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なすびさんはどうして4回も「エベレスト」にチャレンジ出来たのか

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
(写真:アフロ)

なすびさんがエベレストを登頂に成功した。このニュースは全国を駆け巡りました。世界最高峰のエベレストに挑む。それは私達の想像を遥かに超えます。

登頂するどころか滞在していることすら「命の危険」が目の前にあるような状態です。それを表すように過去のチャレンジでは、なすびさん自身も雪崩に巻き込まれ、命を危うく落としかねない経験をされています。

福島に夢と希望と勇気を伝える。そのような形で今回の登頂が報じられ、各方面からチャレンジに共感と感謝の声があがっています。

筆者もその一人です。多くの助けを借りながらも自分が諦めないことは成し遂げられる。身をもって伝える姿に感動と自分もそうありたい頑張ろうという気持ちにさせていただきました。

今回の報を受け、私達は普段笑顔のなすびさんしか見ることはありません。常に前向きで人に優しい姿に心惹かれます。ですが、それ故になすびさんが背負っている重みを知る機会はほとんどありません。お話しする機会もないのですから。

被災された地域の皆さんの気持ちを少しでも知るためにと、福島第一原発を視察される「なすびさん」
被災された地域の皆さんの気持ちを少しでも知るためにと、福島第一原発を視察される「なすびさん」

筆者は昨年9月、福島県の復興に尽力されるなすびさんを福島第一原発の視察にお連れしました。福島を伝える仕事をしている責任の中、福島第一原発の現状を知っていただきたかったからです。

その視察に際して時間をいただいた際、タレント活動を超えた「ふるさとへの愛」と「自分が出来る地域への貢献」の在り方を聞かせていただきました。

自分が出来ることをする

福島駅からほど近く、一軒の居酒屋でお話しをさせていただきました。そこには「なすび」というタレントの姿は皆無でした。とても静かにどうして福島に関わりつづけるのかを真剣に話す姿がありました。

福島県立福島東高等学校卒のなすびさん。プライベートになれば慣れ親しんだ”ふるさと”が福島県です。ふるさとが原発事故により大変に苦しい状況になっている、終始「自分ごときができることは~」と語り続けていました。

謙虚さの中、被災された方がいる、明日に希望も持てない人もいる、そうした人達へ自分は笑顔を届けられる可能性があるのであれば、どのようなことでもさせて頂きたいと語る姿には、私達が電波少年で見ていたイメージはありません。

「たくさんの方の声に耳を傾けることで自分が出来ることも見えてくる。耳を傾けなくてはだめですよ」筆者は立場も違い伝えることも「福島第一原発の現状」と違いますが、ふるさとのために置かれた立場で出来ることをするという覚悟と、常に被災された方に寄り添い続ける覚悟をなすびさんから教えていただきました。

筆者は第一回目からチャレンジを見守っている福島県民の一人です。「どうして危険なエベレスト登頂にこだわるのですか?」と無粋ではありますが、十分に伝わる思いもありながら心配の意味もこめてお聞きしました。

「やれば出来るという姿を伝えたい。出来ていない自分が福島頑張ろうなんて言えないじゃないですか」

この答えに(そこまで背負わなくても、十分過ぎるほど気持ちは伝わっていますよ)と正直思いました、ですが成し遂げることで原発事故からの復興を歩む人達に「あきらめないことで大きな壁を自らの力で乗り越えていける」そうした勇気と希望を伝えることに繋がる、だからこそあきらめないという強い覚悟と、絶対にふるさとを見捨てることはないという「ふるさとへの愛」を感じました。

居酒屋にお誘いした間も、なすびさんはお酒を口にすることは一切ありませんでした。終始どうすれば福島の役に立てるのか、そればかりを語っていたと記憶しています。

お店を出て、福島県の駅前を歩いているとあちこちから「なすびさんだー!いつもありがとう!応援してます!」と声がかかります。

沢山の方がサインや写真をねだっても、全員に笑顔で答えていらしていました。

そしてそこにはたくさんの笑顔が生まれていました。

今回のエベレスト登頂は福島県で復興に歩む人達、ふるさとを愛する人達に大きな勇気と希望を伝えてくださいました。それを成し遂げたことを、なすびさんは必ず「応援してくださった皆さんのおかげです!」といつもの謙虚さで仰います。

ですが知っていただきたいのは、何よりも「ふるさとへの愛」がそこにあったということです。そしてふるさとで大変な困難な中、前に進もうとする人達の為に、あきらめないという強固な気持ちがあったということを知って頂きたいと思います。

なすびさん!ふるさとを愛するということ、あきらめないということを見せてくださってありがとうございます!

どうぞ無事に福島県に帰ってきてくださいね!

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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