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こども食堂の安心・安全を高めるために 保険プロジェクトのことを全国のこども食堂に伝えたい

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

「なんかあったら責任とれるんですか?」

「そうそう。ほんっと、その通り!」

先日、小さな会合で、私が“ある推測”を話したとき、その場にいた学校関係者が強く同意した。

私は、こども食堂に関して、学校の中で、こんな会話が交わされているのではないか、という話をした。

その人の実際の経験と符合したようだった。

先生A「あの子、全然食べてないみたいなんですよね」

先生B「そうそう。この前も他の子が残したパンを勝手に盗ろうとして…」

先生A「これから夏休みに入ると給食もないし…。大丈夫ですかね?」

先生B「そうですね~」

先生A「なんか最近〇〇地区でこども食堂とかって始まったらしいんですよね。ほら、ちょいちょい新聞とかに出てるやつ。ちょっと話してみようかな…」

先生B「…誰がやってるんですか?」

先生A「よくは知りませんけど…」

先生B「どうかな~。あんまり勝手に動くと親御さんが何言い出すかわかんないし…。それに食事は結構デリケートですからね。ちゃんとした人たちがやってるかどうかもわかんないんでしょ?なんかあったら、こっちの責任にもなりかねないし・・・、教頭に相談してからのほうがよくないですか?」

先生A「……」

出典:こども食堂は第2ステージへ 地域性の獲得に向けて

こうしてA先生は黙ってしまい、子どもに情報は伝わらないままとなっているのではないか。

また、同じような会話は、自治会でも、児童館でも、役所でも交わされているのではないか。

学校の中では・・・(この写真はイメージで、本文と直接の関係はありません)
学校の中では・・・(この写真はイメージで、本文と直接の関係はありません)

増えつづけて1000カ所!? 移り変わる課題

この数年間で、全国にこども食堂が生まれた。

2016年5月時点で319カ所が確認されているが(朝日新聞調べ)、その後も増え続けている。

大都市部だと、私が聞いた時点で、東京都北区に19カ所、八王子市に12カ所、大阪府豊中市で23カ所と、一自治体あたり10カ所くらいはできている。

地方でも、北海道では113カ所、滋賀県は83カ所。県ごとにかなり幅はあるものの、一県平均で20カ所くらいはいくのではないだろうか

正確な全体数は誰も把握していないが、500を超えているのは確実だし、上記の数字を踏まえれば、1000カ所を超えていてもおかしくない

そのような中、課題も移り変わってきている。

東京都江戸川区のこども食堂マップ。「主な子ども食堂」として12カ所を掲載(区HPより許可を得て掲載)
東京都江戸川区のこども食堂マップ。「主な子ども食堂」として12カ所を掲載(区HPより許可を得て掲載)

「貧困の子を集めて、ごはんを食べさせるところ?」

当初は、「誕生」そのものがニュースだった。

しかし、相次ぐ誕生とそれについての報道は、人々に戸惑いや混乱も生み出した。

いわく、「貧困家庭の子どもを集めてごはんを食べさせるところらしい。それじゃ子どもたちがかわいそうだ」「うちの地域にそんな子はいない」

実際には、こども食堂のほとんどは、地域の交流拠点、共生拠点を目指して運営されているのに、それが伝わっていなかった。

そこで私たちは、その実情や運営者の思いを地域に広く伝えるために、「広がれ、こども食堂の輪!全国ツアー」を実施した(2017年12月時点で35都道府県で実施)。

また私自身も、2016年7月と10月に以下を発表し、誤解のふっしょくに努めた。

名づけ親が言う 「こども食堂」は「こどもの食堂」ではない

「こども食堂」の混乱、誤解、戸惑いを整理し、今後の展望を開く

一つひとつのこども食堂の地道な積み上げがあって、地域交流拠点、共生拠点としてのこども食堂に対する理解は、かなり広がったと感じている。

「広がれ、こども食堂の輪!全国ツアー」のシンボルイラスト
「広がれ、こども食堂の輪!全国ツアー」のシンボルイラスト

「何かあったときの備えはありますか?」

ひとつのヤマを超えると、次のヤマが見えてくる。

次に見えてきたのは、こども食堂の安心・安全面に対する不安だった。

私は、上記の「全国ツアー」で20カ所以上の地域におじゃましたが、どこでも参加者からはこの点に関する質問が出た。

「衛生面の配慮はどのようにしているのですか?」

「何かあったときのための保険には入っていますか?」等々

秋田県に行っても、長崎県に行っても。まるで、みんなが示し合わせているかのように同じ質問をする。

「できたんだね」「生まれたんだね」というところから、そこに「ある」ことを前提に、その場が安心・安全な場所なのかという質的なところに関心が移ってきているのを肌で感じてきた。

多くのこども食堂は、その点もちゃんと考えていて、何らかの保険に加入している。しかし、それが外部に見えていなかったり、伝わっていなかったりする。また、中には毎回の開催にこぎつけるのがやっとで、保険にまで手が回っていないこども食堂も存在している

起きてほしくない悪循環

同時に、少なからぬこども食堂が地域との連携という点で課題を抱えていた。

となると、以下のような悪循環の起こる可能性がある。

周囲の人たちにこども食堂の安心・安全面に対する不安がある

不安があるので、冒頭の学校職員室のように、話題が広がらない

子どもたちに情報が届かず、運営に必要なヒト・モノ・カネも集まりにくい

継続自体が難しくなってきて、安心・安全面の配慮からさらに遠ざかる

この問題意識を書いたのが、半年前の以下の原稿だった。

こども食堂は第2ステージへ 地域性の獲得に向けて

自分たちで保険費用を集めるプロジェクトを始めます

そしてこのたび、私たちは、この新たに見えてきた課題に対処することにした。

すべての子どもたちが必要に応じてこども食堂につながれるようにするために、

全国のこども食堂(200カ所を予定)と力を合わせて、自分たちで保険費用を集める。

具体的には、4月からクラウドファンディングを行う。

こども食堂安心・安全プロジェクトの公式ロゴ
こども食堂安心・安全プロジェクトの公式ロゴ

プロジェクトの目的

目的は3つだ。

1.子どもたちに情報を届ける。

子どもは新聞もネットニュースも見ない。大人に紹介してもらうしかない。その大人たちの安心感を高めるために、保険をしっかりさせる。または、しっかりしていることを知ってもらう。

2.運営面で余裕のないこども食堂を保険面でサポートする。

 ヒト・モノ・カネを自前で調達していくのには力がいる。こども食堂の中には、子どもの課題を知って、いてもたってもいられずに少人数で始め、地域とのつながりも強くないところがある。でも、運営面が脆弱でも、気持ちは人一倍ある、という人たちがたくさんいる。この灯を絶やしたくはない。

3.つながりを強化し、理解を広げる。

 「広がれ、こども食堂の輪!全国ツアー」の開催準備の過程で、全国に各県単位のこども食堂ネットワークが生まれた。また、地域の理解も広がってきた。一定の意義と成果はあったと思う。しかし、まだ足りない。まだつながれていない人たちとさらにつながる必要がある。こども食堂同士も、こども食堂と地域も。

全国のこども食堂に伝えたい!

しかし、上記3つの目的の手前に、重要な課題がある

それは、このプロジェクトの情報を全国隅々のこども食堂に届ける、ということ。

情報が届いた上で、このプロジェクトに参加するかどうかは、各こども食堂が自由に判断してくれればいい。

情報が届かず、「知らなかった~」という事態は、できるだけ避けられればと願っている。

そこで読者のみなさんにお願いがある。

2月1日より、このプロジェクトに一緒に参加するこども食堂の募集を始めた。

募集要項と応募フォームはこちら

URLはhttp://kodomoshokudou-network.com/anshin/

この情報の拡散をお願いしたい。

こども食堂の運営者が友人にいないという方でもかまわない。

情報が拡散していくうちに、直接・間接の関係者の目に止まるかもしれない。

生まれたばかりのこども食堂には、いろんな分野でよくある「全国組織」のようなものはない。

みんながお互いの多様性を尊重し、誰かが束ねようとしていないところが、よいところだとも言える。

しかしそれゆえに、孤軍奮闘しているところに情報が届かないリスクがある。

つながりは、力を生む。

みなさんの力を貸していただきたい。

社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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