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[甲子園]第10日 高松商、四国4商のうち高知商に並ぶ61勝目。準々決勝は、投打のNo.1の対戦だ

楊順行スポーツライター
2016年センバツでの高松商・長尾健司監督(写真:アフロ)

「初戦の反省が生きて守り勝つ野球はできましたが、守りがいいとなんで攻撃がおろそかなんだろうと不思議でした」

 九州国際大付(福岡)に2対1で競り勝ち、夏は52年ぶりのベスト8進出を決めながら、高松商(香川)・長尾健司監督は辛口だ。

 それでも初回は、佐久長聖(長野)との初戦で2本塁打した大会屈指のスラッガー・浅野翔吾が、ヒットで出るとすかさず二盗を決め、山田一成の左前打で判断よくホームインして先制。

 また1対1の4回は、2死一塁から浅野が勝負を避けられた一、二塁で、二番の井櫻悠人が執念で右前に落とす。これが、そこまで手こずっていた香西一希からの決勝タイムリーとなった。長尾監督の談話は、いつもおもしろい。

「井櫻には"浅野は歩かされるからな"と、準備をさせていました。彼は夜中まで、(学校の)ピロティーでメディシンボールを投げていて、ガラスを割ったことがあります。片づけに12時まで付き合ったので、その迷惑を取り返してくれた。気持ちで打ったナイスヒットでした」

 佐久長聖戦で春夏通算60勝に達した高松商にとって、これが61勝目。とはいえ、54勝目から次の白星までは、20年というブランクがあった。

松山商とともに四国をリードしてきた

 野球王国・四国では、4県それぞれに高校球界をリードしてきた商業高校がある。オールドファンなら、総称して四国4商と呼ぶことをご存じだろう。

 4商の全国での実績をあげると、

・愛媛・松山商 センバツ優勝2回、準優勝1回/選手権優勝5回、準優勝3回/甲子園通算80勝35敗 

・香川・高松商 センバツ優勝2回、準優勝3回/選手権優勝2回/甲子園通算61勝44敗

・高知商 センバツ優勝1回、準優勝2回/選手権準優勝1回/甲子園通算61勝36敗

・徳島商 センバツ優勝1回/選手権準優勝1回/甲子園通算41勝41敗

 いずれもそうそうたる実績を誇り、OBのプロ野球選手もあまたいる。ただ意外なことに、4商の甲子園でのそろい踏みは、1県1代表になった78年夏の60回記念大会のみ。またこのところ、徳島商は11年夏、松山商にいたっては01年の夏が最後の甲子園とやや寂しい。

 高松商にしても、16年のセンバツで準優勝しているが、実はこのときが96年夏以来、20年ぶりの甲子園だった。復活への第一歩は14年、長尾監督の就任だろう。県内の中学校を20年以上指導し、2校を全国大会に導いた手腕を頼り、「地元から甲子園に行こう」と有力な中学生が高松商に進学。そこから足取りが力強くなってきた。

 この日は、初戦後の体調不良で2人がベンチを離れたが、

「長尾先生はいつも、全員を平等に練習させてくれている。かわりに誰が出ても安心でしたし、自信もありました」

 と、主将も務める浅野。そして、長尾監督はいう。

「ここまできたら、ウチより上のチームばかり。とにかく、目の前の一戦を全力で戦います」

 高松商は準々決勝の第2試合、センバツ準優勝の近江(滋賀)と対戦する。ということは……大会ナンバーワンといわれるスラッガー・浅野と、同じくナンバーワン投手・山田陽翔の激突が楽しみになってきた。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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