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[ドラフト候補カタログ] 東京ドームの申し子になれるか 藤井健平(NTT西日本)

楊順行スポーツライター
2014年夏の甲子園で優勝した大阪桐蔭高。このどこかに藤井健平がいるはず……(写真:岡沢克郎/アフロ)

 藤井健平の社会人全国デビューは鮮やかだった。昨年の都市対抗。NTT西日本は1回戦を勝ち上がり、2回戦はHonda鈴鹿との対戦だ。2点を先制された直後の3回、追撃の適時二塁打を放つと、1点リードの7回、1死一塁で4球目にセーフティーバントを試みる。これはファウルになったが、それが幸いというべきか、そこまで打者8人を無安打と好投していた堀田晃(西濃運輸から補強)の直後のチェンジアップをとらえ、決定的な追加点となる2ランを右翼席にぶち込んだ。小技から一転大技。

「バントは、つなぐ意識。次も、ゴロを打とうとしたのが、浮いたチェンジアップがうまく引っかかってくれました」 

 という藤井は、守りでも魅せる。初回、1死二塁から貞光広登の右前打を処理すると、「(東海)大学時代は125メートルだった」という自慢の強肩で二走の松本桃太郎を本塁に刺したのだ。「守備は自分の持ち味。送球は、力みすぎるところがあるのでさじ加減がむずかしいですが、見せられてよかったです」(藤井)。ホームランの裏の守りでも、畔上翔の打球を前進してダイビングキャッチで貢献し、チームは2年続けてベスト8。藤井自身も3試合8打数6安打3打点と、攻守にわたる活躍で若獅子賞(新人賞)を獲得することになる。

頼もしいのは、大舞台での強さ

 実は、近畿2次予選は9打数1安打と、「状態はあまりよくなかった」という。そこで、「打ちに行けていなかったフォームを、打ちに行くように体のバランスを見直して、なんとか上向きました」。大阪桐蔭高時代の14年夏には、現大阪ガスの田中誠也とともに2年生で日本一を経験した。東海大でも3年春にMVP、4年秋はベストナインとキャリアを積んだ。だが社会人1年目は、ピッチャーの精密さに驚いた。

「大学でも速いピッチャーはいますが、社会人はコントロールいいし、オープン戦ではアバウトでも、公式戦になると全然違う。1球の失投も許さない集中力ですから」

 それでも「さほど苦しまず」1年目から定位置を獲得するポテンシャルは並みじゃない。昨年は下位を打つことが多かったが、今季はおもに三番。

「初回に必ず回ってくるので、よりいっそう準備と研究が必要になってきます。ことに近畿のピッチャーは、頭を使って投げてきますから。1年目は勢いだけでしたが、今季はチームを引っ張る立場で、思いは全然違いますね」

 日本選手権では、セガサミー・横山楓の外角の強い球に差し込まれた。外の球に、手だけで打ちに行ってしまう課題克服のため、力を入れたのはウエイトだ。筋力の強化により、

「たとえば飛距離などに目に見える変化はありませんが、体のハリが少なくなり、調子の波がなくなっていると思います」

 社会人でプレーする同期生は刺激になるといい、

「大阪ガスとのオープン戦では、(高校時代のチームメイトの)田中に抑えられました。インコースにびしびし来るんです(笑)」

 近畿2次予選の大阪ガス戦では、チームは敗れたもののその田中からヒット。ただ、チームは近畿第5代表に滑り込んだが、藤井個人は田中からの1本を含め、6試合24打数でヒットわずか3本と苦しんだ。ん……? 待てよ。昨年の2次予選も、9打数でわずか1安打と不調じゃなかったっけ。ということは、ドーム本番でまたも活躍する、かもしれない。

ふじい・けんぺい●大阪桐蔭高→東海大→NTT西日本●176cm76kg●左投左打●外野手

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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