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【潜入取材】サントリーの現役人事が語る「ESはホント全部読み切ります」から読み取る本音

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
人気企業ランキングの常連サントリー

ここ数年の就活市場での変化は「金融企業への就活生の好感度減」がひとつのポイントとなっている。2017年に発表されたメガバンクの大量リストラが起点となり就活生からの好感度は激減。AIの本格導入など背景は複数あるものの金融企業における雇用のあり方に変化を読み取ったということになる。

そんな中、リストラや早期退職などの発表があるものの安定的に人気の業界はやはり食品業界。特に就活初期で社会全体の理解が進んでいないタイミングでは生活に身近な存在から興味を持つのが今の就活の傾向でもある。

人気企業の常連サントリーはベールに包まれている

そして食品業界の中でも飲料メーカーの人気は衰えを知らない。キャリタス調べでは業種別では1位のサントリーグループがトップとなっていておなじみの印象。総合としても7位となっており学生からの人気企業の代名詞にもなっている。直近では入社して後悔しない企業NO.1も獲得している。

ところが就活市場においてのサントリーはなぜかベールに包まれている。多くの企業がインターンの強化に走る中、採用の大部分を占める事務系採用ではサントリー主催でインターンを実施していない。さらには規模感からしても採用枠は100名強と多くはない。就活情報が書き込まれるサイトにも情報が多いわけでもない。

サントリーホールディングスはなぜインターンシップを実施しないの?

今回はそのベールに包まれた人気企業サントリーホールディングスのお台場オフィスにて現役人事の杉田さんに話を伺ってみた。

まず最初にサントリーというブランドが就活市場ではベールに包まれているとされている件について聞いてみた。

「全く隠すつもりもなく、新卒採用にはしっかり向き合っていますし人事の採用への拘りは非常に強い企業だと思います。確かにインターンシップは学生と接点が持てるので、本音は実施したいです。ただ、学生にサントリーを理解頂くためにはじっくり時間を使って個別にアプローチする必要があると考えているので、多くのエントリーを頂けても受入るキャパシティの問題で多くの学生に機会を提供出来ないのです。そこで学生はインターンシップで落ちてしまうと本選考も落ちるという就活文化や噂で、サントリーの本エントリーをしないというケースが想像できます。本来出会いたい学生に会えない可能性を懸念しているのです」

就活市場ではとにかく早期母集団形成のためのインターンシップが主流となっているが、サントリーの学生への向き合う軸がしっかりあるが故の判断ということを理解出来るだろう。ベールに包まれているサントリーと学生から見える景色のギャップをこの辺りから感じられた。

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やっぱり体育会出身者が多い?

就活生の多くはビールメーカーは「体育会出身の学生が多く、日中はビールケースを持って走り、夜はお客さんとお酒を飲む」という印象は今でもある。このあたりをストレートに聞いてみたが杉田さんは笑顔で答えた。

「本当にその印象はまだありますね。良く聞かれます。ただ、他企業の状況はわかりませんが当社は内定者で見ても体育会比率は3分の1程度なので一般的な割合だと思いますし、多様な価値観を持った学生を採用しています。そして、特に営業は体力勝負のイメージを持たれていますが、実際にはお客様のお店づくり全般を一緒につくりあげていく、コンサルタントとも言える仕事を行っています。時に不動産のご提案やお店のコンセプト、店内の装飾やメニュー提案、その他いかに素敵なお店を作って売り上げをあげていくかをお得意先と一緒に考えていくのがメインになっています」

確かにビールメーカーの営業の印象が実際の話を聞いてみるとギャップとして浮き彫りになる。このあたりは実際に企業のリアルを就活生は聞きだすべきポイントのように感じる。

ES本当に読んでますか?

人気企業はエントリー数も多くESにAIを導入したり、そもそもESは学歴フィルターとして活用する企業も珍しくない。または人事ではなく面接官が使用するツールになっている企業もある。そんな中サントリーは人気企業として多くのエントリーを受ける中で実際にESをどのように扱っているのかを聞いてみた。

「実は、本当にESを人事で全部読んでいます。さらに学生1人のESを2人以上の人事が読みます。1人の判断ではなく複数の目でESを評価して可能性を最大限広げています。本当に採用の仕事でもここが一番時間がかかりますが、大事なところだと思っています」

そして、実際のエントリーシートのフォーマットを見せてくれた。内容をみて驚いた。とにかく白紙のスペースが多く何を書いて良いのか実に悩ましいフォーマットになっている。

「白紙のエントリーシートは人柄が良く出て来ます。ここでは自由に自分の判断で自分らしく記載して欲しいと考えています。正解はなくて本当に自分が表現したいことを書いて頂いてます。サントリーの新卒採用の文化かもしれません。AI導入が出来る時代にあえてアナログで時間をかけて向き合いたいです」

「やってみなはれ文化」ってなに?

大手企業のサントリーは若手からの活躍や裁量はいかほどか。直接聞いてみた。

「創業当初から受け継がれている「やってみなはれ」という挑戦の志が今でも文化として浸透しており、自分で考えてアクションすることを求められます。指示が落ちてくるよりも自分が任された仕事に対してどう考えているかが大切という文化。若い時から大きな仕事をドンと任されて、自分で思考して成果に向かって走ることは当たり前になっています。営業現場だけではなく人事であっても、入社2年目で1つの部門の採用リーダーを任されることもありますので全体的に若い時から自分で考えて主体的に活動する文化だと思います」

先輩からの情報、噂やネットの情報では得られないリアル

就職活動は年々情報量が多くなり学生は情報の取捨選択に悩む。そして手にした情報が勝負ポイントになることも多い。今回のサントリーのインタビューを通じて理解をして欲しい就活の鉄則は「アナログ活動」。実際に自分の足で情報を獲得して、自分で解尺・咀嚼して判断をすることが何より重要だ。

4月になれば就活戦線は一瞬停滞する。そのタイミングで自分が持っている情報が本当に正しいのか?自分の目で見て判断をしているのか?整理してみると見える景色が変わることがある。そしてこれまでと異なる視点で企業を見れるかもしれない。

就活は内定を獲得することがゴールではない。入社をして5年で自分らしい働き方をしている、リアルな夢や希望が定まっているか。まずはこのあたりをターゲットにしてみることで就活生がこの時期に悩む「企業選択」がクリアになるかもしれない。

何よりもベールに包まれたサントリーでさえアナログ活動で話を聞くと表に出ていない魅力が引き出せる。就活疲れが少し出始めている時期だがアナログ活動をおすすめしたい。

はたらくを楽しもう。

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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