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個人の思考や人生に触れると見えてくる、キャリアデザイン。犬山紙子さんの脳内や、心の中を覗いてみた。

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
イラストエッセイスト 犬山 紙子(いぬやま かみこ)さん

今ではメディアで見ない日がない犬山紙子さんだが、彼女にも低迷期がある。それを変えたのは、今「やるべき」という意識だった。

フリーランスという道を選んだ犬山紙子さんをゲストに「生き方」を軸とした新時代のキャリアデザインを築くためのヒントについて考える。

夢を語るのが「ダサい」と思っていると、キャリアデザインはできない

佐藤裕:世は就活シーズンで、不安と希望が入り交じった時間を学生は過ごしていますが、犬山さんはどんな学生でしたか?

犬山:私は当時、夢を語るのが「ダサい」みたいな空気があるなあと感じていて、幼少期の頃から漫画描いたり、文章を綴ったりしていたんですが、それをまわりに知られるのが恥ずかしいと思う学生でした。

佐藤裕:僕も犬山さんと同世代なので、その気持ちが分かります。口が裂けても「夢がある」なんて言えない空気でしたね。

犬山:その空気に飲まれて学生時代を過ごしたので、夢に向かって人生を決断することが出来ず、やりたいことからそれほど遠くないと思って、地元の出版社に入社しました。

佐藤裕:当時を振り返って、こうしておけば良かったと思うことあります?

犬山:夢や、自分の意見をもっと公言すれば良かったかな。まず、自分をオープンにすることで、まわりも同調して、似た興味を人と繋がれたと思う。

佐藤裕:あれから約20年が経ちますが、今また、主体性を持ちにくい時代の波が来ているんですよ。

犬山:そうなんですか?

佐藤裕:今のデバイス世代は、SNS等で同調圧力を日々感じているんです。だから、自分の意見を発信すると「意識高い系」と思われるから、それを恐れてまわりに合わせるという思考のようで。

犬山:私たち世代で言う、「イタい」って感覚ですね。私の少し上の世代は、「ワンランク上、「人と差を付けろ」というキャッチコピーが世に溢れていたけど、バブル崩壊後の余波が残っていた私たちの世代は就職氷河期で、「無難、「悪目立ちしない」という価値観が蔓延していた記憶があります。

佐藤裕:まさに、そういった時代でしたね。

犬山:で、今まさにそれがまたぶり返している、と。

佐藤裕:そうなんです。背景は違いますが、似た価値観が生まれています。学生相手に講義する時も、授業中は発言しないのに、後になって質問をしに来ることがある。だから、できるだけ発言しやすい空気を作るために、学生参加型のディスカッション形式にしたり授業内容を工夫しています。

犬山:そういった授業なら、楽しく参加できそう。ひとつ覚えたら、そこから雪だるま式に知識や興味が膨れてくるじゃないですか。だから、まずは興味の芽を生む、きっかけが大事だと感じます。

イラストエッセイスト犬山紙子×はたらクリエイティブディレクター佐藤 裕(撮影:中川 淳)
イラストエッセイスト犬山紙子×はたらクリエイティブディレクター佐藤 裕(撮影:中川 淳)

興味の芽を生む、きっかけは身近なところにある

佐藤裕:ご自身で、興味を広げる「きっかけ作り」はしています?

犬山:とにかく、気になった本を読み漁っています。コメンテーターや執筆活動をしていると、何事も「自分ごと」と捉えられるので、新しい知識を得ることが楽しくて、その楽しむ姿を子供に見せることで、少しは興味の芽を生むきっかけになれば良いなとも思っていて。

佐藤裕:確かに、「子は親の背中を見て育つ」と言いますからね。

犬山: あと、子供のうちから、いろいろな大人に合わせたいと思っています。仕事も、考えも、人それぞれ違うし、大人も「ズルい」ところはある。そういった多様性を知ると、選択肢が広がるんじゃないかって。

佐藤裕:いろいろと興味が出てくるでしょうね。やりたいことが見つかったら、それをちゃんと応援してあげるってことが大切ですね。

犬山:で、それを強制しない!いかに、「楽しい」という気持ちを持続できるかも大事だと思うので、陰ながら応援する姿勢でいたいですね。

佐藤裕:なるほど。幼い時から、何事も「自分ごと」と捉える力を伸ばすことですね。今、犬山さんが「自分ごと」と捉えて取り組んでいることはありますか?

犬山:いろいろとありますが、ちょうど行動経済学の本を読んでいて…。児童虐待やジェンダーギャップなど、現在の社会問題をどう乗り越えるかにも繋げて考えられる学問なんです。私の場合、そうやって自分が感じた問題意識から「勉強しよう」という興味が芽生えることが多いですね。

佐藤裕:そうやってインプットすると、執筆やコメントといったアウトプットで違いはありますか?

犬山:全然違いますよ。知識や情報があると、自分の考えを言語化しやすかったり、社会が抱える問題の原因を推測できたりと、人としてのスキルを底上げできます。自分の無知も知ることができました。そのおかげで、原稿の質も少しずつ上がってきたなと感じます、主観ですが。

イラストエッセイスト|犬山紙子さん (撮影:中川 淳)
イラストエッセイスト|犬山紙子さん (撮影:中川 淳)

学生の時間を搾取する、大人たちが仕向ける就職活動の闇

佐藤裕:どの職種においても、土台となる基礎体力が大切だと思うのですが、今の就活生は、それが欠けていて、急にはじまる就活に慌てている様子なんですよ。

犬山:まぁ、そうなっちゃいますよね。私もそうなると思います。

佐藤裕:就活って、大人が作ったシステムなので、そこに若者が踊らされるんですよね。

犬山:踊らされる…?

佐藤裕:就活サイトって、企業が100万円以上を投資してページを作るので、いかにその企業が良く見えるか、会社説明会で運命と感じてもらえるか、それを仕掛けるカラクリなんです。

犬山:今は、新卒の求人数と若者の就活生を並べると圧倒的に学生が有利な「売り手市場」と聞きますが、実態はどうなんですか?

佐藤裕:数字上は売り手市場なんですが、あくまで求人数と学生の数で捉えた話。就活を体験してリアルに感じるのですが大手人気企業の門をくぐれるのは倍率0.37と引き続き「買い手市場」なのです。

犬山:ええ、そんなに格差が広がっているのか。

佐藤裕:そこをメディアがしっかり伝えないと、「就活なんて楽勝!」と感じる学生が多くて。学生が入りたい企業ランキングで見ると、長らく買い手市場が続いています。

犬山:売り手市場でウハウハなわけではないんですね。

佐藤裕:結局、内定優先で希望外の企業に入社するから、入社後のリアリティショックを受ける人が80%もいる状況で、これはかなりの異常値ですよ。

犬山:え、80%も!

佐藤裕:3年以内の離職率においては、35%もいる。長い人は就活浪人までして人生を決めるのに、思っていたような仕事内容じゃないとか、組織のボスが好きになれない、勤務地が遠いなど、色んな問題があって。そういったネガティブな要素が見えづらいカラクリになっているのが、今の就活サイトなんです。

15万人にキャリア指導して来た『はたらクリエイティブディレクター』佐藤 裕 (撮影:中川 淳)
15万人にキャリア指導して来た『はたらクリエイティブディレクター』佐藤 裕 (撮影:中川 淳)

まだ男性優勢な社会。その逆境のせいで、女性は更なる努力を強いられる

犬山:女子学生を取り巻く数字はどうですか?

佐藤裕:人事視点からすると、女子学生の方が明らかに優秀です。だから、男子学生の評価に下駄を履かせる企業もあります。

犬山:女子学生の方が優秀って、どういった理由からなんでしょう……。

佐藤裕:やはり感度が高いですね。

犬山:感度が高い?

佐藤裕:情報に敏感というか、男子よりも社会の情報を得ている。

犬山:なるほど。

佐藤裕:先ほどの「就活サイトの闇」じゃないけど、何事も真に受けない「疑う能力」が男性よりも長けていると思います。

犬山:それ、悲しいスキルだとも思います。まだまだ搾取される側になるやすい性だから。疑いたくもなっちゃいますよ。

佐藤裕:意外な視点ですが、それでスキルが身についているのかもしれません。

犬山:でも、残念ながらいくら優秀な女性でも管理職に就くのは難しいですよね。

佐藤裕:現状はそうですね。結局、男性が育休を取りにくい状況は変わっていなくて、「ウチは育休、やっています」という企業も、結局はプロモーションで終わっていることが多い。だから、敏感な女性たちは、20代で活躍すれば育休明けも良いポジションに就けることが分かっているから「活躍したい」というモチベーションが高い。

犬山:おそらく、能力に性差は関係ないと思うので、優秀にならざるを得ない逆境があるということですね。大人として若者に申し訳ない。

佐藤裕:「優秀」の定義も随分変わりました。今まで課題を打ち返せる力だったものが、いち早く模範解答を導けるAI時代に突入して、むしろ課題に気付く力が求められるようになっています。

働くことを楽しめている人は、日本労働人口の6%しかいない

佐藤裕:ギャラップ社という世界でトップの世論研究所の調査によると、日本の労働人口で「働くことを楽しめている人」は、たったの6%。対して、アメリカは32%、アジア平均が10%であることを考えると、日本は極めて低い満足度で働いているわけです。

犬山:これだけ長時間労働をしいられているのに、仕事が大嫌いじゃないですか。

佐藤裕:さらに、ここ3年間で1%下がっているんですよ。

犬山:かなり大きな問題ですね。

佐藤裕:企業の汚職報道、減給、自殺など、ネガティブなニュースの方が情報として人の記憶に残るんですよね。

犬山:なるほど、それはありますね。自殺率でいうと、男性の方が高いと聞きますね。

佐藤裕:そうですね。

犬山:まだ、男性が妻子を食わさなきゃいというプレッシャーが強いんでしょうね。これだけ共働きが増えているのに、「俺が稼がなきゃ」と思い詰めて人にも相談しづらい。だから、労働条件が悪くても転職しにくいんでしょうね。

佐藤裕:ある、と思います。やはり、転職理由の上位は年収なんです。家族のために年収重視で仕事を選ぶ。 「仕事を楽しむ」って年収以外の要素が大きいと分かっているのに。

犬山: 一日の労働時間が8時間だとして、いや、もっと働いているか。それが楽しくない。

佐藤裕:人生の半分がつまんない状況ですからね。

犬山:辛い。プライベートを充実されて挽回するって生き方もあるけど、メンタルが心配になります。

「やりたい」から「やるべき」に思考を書き換えると、安定が手に入る

佐藤裕:お金=安定と考えている人が多いけど、「安定」の定義が変わってきていますね。

犬山:大企業に勤めることイコール「安定」という時代はもう破綻していますね。私にとっては、仕事へのモチベーションを保てることが、いちばんの「安定」かな。

佐藤裕:キャリアデザイン教科書のような考えですね。

犬山:だって、メンタルが壊れたら、それが「安定」とは言えないし、結果、辞めざるを得ない可能性もあるわけですよね。会社勤めでも、フリーランスでも「やりたい」と思える仕事であること、体を壊さない量であることが大切かなと。

佐藤裕:本当にその通りで、組織に依存する時代はもう終わっているんですよ。逆に、能力があれば、会社からオファーが来たり、起業が出来たりと安定は手に入る。

犬山:フリーランスは働く環境を変えることや、仕事を広げていく権限を自分自身で持てます。あ、でもフリーランスになれと言いたいわけではないです。フリーは格差が如実に出ますし、保証もない。合う、合わないもあります。

佐藤裕:フリーランスでも、組織に属していても、個人で目標設定をしている人は、今、やるべきことを明確に持っていますから。

犬山:長い目で何か対策することが苦手という人も多いと思います。どうも、感情的にファスト思考に流されがち。私もそうなんですが。いかにスロー思考に自分自身を書き換えるかだと思うな。

佐藤裕:「やりたい」じゃなく、「やるべき」を見つける意識を育てる、と人生がガラッと変わります。だって、「やりたい」は現在進行形だけど、「やるべき」は未来志向じゃないですか。

犬山:確かに、私も、漫画家としてまったく芽が出なかった時代にブログ始めたのは“やるべき”と思ったから。それがきっかけで、編集者から声が掛かって、夢である本を出せました。それに伴いテレビ出演するようになっていきました。

佐藤裕:人生が変わりましたよね?

犬山:今の自分が成功かどうかはわからないし、まだまだ夢を追っている途中ですが、あの頃があるから、今がありますね。目の前のことを先延ばしにしがちな性格なので、きちんと先を見据えて、今「やるべき」という思考をもっと育てなきゃ。

佐藤:それが、キャリアデザインの一歩ですね。

興味の幅を広げる、自分にオープンになる

リーマンショックから複数の震災、そして今猛威を振るう新型コロナウイルスとこの先もどんなことが起こるか予測が出来ない時代です。とは言え、個人の「キャリアを生き続けること」は絶対で、その為に今何をすれば良いのかを考える中で、今回の犬山さんとの対談では沢山のヒントがあった。

夢や目標を含めた自分のホンネをオープンにする方が、賛同を得る人との繋がりが出来ること

常に自分の興味の幅を広げるために様々な方向にアンテナを張ることで自分のアウトプットが変化すること

未来の自分のために、「今、何をすべき」かを考え抜いて躊躇なく挑戦すること

コロナショックで活動が出来ない今だから、自分と向き合い、考えてこれまで言葉にして来なかった夢や目標を整理してみるのも良いでしょう。そして、活動が出来るようになった時に、まず何からアクションするのかを計画する。これが「今だから」出来る、自分への投資なのではないでしょうか。

はたらくを楽しもう。

イラストエッセイスト 犬山紙子×はたらクリエイティブディレクター 佐藤裕ー特別対談(撮影:中川 淳)
イラストエッセイスト 犬山紙子×はたらクリエイティブディレクター 佐藤裕ー特別対談(撮影:中川 淳)

犬山 紙子(いぬやま かみこ)

イラストエッセイスト

仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退職し上京。東京で6年間のニート生活を送ることに。そこで飲み歩くうちに出会った女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書き始めるとネット上で話題になり、マガジンハウスからブログ本を出版しデビュー。現在はTV、ラジオ、雑誌、Webなどで粛々と活動中。

2014年に結婚、2017年に第一子となる長女を出産してから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」の立ち上げ、社会的養護を必要とするこどもたちにクラウドファンディングで支援を届けるプログラム「こどもギフト」メンバーとしても活動中。その反面、ゲーム・ボードゲーム・漫画など、2次元コンテンツ好きとしても広く認知されている。

<新刊>すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある(扶桑社新書)

<連載>

読売新聞「小町拝見」

文學界「むらむら読書」

anan「SanPakuちゃんのわがまま気まま相談室」

steady「育児と仕事と遊びとアレコレと。犬山紙子おサボり母ちゃん日記。」

&ROSY「美欲おもむくまま」

SPA!「他人円満」

<公式ブログ>

http://lineblog.me/inuyamakamiko/

<Twitter>@inuningen

<Instagram>@inuyamakamiko

佐藤裕

はたらクリエイティブディレクター

若者の“はたらく”に対するワクワクや期待を創造する活動を行う。これまで15万人以上の学生と接点を持ち、年間200本の講演・講義を実施。現在活動はアジア各国での外国人学生の日本就職支援にまで広がり、文部科学省の留学支援プログラム「CAMPUS Asia Program」の外部評価委員に選出され、グローバルでも多くの活動を行っている。2019年2月にはハーバード大学の特別講師を務めた経験を持つ。また、パーソルホールディングス株式会社ではグループ新卒採用統括責任者、パーソルキャリア株式会社 エバンジェリスト、株式会社ベネッセi-キャリア特任研究員、株式会社パーソル総合研究所客員研究員、関西学院大学フェロー、デジタルハリウッド大学の非常勤講としての肩書きも持つ。

新刊『新しい就活

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はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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