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夏の甲子園/第13日の雑談 連覇に王手。仙台育英・須江航監督の思考法

楊順行スポーツライター
(写真:アフロスポーツ)

「遠い頂上。まだ、見えません」

 神村学園(鹿児島)との準決勝を6対2で制し、東北勢初の優勝を手にした昨年に続く連覇まであと1としながら、仙台育英(宮城)・須江航監督はそういった。高橋煌稀、湯田統真らの投手陣、山田脩也、斎藤陽、尾形樹人らの中軸と、昨年の優勝メンバーが多く残り、盤石の戦いぶりながら頂上はまだ遠いという。

『AERA増刊号 甲子園2023』(去年までの週刊朝日増刊号ですね)の企画で須江監督を取材させてもらった。ベンチ入りが2人増えて20人、クーリングタイムの導入という、この夏からの新しい取り組みにどう対応するか、という趣旨。語彙が豊富で饒舌な須江監督のこと、ほかにも話は弾んだ。誌上では書き切れなかったいくつかを、ここでちょっとふれてみたい。

 昨夏、鳥取商との2回戦では、史上初めてベンチ入り18人を全員起用して勝った仙台育英。

「史上初めて、というのは驚きました」という須江監督にとっては、ベンチ入りした人間はすべてレギュラーという概念だという。この夏はさすがに20人全員を使うことはないが、スタメン以外の選手が力を発揮するのは仙台育英の大きな特徴だ。

「たとえば、ある大会では攻撃重視だとします。その場合、逃げ切る場面で控えるのはディフェンス力に長けた選手。逆もあります。終盤まで競って第4コーナーで抜け出すのなら、後半に打力なのか、走力なのか、一芸に秀でた選手を使いたい。究極は、また可能なら、アメフトのように表裏で9人全員を入れ替えたいんですけど(笑)」

 投手起用についてはどうか。昨夏は、優勝チームとしては最多の5人がマウンドに上がったが、今年もすでに5人が登板した。

「昨夏の例でいえば、組み合わせが決まった時点で対戦相手をざっくり分析し、準々決勝まではローテーションを決めました。ただしそれには条件づけがあり、投げた試合のパフォーマンスによって考え直すこともあります。もっともそれは、選手には伝えませんが」

 たとえば昨年なら、故障で宮城大会の登板がなかった斎藤蓉を甲子園の初戦で試運転させ、その時点で「斎藤蓉を軸にしよう」と決めたという。宮城大会で好調だった古川翼が下降気味だったこととの兼ね合いもある。そして斎藤蓉を軸と見定めたら、「関東で一番強い。必ずクロスゲームになる、ひとつの大きな山。ビッグイニングをつくらせないことがカギ」(須江監督)と見た明秀日立(茨城)との3回戦は、2対3の5回から斎藤蓉を投入。小刻みなリレーでしのぎ、終盤にひっくり返している。

フレッシュな投手をどんどんつぎ込む

 一番むずかしいとされる継投機については、どう見るのか。

「これまでの高校野球だと、エースから継投するとき、二番手は明らかに力が落ちるわけです。ただでさえ相手は打ちやすくなりますし、これだけ打力が向上すれば、なおさらでしょう。明秀日立戦では、クロスゲームと読んでいました。だから先発の湯田に2〜3イニング投げてもらい、フレッシュな投手をどんどんつぎ込みながら、負けているとしても僅差で後半に入りたかった。また、負けていたらピッチャーの打順で代打を使うので、必然的に継投になるわけです」

 ちなみに、交代機の判断基準は80球というのが経験則からの目安。

「数字としてのスピードは変わらなくても、シュート回転したり回転軸が変わったり。それでも、相手との力関係で抑えられるのなら続投でもいいですが、競った相手とのギリギリの戦いなら、そういう状態で投げさせるメリットはありません」

 継投を決断するとき、須江監督が頼りにするのは、この夏ならマスクをかぶる尾形の感性ももちろんだが、「ブルペン捕手の信頼度」も重視する。

「次に投げさせるつもりの投手のデキはどうか。ブルペンで受ける捕手の感覚が正確だと、大きな根拠になりますね。だから、だれをそこに配置するかは大切です。それと甲子園でありがたいのは、ベンチからの視野にブルペンがあり、こちらも把握しやすいこと。ブルペン捕手の判断に加えて私自身も目視できるので、実際に投げさせてみて"ウワッ、こんなはずじゃ"という誤差が少ないですね。これが地方大会になると、ブルペンの様子が確認できない球場もありますので」

 なるほどねえ。そういえば、短期決戦における打者の"旬"をどう見分けるかについても聞いた。明日の甲子園は休養日だし、もしこの原稿が好評なら続編を書こうかな。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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