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新しい働き方を模索する若者たち

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
「バルコニートーク」で語り合う若者たち(筆者撮影)

就職の売り手市場が続いている。リクルートキャリア就職みらい研究所の調査によると、この10月の内定辞退率は64.6%と前年同期よりも3.8ポイント上回ったという。正規雇用という安定した働き方が比較的容易に手に入り、しかも内定が辞退できるほど余裕がある状況というのは決して悪いことではないだろう。「ロスジェネ」とも呼ばれた筆者の時代は、まさに超就職氷河期で1つの内定を勝ち取るのも困難な時代だった。その時代と比べれば就職のハードルは下がっているように見える。

しかし、働き方や就労形態が多様化し、非正規雇用が4割にも上る中で、正規雇用という形だけではなく、さまざまな選択肢がいまの若者たちには提供されることになっている。社内外を通じて自分自身に合った働き方を選択することになるが、その選択は常にうまくいくわけではない。その選択を積み重ねていく、つまり成功と失敗を繰り返していくことで、より自律的な働き方に到達できるのではないだろうか。

従前の「会社の言うことに従う」だけの社員はますます端に追いやられつつある。労働組合の組織率が下がり続ける中で、助けてくれるものはまずは「自分」という状況にあるからこそ、自分で考えに考えていくことの重要性はますます高まっていくものと言える。

一方で、企業側も人手不足の中で、さまざまな手を講じて、社員により長く勤めてもうらおうと奔走することになる。もはや会社が働く人たちに単一の働き方を求める時代は終わり、1人ひとりのニーズに合ったものを提供しなければ、いい人材はより集まりにくくなるはずだ。

キャリアトレックが「バルコニートーク」を開設

そんな若者たちが働き方についてどのような思いを抱いているのかを確かめようと、20代のためのレコメンド型転職サイト「キャリアトレック」(株式会社ビズリーチ運営)が10月に創設した「BalconiiTalk(バルコニートーク)」という新たなコミュニティのオフラインイベントを取材した。

このバルコニートークは、「一歩先のキャリアを歩む先輩社会人や同世代との対話を通じて、20代の社会人が行動するきっかけを見つけられる場所を、オフラインとオンラインで提供する」(ビズリーチ広報)というもので、さまざまなテーマを取り上げて月1回のイベントを都内で開催するほか、フェイスブックを使ってオンラインの交流を図っていくとしている。「20代の社会人が、対話を通して行動するきっかけを得られる、サードプレイス(第3の居場所)を目指す」(同)という。

10月26日に渋谷区内で開催したオープン記念イベントでは、パネリストに株式会社FOVEのCEO&Co-founderの小島由香さんと、Retty株式会社の経営企画室長の奥田健太さんが招かれた。

目の動きで仮想世界を自在に操作する視線追跡型VR用ヘッドセット「FOVE」を開発した小島さん。自分にとって20代はどうだったかという質問に、「世界人になるのが夢だった。漫画やゲームが好きだったので映画の監督になることも考えたが、下積みが10年以上かかるので待てなかった」と話す。小島さんは、20代のときにプレイステーション向けソフトのプロデュースに携わった後にKickstarterキャンペーンで48万ドル強を集め、今年1月に「FOVE0」の販売にこぎ着けた。「選択自体に失敗はないと思う。『You can(あなたはできる)』という意識を常に持ちながら取り組んできた」と振り返る。

一方で、三菱商事出身で2013年にRettyに参画した奥田さんは、「辞めるときに選択肢が多そうな会社」として三菱商事を選んだとし、「そのまま三菱商事で予定調和な人生を送るよりも10年後にいま想像できない人生を送っていたい」との思いを持ち続けた。「自分で決められないことに対する違和感があった。自分で決めれば結果はどうであれ納得できる」と、いまの道を選んだ理由を話す。

2人とも指摘しているが、自分で決めること、それはつまり選択することにほかならない。結果がどうであれ、20代のうちにその経験を積めるかどうかで、30代を納得する形で迎えられるかどうかにも大きな影響を与えそうだ。

奥田健太さん(写真中央)と小島由香さん(写真右) 筆者撮影
奥田健太さん(写真中央)と小島由香さん(写真右) 筆者撮影

キャリアトレックが20代会員に行った調査では、約9割がキャリアを考えるうえで、「ロールモデルの存在が必要」との結果が出た。企業でもメンター制度導入が進んでいるが、今後の働くイメージをすべてその会社が受け止めることは極めて難しい。会社の中でそのような存在を見つけることも大事かもしれないが、このコミュニティでさまざまな人たちに触れ合うことによって、お互いに刺激をし合いつつ、ロールモデルを探っていくことも可能だ。だからこそ、サードプレイスは重要な意味を持つに違いない。イベントの中では、グループワークも行いながら、それぞれの働くことへの思いを語り合っていく。

今回の参加者は、普段から働き方についての問題を考えている、いわゆる「意識が高い」若者が多かったと思われる。しかし、これまでそうした場はまだまだ少なかったのではないだろうか。こうしたコミュニティの場を求めていた向きもある。参加者の男性(26)は、「会社では話すことができない思いをいろんな人と共有しながら話すことができた」と語り、新たにできたコミュニティの場に期待感を示す。

では、働くことだけを考えればいいのか?

晩婚化も進む中で、20代のうちは仕事に集中したいという思いも理解できる。ただ、仕事だけに取り組むのではなく、是非ともライフ(人生と訳しても、生活と訳しても可)の充実を図ってほしいものだ。

筆者は26歳で第1子が誕生し、その後31歳になる直前に第3子が産まれた。もちろん、子どもができたことで制約ができたことも事実。奇しくもシングルファーザーにもなった。しかし、制約があるからこそ、仕事の質を高めようという意識にもつながる。また、子どもがいるからこそ、働くことについての意欲がさらに高まり、現実の問題として具体的に変化を起こそうという行動変容も生まれる。

働き方について考えるときに、仕事についてだけを考えるのではなく、ライフとの関係や、ライフがどう働き方に影響するかについても是非考えてもらえたらと思う。多分に頭でっかちになりがちなところだ。決して、両立ができないわけではない。これからの働き方に挑戦するエネルギーの延長線上に、ライフのことについても考える機会を作ってもらえたらとありがたい。

10年や15年前には体験できなかったことを、いまの20代の若者が体験している様子を見るのは、本当にうらやましい限りだ。すべての参加者が目をイキイキと輝かせながら交流する姿は、逆にこちらがエネルギーをもらえるところもある。まさに新しい働き方が大きなうねりとなりつつあるときに、20代を迎えている彼らが利己的な働き方への追求になることなく、利他的な意識を持ちながら、どんどんとコミュニティが広がっていくことを期待したい。

11月21日に都内で開催されたバルコニートーク2回目のイベントの様子(提供:ビズリーチ)
11月21日に都内で開催されたバルコニートーク2回目のイベントの様子(提供:ビズリーチ)
労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。2003年3月日本大学大学院法学研究科修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者を経て、12年7月から2年間ファザーリング・ジャパン代表。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、内閣官房「「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会」委員、厚生労働省「子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。3児のシングルファーザーで、小・中・高のPTA会長を経験し、現在は鴻巣市PTA連合会会長。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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