもそも金融業界の人気が高かったから、ドラマの影響がどこまであったかは分からない」

確かに、ディスコ社やマイナビ社の2013年~2016年までの学生調査の結果をみてみると、安定志向を中心に金融業界は人気で銀行・証券・生損保でTOP10を埋め尽くしたランキングもあった時代だけに、一概にドラマの『半沢直樹』がメガバンクの応募数を引き上げたとは言えないだろう。

ドラマが就活に与える影響

とは言え、人気ドラマがその年の就職活動に大きな影響を与えることは事実であり、木村拓哉さん主演の『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜(2000年)』で美容師、『HERO(2001年)』で検事、『GOOD LUCK!!(2003年)』でANAやJALなどの航空会社、『海猿(2002年)』で潜水士、最近では『SUITS/スーツ(2018年)』で弁護士になりたいと就職活動に少なからず影響を与えている。

これは日本のキャリア教育の現状とも言われており、欧米のように学生時代に一定の社会・ビジネスの理解をした上で自身の学びを選び、働くに繋げていくという文化とはかけ離れており大学3年生の夏まで社会・ビジネスとの接点がなく急に夢や目標を自己分析で強引に決めてキャリアのスタートを半年で決めてしまう。ここに日本の新卒者の早期離職やリアリティ・ショックの大きな原因がある。

新型コロナウイルスの影響で「やっぱり安定志向」

では、今年も社会現状を巻き起こすであろう「半沢直樹2」は22卒・23卒の就職活動にどう影響を与えるのか。

2013年の就職活動市場は「安定の金融」という流れもあり金融業界の人気は不動のものだった。ところが2017年秋にメガバンクが大量人員削減を発表、経済状況の変化、AIの台頭で金融業界に対して学生の見える景色は変わった。ディスコ社調べでは2020年3月の学生調査ではIT業界が人気ランキングを占めていた。

そんな中、新型コロナウイルスの影響で就職活動市場も激変し「やっぱり安定」という温度感が高まり銀行へ興味を持つ22卒、23卒が増えるだろう。2013年とは環境は違えど『半沢直樹2』が学生の就職活動に何らか影響は与えそうだ。

『半沢直樹2』をきっかけに企業研究を極めよう

日本の就職活動で課題とされるミスマッチ(早期離職・リアリティ・ショックなど)の原因は明確に「自己分析就活」と「企業研究」である。特に企業研究は、ビジョンや事業を中心に理解をして全体を捉えてしまっている。

本来は、社会・ビジネスはもちろん、政治・経済、日々のトピックスなどの一般常識がベースにある中で、業界ごとの繋がりを理解して、ひとつの企業が見えてくる。

つまり、学生が最低限理解して欲しいのは「その企業は誰に、どんな価値を、どのように提供して、誰から、どのようにお金を得ているのか」で、顧客属性や特徴を知ることが求められる。

「半沢直樹」のような社会派ドラマであれば、就活ではイメージがつきにくい顧客のイメージが出来るだろう。当然、ドラマなので誇張されている点を考慮して欲しいが、本質的な企業研究を進めるヒントになる。

新時代だからこそ就活を変える必要がある

今年の2月までは先輩からアドバイスされた自己分析・ES対策をして、とりあえずインターンシップに参加をして活動がスタートする「古い就活」でも売り手市場であった為、活動さえすれば何らかの成果は得られた。

ところが新型コロナウイルスの影響で企業側の考えが大きく変化して厳選採用、買い手市場、ジョブ型採用へのシフトが急激に進んでいる。

となれば、自己分析で自分の未来の仕事やキャリアを決め込むことは適応しなくなる。如何に未来を予測して自分の人生、キャリア、市場の変化・未来予測から「今、やるべきコト」を探していく未来志向型就活へ完全移行しなければならない。

今晩も『半沢直樹2』をきっかけに、『新しい就活』に切り替えていくことを強く勧めたい。

はたらくを楽しもう。

【参考】

・就活情報、社会人接点ポイントはTwitterで発信中(ご相談はDMにて受け付けています)

・『新しい就活』

・就活のリアルを公開:YouTubeチャンネルはこちら

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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