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ん? 甲子園で女子高校野球が実現したら……

楊順行スポーツライター
2018年夏、100回大会の甲子園で始球式を投じる太田幸司さん(写真:岡沢克郎/アフロ)

「女子高校野球のために、あの球場を決勝で使わせてくれたら……」

 そう話してくれたのは、太田幸司さんだ。ご存じのごとく、三沢高時代の1969年夏、甲子園決勝まで進出し、松山商との決勝では延長18回引き分け再試合を演じ、準優勝に終わったものの国民的なヒーローとなった伝説の投手だ。卒業後は近鉄などで通算58勝を記録し、現在は解説者として活躍している。

 夏の甲子園で、準決勝翌日に休養日が設けられたのは昨年のことだ。今年からは、選抜高校野球大会もそれに準ずる。太田さんにお会いしたのは、そのニュースが報じられてすぐのこと。こんなふうに続けた。

「私は2018年、100回記念大会の甲子園決勝戦で、始球式を務めさせてもらったんです。久しぶりにヒザががくがくするような体験で、やはりあそこは特別な球場なんですね。女子選手にも、あの舞台をなんとか経験させてあげられれば……と、強く思いました」

 09年、日本女子プロ野球創設時にスーパーバイザーに就任し、選手の育成とともに、各メディアで女子野球の魅力を伝えてきた太田さんだからこその思い入れだった。そして……日本高等学校野球連盟と女子硬式野球連盟が、2月にも初めて本格的な情報交換会を行うというニュースがスポーツ紙で報じられた。そこでは、将来的な女子野球の甲子園開催も視野に入れた話し合いを持つようだ。太田さんらの夢が、実現に一歩近づくことになる。

競技人口は増加の女子野球

 女子の競技人口の増加を受け、全国高等学校女子野球選手権大会が創設されたのは97年だから、すでに20年以上の歴史がある。そもそも日本高野連は、危険防止の観点から、主催の野球大会に女子部員が参加することを認めていない。そこで98年には、国内の高校に所属する女子硬式野球チームの統括競技団体として、全国高等学校女子硬式野球連盟が設立された。現在、同連盟加盟校は全国で32校+1チーム。神村学園(鹿児島)、花咲徳栄(埼玉)、福井工大福井、作新学院(栃木)、履正社(大阪)など、甲子園常連校も多い。00年には、甲子園のセンバツにあたる全国高等学校女子硬式野球選抜大会もスタート。3〜4月に、埼玉県加須市で行われる。どちらも参加校数が少ないため地方大会はないが、11年からは大学生、社会人、プロまでが一体となった総合選手権・女子野球ジャパンカップが行われている。太田氏はいう。

「恥ずかしながら私は、女子プロ野球のスーパーバイザーのお話をいただいたとき、女子の硬式野球についての知識があまりありませんでした。ですが創設から10年、プレーのレベルや競技人口がここまで向上するとは……想像がつきませんでしたね」

 なにしろ、09年には加盟校6、競技人口は600人といわれていたのが、昨年には32校、3000人と急増しているのだ。男子の場合、学童(小学生)も含めた競技人口は逆に急減しているのに、女子野球では小学生も含めれば2万人以上にふくれ上がっている。となると……野球人口の回復に頭を悩ませる高野連としては、女子高校野球を甲子園で開催すれば、なにかのヒントを得られるかもしれない。ふたたび、太田氏。

「初めて女子の高校野球を見たときは衝撃でした。とにかく、選手たちが楽しそうなんですよね。ああ、野球ってこれだよなぁ! 自分も、ボールを追っているだけで無条件に楽しかった小、中学校時代を思い出しました。まずは、夏の甲子園の休養日1日だけでも女子野球のために開放してくだされば、こんなすばらしいことはないと思います」

 もしそれが実現したら……太田さんにはぜひまた、始球式をお願いしたいところだ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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