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高校野球の雑談⑤坊主頭はもう、高校球児の象徴じゃない

楊順行スポーツライター
強豪校にはまだ、短髪が多いが……写真は2019年夏・甲子園の奥川恭伸(星稜)(写真:岡沢克郎/アフロ)

 高校球児とくると、連想する頭髪は丸刈りだ。夏場は涼しいし、練習後に頭から水をかぶってもすぐ乾く。本人にとっては、いたって実用的なのだ。スポーツ刈りでは生ぬるく、5分や3分刈り、いやいや気合いを入れるには試合前日に5厘や3厘刈りにして臨む。スキンヘッドだって辞さない。

 もっともこれには、軍隊みたいで気持ち悪いと感じる人もいるようだし、中学まで野球を続けていながら、高校では「坊主がイヤだから」ほかのスポーツに転向するのもめずらしくない。

 だが近年は、高校生にしてはちょっと短いかな、という程度のヘアースタイルのチームもよく見かけるようになった。慶応(神奈川)あたりが代表格で、古い時代には甲子園で対戦した相手がその頭髪を見て、

「オマエらみたいに遊びで野球をやっているヤツらに、負けるわけにはいかねえんだ」

 とすごむのに対し、

「バ〜カ、野球は遊びに決まってんじゃねえか」

 と返した、という痛快な話をOBから聞いたことがある。上田誠・元慶応監督も、髪の毛についてはこんなふうにいっていた。

「自分の高校生のころを考えれば、オシャレもしたいし女の子とも遊びたい。指導者になったとたん、それに眉をひそめるのは傲慢でしょう」

いじれるのが眉毛くらいしかなくて……

 確かに。ある時期、高校球児が眉をきれいにそろえるのが目立ったが、本人に聞くと、

「着るものはいつも学生服かユニフォームかジャージ。頭は坊主。手を入れるとしたら眉毛くらいしかないんです……」

 と苦笑いしていたものだ。

 柳川(福岡)も、1990年代から長めの頭髪にしていたチームのひとつ。同校では、授業の一環で海外研修に出かけるようになったが、そのときに制服に丸刈りではいかにも見栄えが悪い……と、当時の末次秀樹監督、修学旅行に限らず日常から生徒の裁量に髪型をまかせたのだ。すると、

「坊主頭はよく目立つから、目立たないように日常的に引っ込み思案になる。だけど髪を伸ばしてからは、不思議に積極的になりましたね」

 ほかに仙台育英(宮城)など、髪が長めの有力チームも増えてきた。

 で、日本高野連が加盟3818校を対象にしたアンケート結果だ。それによると、部員の髪型を「丸刈り」としているのは1000校で、これは5年前の同様の調査から200校以上減ったという。スポーツ刈りや長髪を認める学校が、4分の3あったということだ。

 初めて調査した93年は、「丸刈り」の回答が50パーセント以上だったから、今回はほぼ半減している計算。脱「丸刈り」が進んだのは、世の中が人権擁護などに敏感になったためか。野球人口の急減も叫ばれているいま、「坊主頭は高校球児の象徴」ではないのかもしれない。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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