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センバツ高校野球 第4日のお気に入り/本調子じゃなくても4安打完封、小園健太のすごみ

楊順行スポーツライター
(写真:アフロ)

 なんでも、BIG4と呼ばれているらしい。今センバツには、超高校級のピッチャーが4人いるといわれている。市和歌山・小園健太、大阪桐蔭の左腕・松浦慶斗と右腕・関戸康介、それに中京大中京・畔柳亨丞だ。そのうち3人が、今日の第4日に集中して登場した。

 なかでも、大会ナンバーワンの呼び声高いのが小園だ。2020年夏、大阪桐蔭との練習試合で152キロをマーク。一躍注目されるようになると、秋の近畿大会では3試合、智弁和歌山の4安打完封含む22回を投げて1失点。公式戦合計では防御率1.17、奪った三振はゆうに投球回を超えるなど、与四死球率も合わせてすべて出場投手中のベストテンに名を連ねている。まっすぐだけではなく、スライダーやツーシーム、カットボールなど、どの変化球でもカウントが取れる制球も持ち味だ。

 この冬は球の回転数を上げようと、ボールの握りを変えた。親指の位置を従来より下にずらすと、指先にボールが残る感覚が加わり、「球の伸びが変わり、キャッチャーはミットの奥まで押されるようだといいます」。14日には愛知の強豪・享栄と練習試合を行い、先発で7回5失点と調整途上だったが、中京大中京を率いて09年夏の甲子園を制した享栄・大藤敏行監督は「あれだけいろんな球種で低めに丁寧に放られたら、点は取れない。高校生で日本一の投手、ピカイチですよ」と舌を巻いていた。

 市和歌山の相手は、県岐阜商。秀岳館を率いて甲子園では3度ベスト4入りの、鍛治舎巧監督が率いるくせ者相手に、立ち上がりは明らかに本調子を欠いた。「制球力が持ち味」のはずなのに、緊張からか初回先頭打者に四球。ストレートは140キロ台後半を計測するものの、2〜4回は得点圏に走者を背負う苦しい投球が続く。小園によると、

「甲子園練習もなく、どんな感覚なのかどんな景色なのか、手探りでのマウンドでした。すごく広く感じて戸惑い、球が上ずってしまったんです」

研究され、揺さぶられても動じない

 だが、3回。1死二、三塁と内野ゴロでも1点を失いかねない場面でギアを上げた。二番・宇佐美佑典を空振り、三番・山本晃楓は146キロのまっすぐを見逃して連続三振。ピンチを切り抜け、乗った。小園はいう。

「研究されていました。チェンジアップや小さい変化球を振ってくれない。でも、だったら大きい変化球でいこう」と、スライダーを軸にシフトチェンジ。すると鍛治舎監督が「ストレートに振り負けることはなかった。だけど本来、小園君は変化球ピッチャー。それに十分対応できませんでした」というように、得点圏に走者を背負っても要所を締めた。そのあたりに、小園も手応えをつかんでいる。

「終盤は甲子園の雰囲気にも慣れて、変化球でカウントも取れ、まっすぐで押す本来の投球ができたと思います」

 しつようにバントで送り、打席の途中から2度も代打を繰り出すなど、鍛治舎監督が崩しを仕掛けてきても、そこは「むしろ、エンドランをかけられるよりもバントのほうが、また途中の代打でも初見の打者のほうがありがたかったです」と動じる気配はない。市和歌山打線は、0対0の9回裏1死一、二塁から亀井新生がサヨナラ打を放ち、小園は9回を4安打8三振で完封勝利だ。

「自分は硬いマウンドが好きなので、甲子園は合っています」

 と話す小園。大阪桐蔭は敗退し、BIG4のうち松浦と関戸は本来のピッチングができないまま甲子園を去った。残るは小園と畔柳。どちらも勝ち上がれば、激突は準決勝だ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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