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[高校野球]東北はいまや野球王国? この夏、1チーム平均勝利数はダントツ

楊順行スポーツライター
2014年、秀光中時代の須江航監督(写真:アフロスポーツ)

 東北勢の元気がいい。この夏の第105回全国高校野球選手権では八戸学院光星(青森)、花巻東(岩手)、仙台育英(宮城)の3校がベスト8に進出。センバツでは一度例があるが、夏の大会では史上初めてのことだ。昨夏にしても、仙台育英と聖光学院(福島)が史上初めて夏の準決勝で対戦していて、東北勢2校の4強入りは89年、13年以来だった。

 試みに、この夏の49代表の勝ち数を集計し、秋季地区大会の地区割りにあてはめて1校あたりの勝ち星の平均を算出してみた。

北海道(2校) 3勝/1校あたり1.5勝

東 北(6校) 12勝/1校あたり2

関東・東京(9校) 13勝/1校あたり1.44

東 海(4校) 1勝/1校あたり0.25

北信越(5校) 0勝/1校あたり0

近 畿(6校) 5勝/1校あたり0.83

中 国(5校) 4勝/1校あたり0.8

四 国(4校) 2勝/1校あたり0.5

九 州(8校) 8勝/1校あたり1

 北海道は分母が2と少ないから、優勝した慶応(神奈川)のいる関東より高い数字を残しているにしても、東北の1校2勝は突出している。準優勝した仙台育英が単独で5勝しているのも大きいが、このところの東北勢、コンスタントに勝ち星を重ねる印象だ。昨日掲載した『[高校野球]令和の甲子園で未勝利の県が2つあります。どこ?』https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3bc079a0c36907b32be4f2d9d99f497ec1034143にあるように、令和に入ってから春夏7回の甲子園勝ち星では19勝の宮城が2位のほか、青森と岩手が6勝5敗、山形が5勝4敗で勝ち越し、以下福島が5勝6敗、秋田にしても2勝5敗と健闘している。

監督のキャリアからもわかる強豪ぞろい

 この夏の大会前、東北勢の勢いを予言していたのが畏友・戸田道男氏だ。出場49代表の監督の甲子園勝ち星を比較し、

1位=39勝/阪口慶三(大垣日大・岐阜)

2位=37勝/中井哲之(広陵・広島)

3位=28勝/多賀章仁(近江・滋賀)、斎藤智也(聖光学院)

5位=24勝/仲井宗基(八戸学院光星)

6位=22勝/小坂将商(智弁学園・奈良)

7位=16勝/倉野光生(愛工大名電・愛知)

8位=15勝/佐々木洋(花巻東)、村中秀人(東海大甲府・山梨)

10位=13勝/比嘉公也(沖縄尚学)、須江航(仙台育英)

 と、東北の指揮官が4人も入っていること、加えて日大山形・荒木準也監督も大会前までに8勝しており、「今回の東北勢は実績十分の指揮官に率いられた強豪揃いということがわかる」と書いている。

 トップテンに入っていた4人はこの夏も勝ち星を上積みし、斎藤監督は29勝として歴代18位タイ(現役では6位タイ)、仲井監督は26勝で24位タイ(9位)、そして佐々木、須江両監督は18勝で44位タイだ。

 むろん、令和に入ってからの傾向だけで「東北が強くなった」と断ずるわけにはいかない。またたとえば聖光学院のように、夏の直近20大会のうち17回と、高い確率で甲子園に出場するから、勝ち星を重ねるチャンスも多くなる。大阪桐蔭と履正社なら、原則どちらか1校しか夏の甲子園に出られないのだ。

 東北各県の強豪も、ライバル意識は相当なものだ。昨年夏の仙台育英の全国制覇を、花巻東・佐々木監督はこう振り返る。

「それはもちろん、同じ東北勢としてうれしくはありましたが、先を越された悔しさもありました。次はウチだ、という思いでいっぱいでしたね」

 かつては、組み合わせ抽選で対戦が決まった相手が喜んだといわれるほど、弱小だった東北のチーム。だが、たとえば陸上競技の100メートルで、一人が10秒の壁を破ると、それまで苦労したのがウソのようにあとが続くという。

 東北の強豪は、ライバルでありながらひんぱんに練習試合を行い、切磋琢磨と情報交換を欠かさない。それが、地区全体のレベルを押し上げているのは確かだろう。白河の関は、ようやく越えた。次の東北勢の優勝まで、どうやら100年も待つことはなさそうだ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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