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「茨城県常総市」大水害から3ヶ月 進まぬ生活再建と希望の光

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
常総市中心街 鬼怒川決壊付近より約9kmの距離

9月10日茨城県常総市を襲った広域水害、被害の模様、そして被災された方が抱える生活再建の課題をお伝えしてきました。

「茨城県常総市大水害」被害実態に見合わぬ制度 社会課題と言える大規模水害に対する生活再建の在り方

水害から3ケ月が経過しました。常総市の現状を伝えるニュースはほとんど入ってきません。生活再建は進んでいるのか?その視点で取材を行ってきました。

忘れさられた広域水害

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現在当たり前に写る風景は水害当時、形容するならば「湖」になりました。見渡す限り水しかない、本来あるべき田んぼ、家屋、商店、視界に入る全てが浸水した風景はあまりに非日常的でした。浸水範囲は南北に10kmを越え、東西に最大で約4kmにもおよびました。

床上以上の浸水は5103件(全壊51、大規模半壊1,452,半壊3,520、床上浸水100)、床下浸水2,996件、全体被害件数は8,000件を超え、ピーク時の避難者数は10000人を超えます。現在も80名の方が避難所で生活されています。

生活再建への道遠く

茨城県常総市大水害の「その後」 被害実態にそった支援制度の是正求める、住民からの切なる声こちらでもお伝えしたように、被災された方々の実損害は公的支援金ではまかなえないほど大きいものです。

水害から3ヶ月、鬼怒川決壊付近から6kmほど離れる、一見すると日常風景が戻る常総市を取材してきました。あちらこちらの家庭から、内装を修理する音が聞こえてきました。床板を張り直し、内壁を張り始めている状態です。雨風は確かに防げても、暮らすのには非常に不便な状態が続いていました。家族の声がしない家屋は、床板が剥がれたまま、修復をまつような状態です。

大工の方に、現在の常総市の状態をお聞きしました。

「なんとか正月までには直してあげたいと思うけど、大工が足りていない。見積もりを出すと支援金だけでは家が直せず、常総市を離れていったお客さんが多くいる。支援金だけでは家を直すのは無理だよ。車も家財もだめになった人が多いからね。」

明かりが消えた家屋、取り壊された商店、注意深く見ればようやく修復が始まった家屋がちらほら、活気を失う姿は”ばね”になる支援が求められているように映りました。

厳しい生活再建の中で明かりを灯す地元商店

親子3人で切り盛り、会話が作る温かい雰囲気も魅力の一つ
親子3人で切り盛り、会話が作る温かい雰囲気も魅力の一つ

明かりが少なくなった街、理容室「おしゃれどころSakairi」にお伺いしました。お店に入ると、お客さんとの楽しそうな会話が耳に入ります。取材も兼ねて散髪をお願いしました。

水害翌日の写真。店舗部分は完全に水没。
水害翌日の写真。店舗部分は完全に水没。

3ヶ月前に水害があったとは思えない店内に、きょとんとしながら順番を待っていると一枚の写真を見せてくれました。天井付近まで水没した写真にはっとさせられます。店内の目の前にならぶ全てが新しく揃えたものなのですから。「髪を切るための椅子は1台80万もするの。でも高くて買えないから中古を買って、自分で皮を張り替えたんだ。毎日のように友人が通ってくれた。こうやって再開できることは有り難いよね。」「ゆっくりしていってね。」と切り終わった後に出された珈琲を飲んでいると、常連のお客さんが続々訪れます。親子三人、笑顔あふれる空間は、地域の憩いの場にもなっていました。

ラーメン店とんこつとん太 小さな娘さん二人が書いたメニュー 
ラーメン店とんこつとん太 小さな娘さん二人が書いたメニュー 

町を走っていると飲食店が再開出来ずにいる風景が目につきます。次に訪れたのは暗くなった街並みに明かりを灯す、ラーメン店「とんこつトン太」お店を再開できたのは11月中旬。

再開出来たことを笑顔で語る 横田剛さん
再開出来たことを笑顔で語る 横田剛さん

ご主人の横田剛さんは「水は胸の高さまで入ってさ。厨房も全部だめになって、再開する気持ちにもなれかったよ。再開を待つお客さんからの声が励みになって、目標を持ってこられた。(再開を)お客さんがTwitterとかで広めてくれさ。大変だけど、まだ再開出来ない同業者もいる中、有り難いことだよ」と仰います。

本場仕込みの博多ラーメン、代々続くとんかつに笑顔がこぼれるお客様
本場仕込みの博多ラーメン、代々続くとんかつに笑顔がこぼれるお客様

本場で修業をした博多ラーメンを求めて、常連のお客さんが訪れていました。「ご主人の親の代から通っている、まだ食べたくて再開の手伝いに通ったんだ。大変な状況からを知っているだけに、こうしてまた食べれることが嬉しいよね」、若いお客さんからは替え玉を求める声が。お客さんと再開を笑顔で語り合う風景がそこにはありました。

地元商店の方々は、自宅だけでなく店舗も大きな被害を受けました。二重の生活再建の苦しみがあります。多くの商店が再開のめどが立たない状態にあります。

常総市を襲った大水害の爪痕は、まだまだ色濃く残っていました。昼間の風景と夜の風景は別物です。日常が戻った、水が引いてよかったね。と簡単には言えない状況は続いています。それは個人の資産では太刀打ちできない被害を及ぼした水害であったからです。

水害のニュースを聞かない年はありません。私達の生活にとって水害は身近な災害です。常総市のケースは忘れてよいものでしょうか。生活再建の難しさを取り上げず、水害への公的支援の在り方を見直す大きな機会を失おうとしています。

常総市で暮らす方々の生活再建が成されないことは、私達が同じように水害にあった時、生活再建が成されないことになります。

私達の生活にも繋がっている、そうした視点で捉えていくことが必要といえます。

常総市を襲った大水害から3ヶ月。同じような水害に皆さんが襲われた時、ふるさとを守ることが出来ますか?

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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