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笑顔なし、流せぬ涙 廃炉事業者への表彰式 私達は働く人達への捉え方を間違ってきたのではないか

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
第1回福島第一廃炉フォーラムでの表彰式の模様 笑顔で招き入れるは高木経産副大臣 

4月10日、11日、福島県いわき市にある「スパリゾートハワイアンズ」にて、第一回 福島廃炉国際フォーラムが開かれました。

各国の原子力関係機関・関係者を招き、廃炉状況を伝え、福島第一原発の廃炉の在り方を問う場として開かれたものです。こちらフォーラムの模様は新聞、TV等でも伝えられましたが、それは断片的な開催したとする情報を伝えたものに過ぎません。

この投稿記事で「そんなフォーラムがあったのか」と初めて知った方も多いと思います。筆者も参加させて頂いたフォーラム、その中で新聞、TVでは伝えきれなかった内容についてお届けします。

そこには「私達が廃炉で働く方々をどう捉えてきたのか」を如実に表す、出来事がありました。

廃炉現場で働く人達を正しく評価し賞賛する

当たり前が今までなされてこなかった

見出しの写真でもありますように、10日フォーラムの最終を締めくくったのは廃炉現場で働く方々への感謝状授与式です。筆者は特別な思いで拝見させていただきました。「ついにここまできたのか」という思いです。

これまで、福島第一原発を訪問された要人の方が激励の言葉を述べる。そういった事は幾度もありました。ですがこうした公の場で感謝状を渡し、功績を称える。これは初めてのことです。

筆者も今も原子力事故で苦しむ方々がいることを知っておりますし、廃炉は今もリスクを抱えた場所であると考えています。それと廃炉作業に従事し、与えられたミッションに対して結果を出していることは、明確に切り分け、誰もが出来ない仕事に取り組まれてい方々を賞賛することは、当たり前のことと思っています。

事故から6年目、その当たり前がようやく行われた。このようやくの中に、そして授与された方々の姿から、私達社会が廃炉をどのように扱ってきたのかという問題があります。

授与された方々に笑顔はありませんでした。終始、神妙な面持をされていました。筆者は、神妙な顔の中、こらえ切れない涙が目ににじんでいたことに、見過ごすことが出来ない思いを感じました。

廃炉の現場で働く方々は、原発事故で苦しまれている方々を決して忘れてはいません。自身が働く場所は人の幸せを奪った場所である。その場所で働くことを賞賛されることに喜んではいけない。笑顔を出していけない。

その様な思いが神妙さから伝わってきました。

ですが、またこらえきれぬ思いもあるのも事実です。それが必至にこらえる涙に繋がっていました。

涙に込められた意味とは

満場の拍手の中、授与された方の目には涙が浮かんでいました。大の大人が涙をこらえる、そういったことは中々あることではありません。

福島第一原発の廃炉は、原発事故から始まった廃炉です。数々のトラブルとの戦いの連続でした。普段入ることが出来ない私達でも困難な作業場であることは分かりますし、私達が想像するよりも遥か上にご苦労がありました。廃炉が終わったわけではありません、ですが困難なミッションを成し遂げた「達成感」が涙の一因だと容易に想像が出来ます。

それだけでなく、筆者は「認めてもらえた感」が何より涙に繋がったのだと思います。それは、廃炉に携わる方々が地域、そして社会からどのように扱われてきたかを、筆者は原発事故直後から現在までも見つめ続け知っているからです。

社会に居場所を感じられない

今でも廃炉現場で働くことを隠す方がいる事をご存知でしょうか。原発事故からのスタート、この時点で廃炉はとても後ろ向きな扱いでした、人生が変えられた方々にとっては増悪の対象でしかない場所です。

事故への思いは、働く方々へのバッシングや批判に繋がっていきました。事故からのスタートゆえにトラブルなしでは進まない作業は、社会不安を与えながら進む、そんな側面もあります。

そして原発事故は、地域の問題として、原発事故による避難区域及び旧避難区域で暮らすことが、帰還住民の方たちよりも数が多くなるという現象を生み出しました。原発事故により住み易さを喪失した町では、共生の中で起きる問題から、時として働く方々を厄介者として扱ってしまうことがあります。

原発作業員という色眼鏡で見られるレッテルは長く、今も働く方々を傷つけています。

これは風化が及ぼした問題ですが、廃炉に社会が関心を示していないことは働く方々が一番感じています。廃炉は生産性のある現場ではありません。目に見えぬ測れぬ「安心」を社会に生み出していく仕事です。その安心は社会が決めるものです。

言うなれば、関心が持たれない状況は、誰のために何のために仕事をしているのか分からない状態です。社会の求めがあって成り立つ現場が、社会の求めを感じられない。そこに対して誇り、遣り甲斐を感じることが出来ない、働くこと自体が辛いという思いを抱えています。

500名を超える人の前で、満場の拍手で表彰される。笑顔がこぼれるのが普通です。ですが神妙な面持ちで壇上にいらした協力企業の方々は、やっと社会に居場所をもらえた、認めてもらったという思いが、こらえきれぬ涙の背景にあったのではないでしょうか。

今回の表彰は、国からの表彰になります。表彰された企業の方々は以下の通りです。

<内閣総理大臣感謝状>

工事件名:1F-2、3号機海水配管トレンチ内部閉塞工事

1F-4号機海水配管トレンチ内部閉塞工事

作業チーム:鹿島建設株式会社 東電福島土木工事事務所

カジマ・リノベイト株式会社 東電福島工事事務所

<経済産業大臣感謝状>

工事件名:原子炉格納容器内部調査技術の開発

作業チーム:日立GEニュークリア・エナジー 1号機PCV内調査チーム

有限会社根本機工 1F工事チーム

株式会社木村管工 北茨城事業所

<経済産業副大臣(原子力災害現地対策本部長)感謝状>

工事件名:1F港湾内海底土被覆工事

作業チーム:五洋・東亜共同企業体

五栄土木株式会社 福島支店

大新土木株式会社 東京営業所

<経済産業副大臣(原子力災害現地対策本部長)感謝状>

工事件名:1F1~4号機H1,H2エリアタンク基礎他設置工事並びに関連除却工事

作業チーム:大成建設株式会社 東電福一関連工事作業所

株式会社東洋ユニオン 東電・福一対策出張所

高橋建設株式会社 東電福一作業所

国から表彰される、これは廃炉の意義の高さを示しています。国家の大事であると。大変な名誉です。

ですが筆者は思います。働く方々が本当に認めてもらいたい、喜んでもらいたいと思っている相手は誰でしょうかと。それは健全な廃炉を求める私達一人一人ではないでしょうか。

この表彰式は、賞賛を送るだけでなく、これまでの廃炉現場で働く方々への捉え方を見つめ直す。そんな機会だったのではないでしょうか。

表彰された企業の方々は、廃炉に携わる企業で働く方々のほんの一部です。廃炉はチームで行うもの、どのようなお仕事でも賞賛に値するものです。

全ての福島第一原発で働かれる皆さまに感謝申し上げます。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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