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外国人労働者が守られる環境を  福島第一原発での外国人労働者が働くことへの物議から

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
福島第一原発現状ジオラマ((株)大和工藝制作、(一社)AFW監修)

 東京電力福島第一原子力発電所で今後外国人労働者が働くことが可能になったことが物議になっています。

福島廃炉に外国人労働者 東電「特定技能」受け入れへ(朝日新聞デジタル)

 日本全体の労働者不足から外国人労働者への受け入れに向けた法整備が少しずつ進む中、やはりここにも来たなというイメージでいます。

・労働者不足問題は既に地域で起きている

避難区域の現状(平成31年4月10日時点)福島県HPより引用
避難区域の現状(平成31年4月10日時点)福島県HPより引用

 福島県沿岸部地域(通称:浜通り地方)にある避難解除が進み、町並みが少しずつ整う双葉郡内では、どこでも労働者の取り合いの様な状況が生まれています。働く人を募集しても中々集まらない状況にあるからです。この問題が生まれた背景は福島第一原発事故による放射性物質による汚染からくるイメージがあります。

 世の中、職業を選べる自由がある中、そうしたイメージが先行する場所は、地縁的理由から働きたい人を除くと、一般的にはまだまだ働きたくない場所と捉えられています。

 そこで地域で労働者を募集する際には、負のイメージ代として単価は高く設定され、地元事業者の方の経営をひっ迫するような現象も起きています。

 最近、双葉郡のコンビニで外国から留学で来ている子たちの姿が良く目につくようになりました。

 日本人が働きたがらないけど、給料が高いからと起きる現象です。根が真面目な子たちですので一生懸命働いてくれています。

 ですが、彼らの人間性とは別に外国人という理由だけで、差別的に扱われている場面を私は何度も見ています。

 地域からの厳しい目も、そして言葉の壁で生まれるいさかい、外国人だからと無下にされる姿も。

 まだまだ外国人を受け入れられる文化が成熟するには長い年月がかかると感じています。そこをサポートする体制が出来上がるのも

福島第一原発特有の課題

・社会影響の大きい現場

 福島第一原発の場合も先に書いたことは起こりえる分けです。それに加えて、放射線被ばくから身を守るために、日本人でも理解が難しいルールやマニュアルばかりの場所、そして預けられる場所は、事故後社会から注目を浴び、起きたトラブルは彼ら労働者だけで責任を取れる範疇を超え、社会問題にまで発展します。

 例えば、慣れぬ作業でニュースになるトラブルが起きたとします。「また福島第一原発は・・」、「福島県はやっぱり・・」、「避難解除してて良いのか・・」等々、起きうる影響範囲の広さは想像に難くありません。

・育てられる余裕・環境がない

 筆者は、東京電力時代、現場管理という仕事をしてきました。

 原子力の安全を預かる立場として、一緒に工事作業をする人達の管理です。

 作業員とよばれる人達の技量やモラルは信じるしかありません。工事作業が始まる前に資料として、名前、資格等のリストをもらい、作業を実施するに値する技量をもった人達だと認定し工事が始まります。それはペーパーで書かれたものですから、真実は信じるしかないのです。

 長年地元の協力企業・作業員の方々と一緒に仕事をしてきました。

 現場を預けるのに心配がいらない人がばかりですが、中には新入社員の人や、技術もモラルもない人がいます。それはどんな業界でも同じことと思いますが、違った点は育てる文化と仕組みが原発事故前は整備されてました。

 事故前は同発電所内に訓練センターがあり、東京電力以外も使え毎日だれかが訓練している。誰もが最初は素人、そこに教育が出来る余裕があるからなんとかなります。多少のミスは仕方がないと。いつか立派になると育てられるわけです。

 今をお話しします。落ち着いてきた現場とは言え、失敗を許されない要求の中過密スケジュールが求められ、帰還困難区域内にある発電所の仕事は、通勤に時間が取られ、自己研鑽する場や時間が中々とれません。

 訓練センターが所内にあったという事は、事故により機能しなくなったということを招いていますし、社員教育は発電所一体としてやっていたものが、現在は各々所属する会社に教育を任せると変わってしまいました。

 私は社員教育という分野にも関わってきました。もっと言えば会社の先輩として後輩育成は仕事の中で当たり前にあることですし一緒に仕事をする=育てると思っていました。これを高い次元(原子力の安全を任される)にて行うためには、育てようという意思だけでなく仕組みや体制が大切であることが重要だと痛切に感じてきました。

外国人が働くことが問題ではない、働ける環境整備が追い付いていないのが問題

 今の状況の中で外国人が働くことへの社会不安の声「外国人だからダメだ」と声をあげることは、外国人へぶつけて良いものでしょうか。

 現に家族を守るための福祉の世界でも、日本人が本来すべきことが労働者不足という社会的課題の中で、海外の方に力を借りる現実があります。そこでも同じように不安視する声が上がるのは、本質的に彼らが働きやすい環境が整っていないことにないでしょうか。

 外国人労働者を守ることが私達の生活を守ることに繋がることは自明のはずです。今回、この福島第一原発構内で外国人が働けるようになることへの不安は、彼らの守れる環境が整っていないことへの不安ではないでしょうか。

差別ではなく差異を

 私は長年、あの福島第一原発で働いてきました。福島第一で作業することを任せられる人材になるのには途方もない時間がかかることを知っています。

 法の下に働くことが可能になることと、働くに値することはまた別なことです。外国人故に起きうる言葉や文化の違い、日本という場所で原子力発電所という場所で求められる品質やモラルの意味、技術はいわずもがな、原子力を扱う上での専門知識、日本人であっても一つずつ確かに踏めるステップを踏まないとなりません。

 原発事故後、現地でトラブルが頻発したのは、長年知識・経験を培ってきた人達が減り、原発事故後の廃炉は解体・建設業ですから新規の人達が増え、原子力特有の知識・経験不足により起きたヒューマンエラーが頻発したことが大きな要因です。

 だからこそ、外国人労働者が安心して働ける状態(見守る人達も安心できる状態)になるまで、しっかりとサポートしてから福島第一原発で働かせてあげて欲しいと願います。

 一般的労働の中で技術を学び、言葉を学び、文化を学ぶ。彼らが彼らの目線でも出来得る作業となり、また第三者機関が福島第一原発でも大丈夫とお墨付きをあげたらと。胸をはって、働きたい人に開放していく社会であって欲しいと思います。

 ステップを丁寧に踏めるようにしてあげることが大切ですし、ステップを踏んだことに対して、社会包容できるよう周知や理解活動も大切です。日本人と同じ様にそうした面であえて扱わない、差別はあってはなりませんが差異をあるべきと思います。

職業差別問題が根底にある

 物議があがった背景には、外国人の方を使って処理させようとしているという問題意識があります。その根底には福島第一原発で働く人達への職業差別があるように感じます。

 現在の福島第一原発の働く環境は事故当時から改善が進み、人間が使い捨てされるような現場では決してありません。

 この様な視点でのみ語り終わらせては本質的問題を遠ざけてしまうのではないでしょうか。

 福島第一原発で働くということは社会安心を一歩一歩作っていく仕事であり、尊敬に値する職業ではないでしょうか。

 福島第一原発は世界も知る課題の場所です

 ここを解決しようとする技術者やそれを支える人達が敬意を受ける文化も同時に作っていかなくてはなりません。放射線被ばくと職業の貴賎は本来無関係です。

 安易に職業差別的な視点で語ることは本質的問題を遠ざけてしまうように感じます。

・労働者不足を抱える日本全体の問題

・負のイメージが先行し差別的要因が残る中、外国人労働者を入れてしまう問題

・外国人労働者が安心して働ける環境が整っていない問題

・本来、モラルと技術を高く要求されるような働く場所にも適用せざる得ないような状況のひっ迫性

・外国人労働者が住む場所・地域での受け入れの問題

 これらを複合的に考えていかなくてはならないと思います。

 福島第一原発が抱える課題の多くは地場で暮らす人達を振り回してしまう。そんな現実があります。だとしてもこうしたニュースを冷静に受け止めて、ではどうすればと本質的問題の解決に向けた一歩を始められるかを考えていくことに繋がる。

 その様なことに福島第一原発にまつわるニュースが、本質的には社会課題が解決されるために扱われて欲しいと願っています。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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