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認可外シッターの研修義務化 ~厚労省の専門委員会がとりまとめ~

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
幼保無償化に向けて認可外シッターの質の確保・向上を図る(筆者撮影)

厚生労働省が社会保障審議会児童部会に設置した「子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」(委員長:松原康雄・明治学院大学学長)が3月から検討してきた認可外の居宅訪問型保育事業者の保育従事者(いわゆるベビーシッター)に関する議論が7月4日に開催された会合でとりまとめられた。

同委員会は2014年3月に発生したベビーシッターによる痛ましい殺人事件を契機に発足したもので、同年10月に一度とりまとめを行っている。

その際、児童福祉法(当時)に規定する認可外保育施設の届出制の対象外であった1日に保育する乳幼児が5人以下の施設については届出制とする改正が行われ、指導監督の対象外だった個人のベビーシッターを含む認可外の事業者に対しても指導監督の対象となるなどの対策が講じられた。

また、問題となった個人のベビーシッターが利用するマッチングサイトについては、ガイドラインの策定が求められたことから、現在では、ガイドラインの順守状況の調査・公表が行われ、悪質な業者が介在しないよう、ベビーシッターの質の確保・向上に向けて、一定の枠組みが作られた。

ガイドライン適合状況調査サイト

ガイドライン適合状況調査サイトのトップページ
ガイドライン適合状況調査サイトのトップページ

認可外のベビーシッターの届出件数は、2017年度時点で1,977カ所。そのうち事業者が327件、個人が1,650件となっている。また、認可外の居宅訪問型保育事業(ベビーシッター)については、2017年度3,051人の利用があるが他の事業と比べると利用者数が少ない状況だ。認可外のベビーシッターは、保護者が子どもの面倒をみられないときの最後の砦としての位置づけが強いが、だからこそ子どもを安心して預けられるさらなる環境整備が求められるところだ。

認可外保育施設の入所児童数       出典:厚生労働省(2017年度認可外保育施設の現況)
認可外保育施設の入所児童数       出典:厚生労働省(2017年度認可外保育施設の現況)

今回、委員会が再開されたのは、前回のとりまとめでベビーシッターに対して研修の受講を促す旨が指導監督基準等に盛り込まれていたものの、具体的に保育従事者の資格や研修受講に関する基準がなかったこと。そして、何よりも10月に実施される幼児教育・保育の無償化に伴い、認可外のベビーシッターもその対象になったことから、それまでに質を確保するための指導監督基準などの課題をクリアにしておく必要性が生じたことなどが主な理由だ。

筆者も5年前の委員会から引き続き委員として議論に加わり、とりまとめに関わらせていただいた。そこで、今回のとりまとめのポイントについて解説していきたい。

ベビーシッターの資格や研修に関する基準の創設とその運用

ベビーシッターは原則的に乳幼児1名を1人で保育しなければならない。そのため、保育士か看護師の資格を持っている者以外については、20時間程度の講義と1日以上の演習を基本として、以下に該当する研修を受講することが適当とされた。

  1. 地方自治体が実施する認可の居宅訪問型保育事業に係る研修や子育て支援員研修(地域保育コース)
  2. 公益財団法人全国保育サービス協会が実施する居宅訪問型保育研修
  3. 民間の居宅訪問型保育事業者の自社研修や民間研修事業者が実施する居宅訪問型保育研修であって、1.または2.と同等と認められる研修

幼児教育・保育の無償化に関連しては、基準に適合しない認可外のベビーシッター事業についても、認可外保育施設などと同様、5年間の猶予期間中は無償化の対象となっている。これについては不安な声があるのも事実だが、この期間に「計画的な研修受講を推奨し、質の確保・向上を図ることが必要である」とした。また、フォローアップ研修についても整理することが必要としている。

研修の受講を促しながらも、その機会が少なくては研修が受けられないため、その確保方策を示した。

基本的には、上記の1.及び2.の研修が受講できるように拡充していくことになるが、都市部・都市部以外に関わらず、複数の地方自治体での研修の分割受講や、複数の地方自治体による研修の共同実施(共同委託)を検討すべきとし、受講促進を図る。

子育て支援員などの研修については、集中的に数日間の日程で設定されていることが多く、そのための日時を確保する必要がある。例えば、会社員が副業で居宅訪問型保育研修を受講したいと考えた場合、連続の年次有給休暇を取得するのが難しい。そこで、一定期間内での分割受講を認めることで、研修機会の確保を図る。e-ラーニングなどの活用についても盛り込まれ、遠方であっても講義が受けられるようになる。ただ、研修のすべてをe-ラーニング化することには懸念の声もあり、演習や一部の講義は対面で実施することになる。

また、上記3.については、ベビーシッターの運営事業者が実施する有効な自社研修の実績がある場合などの一定の要件が必要となる。その要件は、厚労省が示す確認方法に基づき、都道府県等(政令指定都市・中核市含む)が1.や2.の研修と「同等」と認めた場合に適用される。さらに、民間の研修事業者などが実施する研修についても同様の措置が取られ、都道府県等が判断に困らないよう、必要に応じて厚労省が助言を行うとしている。

ベビーシッターの情報開示の徹底

認可外ベビーシッターの利用者が正しい情報を円滑に把握できるよう、保育士や看護師などの資格保有状況や、その他ベビーシッターに関わる研修受講の状況を、都道府県等に届け出ることに加えて、ホームページなどでの利用者への情報開示を義務づける。また、都道府県等を跨いでの情報共有を進めるために、現在、内閣府が構築を進める「子ども・子育て支援全国総合システム」を活用し、ベビーシッターの届出がされている事業者を都道府県等や市町村が容易に把握できるようにするとともに、一部の情報については、利用者の閲覧も可能とし、安心できるベビーシッターを利用者が選べる環境を整備する。

その際、個人のベビーシッターの情報開示の取り扱いについては、個人情報保護の観点からも慎重な対応が求められる一方で、個人名(事業所名)、研修受講状況、基準適合状況、自身の情報を掲載しているマッチングサイトのURLなどについては開示する方向で、今後、厚労省が都道府県等とも調整して検討・整理を進めることになった。

指導監督の方法の標準化

都道府県等による認可外保育施設に対する立入調査は、児童福祉法に基づき、現地確認が実施されることになるが、ベビーシッターの特性上、個人宅での現地確認が難しく、現在の指導監督基準でも、認可外のベビーシッターに対しては、「都道府県等が必要と判断した場合に指導を行う」ことだけが記載され、その手法や頻度は示されていない。

一方で、子ども・子育て支援法の特定教育・保育施設等の指導指針では、集団指導と実地指導の組み合わせの手法が明示されており、認可外のベビーシッターについては、原則年1回以上の集団指導を実施することとした。実地指導が求められるケースとして、苦情内容が深刻な場合や苦情が多い場合、さらに研修を長期間受講していないベビーシッターが多い場合などについては、都道府県が必要に応じて、市町村と十分連携しながら事業所に立入調査を行うことを想定している。

集団指導については、一方的な講義形式ではなく、グループワークの実施を求めた。面談対象者をあらかじめ選定した上で、都道府県等の職員や保育所の園長経験者などの巡回支援指導員等による面談等を行い、受講者が持参した保育記録等に基づき、保育内容の確認を行うことも有効としている。

都道府県と市町村の連携強化

ベビーシッターを含む認可外保育施設の届出は都道府県等となっているため、子ども・子育て支援制度の実施主体である市町村との連携不足が懸念されるところだ。

改正子ども・子育て支援法(10月1日施行)では、市町村は幼児教育・保育の無償化の対象である認可外保育施設に対して、施設の確認、必要に応じた施設からの報告徴収、勧告、命令、確認の取消し、さらに都道府県に対する必要な協力要請の権限が付与される。また、認可外保育施設に関する苦情等は、都道府県等だけでなく、市町村にも寄せられることから、特に認可外の居宅訪問型保育事業の届出が多い都道府県等については、指導監督をする際、幼児教育・保育の無償化の観点から市町村による調査と連携することが有効かつ現実的と考えられると指摘した。

これは、認可外保育施設全般に関することになるが、研修受講状況を含む基準適合状況などの情報の共有をはじめ、都道府県等と市町村の連携を深める観点からも、都道府県等の児童福祉法に基づく権限と子ども・子育て支援法に基づく市町村の権限の関係について、10月の無償化の施行に向けて整理し、地方自治体に示すことも求めている。

この問題に関連しては、7/8付朝日新聞で、以下の指摘がされていたので、参考にしてほしい。「5年間の猶予期間中」に保育の質を下げないためにも、都道府県等と市町村の連携は欠くことができない。

認可外、「基準外」も無償化 条例で制限、75市区町で2市区のみ

(7/8付「朝日新聞」より)

現在の指導監督基準等では、認可外保育施設が多数存在し、年1回以上の立入調査を当面行うことができない都道府県等にあっては、

  • 対象施設を絞って重点的に指導監督を行うこともやむを得ないこと
  • 相当の長期間経営されている認可外保育施設であって児童の処遇をはじめその運営が優良であるものについては、運営状況報告の徴収は毎年度としつつ立入調査は隔年とする等の取扱いも不適当ではないこと
  • これらの場合にあっても、ベビーホテルについては、必ず、年1回以上の立入調査を行うこと

――としている。こうした状況を考えると、認可外のベビーシッターについて、現状これ以上の指導監督基準を設けても対応できない可能性が高い。都道府県等については、市町村とも連携し、集団指導の機会を1年に複数回設けるなど、できる限り年1回以上指導を行うことに努めることとしつつ、すべての個人のベビーシッターに毎年集団指導を受ける機会を提供することが困難な場合には、対象者を絞って実施したり、隔年で順次機会を提供したりすることなどもやむを得ないものとした。

市町村との連携や、指導の頻度の取扱いに加えて、利用者の同意や希望がある場合には、保育所の園長経験者等の巡回支援指導員による乳幼児宅等への巡回も可能だ。ただ、これには地方自治体における体制の確保が必要であり、巡回支援指導員の配置について、引き続き、国による財政支援が必要としている。「保育の質が低いにもかかわらず無償化してしまった」という状況に至らないためにも、必要な財政支援で人員を確保するなどして、指導監督体制を強化させる必要があるだろう。

ベビーシッターの資格・研修受講の基準の施行

ベビーシッターの資格・研修受講の基準の施行については、幼児教育・保育の無償化が施行される10月1日とし、5年間の猶予期間に関わらず、法人の事業者、個人のベビーシッターともに、速やかに研修受講を促し、基準適合を目指すことが求められる。

一方で、都道府県等による基準適合確認と指導監督基準等を満たす旨の証明書の交付については、都道府県等の監査計画は通常年度単位であることから、来年度が始まる2020年4月から適用するとした。

ベビーシッターのきょうだい利用とファミサポ

認可外のベビーシッターの基準では、原則1対1の保育を求めているが、一方で、ベビーシッター事業の実態として、きょうだい利用の場合の料金設定を行うなど、例外的な扱いが存在するのも事実だ。この「例外の扱い」の考え方を今後整理して示す必要があるとしている。

また、ファミリー・サポート・センター事業も幼児教育・保育の無償化の対象になることから、提供会員の質の確保・向上を図ることも必要だ。緊急救命講習と事故防止に関する講習の受講を必須とするほか、受講することが望ましい研修内容・時間等が示されている。相互援助活動というファミサポ事業の基本的な性格に留意した上で、緊急救命講習と事故防止に関する講習のフォローアップなどを検討するとしている。

そして、今回のとりまとめでは、「最後に」という形で、以下のようにまとめている。ここについては、原文のまま掲載したい。

認可外保育施設などの保育施設で、「0歳児」などの「預け初め」の時期に、「睡眠中」などで、死亡事故を含む重大な事故が毎年のように発生しており、ゼロにならない。必ずしも認可外の居宅訪問型保育事業での重大な事故が他の認可外保育施設と比べて多いわけではないが、乳幼児宅で、かつ、原則1対1で保育を提供する特性を踏まえ、個人のベビーシッターを含め、一定の研修受講を基準とすることを提言した。

乳幼児宅を訪問する保育事業や子育て支援などは、子育て世帯の需要にきめ細かく対応する社会的意義のある事業である。ただし、今般の幼児教育・保育の無償化での代替的な措置としての認可外保育施設等の整理を踏まえれば、無償化を契機に、本来の需要と乖離した形でこれらの利用が増えるようなことが生じないかなど、厚生労働省は、地方自治体とこれまで以上に連携し、無償化施行後の利用状況や基準適合状況等を把握しつつ、必要な情報の周知を含め、適切に対応することが必要である。

認可外の居宅訪問型保育事業に限らず、認可外保育施設全体について、都道府県等による指導監督の徹底と市町村との連携の促進を図るとともに、巡回支援指導の拡充などにより、死亡事故を含む重大な事故が起こらないよう、不断の努力を続けることを強く求めたい。また、行政はもちろん、保育に関係する者、皆が、改めて、安全かつ安心な保育の必要性を再認識し、必要な対応を徹底していただくことを期待したい。

出典:厚生労働省

無償化へ向けては子どもの安全を最優先に

10月に迎える予定の消費税増税を受けて、安倍政権が進めてきた幼児教育・保育の無償化。いまだ残る待機児童への取り組みを飛び越えて、さらなるニーズを掘り起こし待機児童が増える可能性もある。結婚や出産を経ても就業継続をしたい、または一度結婚や出産を契機に仕事を辞めたがまた働きに出たいなどのニーズが増えること自体は決して悪いことではない。だが、その気持ちを掘り起こしたものの、結局、待機児童でそのニーズに応えられない状況が産み出されては、再び「日本、死ね」という子育て世代の怒りが渦巻くことにもなりかねない。本来であれば、待機児童をクリアにした上で段階を踏んで無償化に臨むべきであった。

しかし、無償化が決まった以上、政策としてどう進めるべきなのか。無償の認可保育所などに入れるのか・入れないのかの保活の激化を避け、さらなる不公平感が高まらないようにするためには、認可外保育施設に対しても、一定の基準を設けて、無償化とするのは致し方ない面もある。認可外のベビーシッターも同様に無償化となる。この5年間の猶予期間に、研修を確実に受講させるなど、ベビーシッターの質を確保・向上させる仕組みは、今回のとりまとめに盛り込むことができたのではないかと考える。

あとは、それが徹底されるように行政が目を開き続けること、利用者に対して的確な情報を開示すること、そして、何よりも子どもの安全を最優先にすること。それが担保できるように取り組んでいく必要があるだろう。

労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。2003年3月日本大学大学院法学研究科修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者を経て、12年7月から2年間ファザーリング・ジャパン代表。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、内閣官房「「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会」委員、厚生労働省「子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。3児のシングルファーザーで、小・中・高のPTA会長を経験し、現在は鴻巣市PTA連合会会長。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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