夏の甲子園/第6日の雑談 浜風が吹いていたら。広陵・真鍋慧は1試合2発?
この夏の甲子園では、名物といわれる「浜風」がなかなか吹かない。
通常ならライトからレフト方向へ海風が吹くことが多い。それが浜風だ。浜風が強い日は風が舞い、高く打ち上がったフライは野手を翻弄し、ときに魔物がいたずらを仕掛けることもある。1996年夏、熊本工と松山商(愛媛)の決勝では、延長10回1死三塁でライトに大飛球が上がり、誰もが犠牲フライで熊本工のサヨナラ優勝を確信した。だが強い浜風に押し戻され、必死に前に出た右翼手からの「奇跡のバックホーム」と呼ばれるスーパープレーで併殺となり、結局松山商が優勝を飾っている。
だがこの夏は、まさかこれも温暖化の影響ではあるまいが、浜風とは逆、つまりレフトからライトに風の吹く日が多い。浜風ならば当然、左中間からレフト方向への打球が伸びる。古い野球ファンなら、阪神最強の助っ人といわれたバースが、甲子園のレフト方向に軽く押し込むだけでホームランを量産したシーンを覚えているだろう。だが風が逆なら、左方向への打球は押し戻されることになる。
その風に泣かされたのが、今大会注目のスラッガー・真鍋慧(広陵)だ。11日第2試合、立正大淞南(島根)との2回戦。2対3と1点を追う攻撃で、「つねにセンター方向に、低い打球を意識している」という真鍋の打球は、左中間方向へ。あわや、という飛距離だったが、フェンス手前で相手のセンターに抑えられた。このときの風は、左から右。ライナー性だったから影響は少ないかもしれないが、もし浜風が吹いていたら、もうひと伸びしてフェンスを越えた可能性はある。
浜風のイタズラも甲子園のドラマ
続いては、4対3と逆転した6回、広陵の2死満塁。
やはり左中間に上がった真鍋の大飛球は、センターが追うが左方向にどんどん切れていく。追いつけないと判断したセンターはあわててレフトに託す指示を出すが、こちらも捕り切れない。フェンスまで達する走者一掃の二塁打となり、広陵が貴重な3点を加えた。このとき、スコアボードの旗はだらりと垂れる無風状態。だが二塁走者だった田上夏衣は、風が変わり始めていると感じ、
「真鍋の打球は一瞬捕られるかと思いましたが、高く上がったし、もしかすると落ちるかもと思って走っていました」
確かに、風向きの変わり目だったのだ。一説には、内野席とアルプスの切れ目を風が通り、特定のエリアでは打球が伸びるという。真鍋の打球は最初センターが追いつきそうに見えたが、それが風に押されてどんどん切れていき、最終的にはレフトの守備範囲まで達してどちらも捕り切れなかった。
続く小林隼翔の打席では、そこまで左から右の風、さらに無風だった甲子園に突然、いつも通りの浜風が吹き始める。つまり……あと2分でも早く風向きが変わっていたら、真鍋の大飛球はスタンドまで届いていたかもしれない。この日の真鍋は、4打数2安打3打点。「たられば」は禁物だが、浜風が吹いていたら、2本塁打だったかもしれない。広陵・中井哲之監督はいう。
「逆方向にあれだけ打球が飛ぶのは、バットが内側から出ている証拠ですよ」
それにしても浜風。吹いても吹かなくても、外野手を悩ませる。そして続く第3、第4試合は、ずっと浜風のなかで行われた。